第2話 はじまりの街
アルティリア王国領・ファスティアの街。ここは誕生して以来、アルディア大陸の交通の要所として発展し、今では王国最大の都市へと成長した。
中央の巨大酒場から放射状に伸びる街路は人混みに
また、彼らの出す〝依頼〟や近隣の遺跡・洞窟、ダンジョンなどの探索を求め、ここを〝
それゆえに、いつしかファスティアは〝冒険者の街〟と呼ばれるようになった。
そして、エルスとアリサ。
二人の〝冒険者〟としての旅も、このファスティアからはじまった。
街に到着したエルスらは
この男こそが、ファスティア自警団の団長である〝カダン〟本人だ。
「おお、エルス殿! お元気そうで何よりですな!」
「ああッ! 団長もな!」
カダンがにこやかな笑顔をみせると同時に、彼の
「こんにちは、団長さんっ! お久しぶりです」
「アリサ殿も、ますます鍛えておられるようですな! 自分も気合いを入れねば!」
アリサの背負う
エルスたちは互いの
「そうですか! お手紙は拝見いたしましたが、ニセルの奴も元気なようで!」
「なんたッて、頼りになる仲間だしなッ! 今は〝ギルド商館〟ッてやつの片づけとかを手伝ってくれてンだ。団長にも『よろしく』ッて言ってたぜ!」
ニセルはエルスの仲間の名であり、彼らの中では一番の年長者となっている。経歴の長さゆえに世界中に知り合いが多く、カダンとも友人関係にあった。
「
この街からはじまった一連の事件における
「じつは旅の途中にさ、
エルスは冒険バッグから一冊の日記帳を取り出すと、それをカダンに手渡した。
「たぶん、団長が持ってた方が、
「フムフム? 拝見いたしましょうか」
日記を開いた
「これは、ザインの……」
「ああ……。あの人の〝
かつての自警団員にして、
「そうでしたか。やはりザインは、正義を信じて
「悪に身を
エルスの肩に
「きっと〝あの時〟も悩んで、
「ええ、そう信じております。ありがとうございます。エルス殿!」
カダンは
「それにしても! あの〝
エルスの成果を一つ一つ上げ連ねていたカダン。
「いやぁ! あっという間に、大きく成長されましたな!」
「ちょッ……!? やッ、やめてくれェ……!」
カダンによる
「だっ……、大丈夫?」
アリサはエルスに近づくと、彼の服やマントのシワを伸ばす。幸い、目立った汚れや
「ハッハッハ! 申し訳ない! 若者の成長を目の当たりにすると、つい嬉しく!」
「死ぬかと思ったぜ……。まッ、上手くいったのは、どれも仲間のおかげさッ!」
エルスはアリサの肩とミーファの頭を軽く叩き、カダンに向かって歯を見せた。
「ええ! とても良い仲間に恵まれたようですな! もちろん、皆様のためならば、我ら〝ファスティア自警団〟も協力を惜しみませんゆえ!」
「へへッ、頼りにしてるぜ! ありがとな、団長ッ!」
エルスはカダンに対し、見よう見まねのアルティリア式の敬礼を決める。
「それじゃ、そろそろ俺たちは行くぜ。次はナナシたちに挨拶しねぇと」
「ナナシ? おお、カルミド殿の! それではお三方、またお会いしましょう!」
カダンは左の
「はいっ! それでは失礼しますね、団長さん!」
「またなのだ! この街の正義は任せたのだー!」
天上の
*
「ふぅ……。危ない所だったぜ。団長に
エルスは
「だねぇ。それに、ナナシさんのことも」
「あッ……。そういやニセルに『ナナシの記憶が無いことは団長に言うな』ッて言われてたッけ……。ウッカリしてたぜ……」
アリサの言葉で肝を冷やしたエルス。ミーファの尻を支える手にも力が
「うん。あの写真の〝師匠〟って人が、
「ドミナさんの師匠か……。つまり、ナナシも――」
アリサも
「人が
「ううー。巨大な悪の陰謀を感じるのだー」
ミーファは
「
「そうだね。あんまり詳しく知らない方がいいような?――あっ、見えてきたよ」
アリサは会話を打ち切って、前方を指さしてみせた。
*
左右に広がる耕作地。その右側の先に、木造の家屋が確認できる。家の前には農作物用の木箱が積まれ、一人の青年の姿がある。どうやら彼は、収穫したばかりの〝アルティリアカブ〟を木箱に
「おッ、いたいた! おーい! ナナシーッ!」
「ん……? あっ――」
エルスが大声で呼びかけるなり、青年・ナナシが作業の手を止めて立ち上がる。
ナナシは農作業服に麦わら帽子という、標準的な〝農夫〟の格好をしている。帽子の合間からは黒い髪が
「やぁ。久しぶりだね、エルス。――冒険は順調かい?」
ナナシは土にまみれた手袋を外し、小さく手を挙げながら笑顔を見せた。
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