第39話 揺蕩いし命の弥終に
襲いかかる闇の手足と、降り注ぐ光の雨。
《まだ間に合わせの
頭の中に響く声。それは
《いいか? おそらく
意味を理解できなかったのか、首を
「えー、つまりだなッ……。
「そういえば、さっきわたしが狙ったのも
「ナニを
これまでの〝
「チッ! まだやられてたまるかよッ!」
《ヤツの足を止めてくれ。オレが〝切り札〟で、ヤツの上半身を吹き飛ばす》
「絶対に止めてやるッ!」
エルスは大声を上げながら、敵に対して突撃を繰り返す。
《最後はエルス、お前さんが決めろ。ヤツに
*
「ふっ、どうにか伝わったようだ」
「すごい……。
クレオールは感激した様子でニセルの顔を見上げ――そして、絶句した。彼の左眼や左耳からは真っ赤な血が流れ出し、わずかに焦げ臭さも感じる。
「試作段階らしくてね。まっ、これくらい問題ないさ」
「あっ……。せめて治療を――」
呪文を唱えようとしたクレオールを、ニセルが右手を挙げて制止する。
「いや、これはドミナしか
「わかりました……。必ず、生きて帰りましょう……!」
クレオールの言葉に大きく
「ハッ! 俺様にもなぁ……、とっておきの切り札があるんだよ!」
「ふっふー! ミーが足止めしてやるのだー!」
「愚カナ。
ジェイドは攻撃を
それに気づいた彼は小さく頷き、二人に合図を返す。
「アリサ。あとで俺を、思いっきり放り投げてくれ!」
「えっ? うん、わかった!」
「よーし、いくぜ。――今度こそ最終決戦だッ!」
このエルスからの掛け声によって、仲間たちが
「ミーたちの正義を思い知るのだー! ずっどーん!」
まずはミーファが飛びあがり、
「そぉりゃー! 正義の大地に沈むがいいのだー!」
ミーファは巨大な魚を釣り上げるかの
「さあ! 我が右腕に秘められし力を見よ! レイヴィスト――ォ!」
ジェイドは
さらには彼の右手首から先が、高速で回転をしはじめた。
「おー! それはまさに〝ドラムダ
「喰らいやがれ! 必殺のォ……!
ジェイドは全身に風の結界を纏い、
「馬鹿ナッ! こんなふざけタ……!」
「どおおォりゃあっ――! よォーっし! 今だ、
「
ニセルの声に反応し、左の
しかし、同時に多大なる負荷によって、ニセルの左腕も爆発を起こす――。
「今だッ! 頼むぜアリサ!」
「いッ、けえぇえ――ッ!」
アリサはエルスの身体を軽々と
「ゼルデバルド――ッ!」
闇魔法・ゼルデバルドが発動し、エルスの右手に暗黒の剣が出現した。周囲の
エルスは剣を両手で構え、体内に隠された
「これかッ……!? ついに見つけたぞッ! これで戦闘終――」
暗闇の中に沈む、見覚えのある巨大な
「
闇の汚泥の中に浮かぶ、小さな〝
「なんだ……? なんなんだ、こいつは……」
暗黒の剣を振り上げたまま、エルスの動きが硬直する。彼の両目は見開かれ、
「エルス――ッ!」
闇の外側から、アリサの声が響いてくる。
エルスが頭上へ目を
仲間たちが繋いでくれた勝機。
迷えばエルスが敗者となる。
「チクショウッ! 戦闘ォ! 終了――ッ!」
エルスは意を決し、
「
大広間に
それは造られし生命の
やがて
*
「エルス! 大丈夫……?」
「ああ、なんとかなッ! みんなのおかげで、どうにか勝てたぜッ!」
「おー! ついに正義が勝利したのだ!」
ミーファが高らかに
「ハッハッハ! 見事だったぞ、エルス!」
「うんっ! ちょっとびっくりしたけどねぇ」
「ああッ、
エルスは周囲の様子を確認する。すると広間の右手側に、ニセルとクレオールの姿が見えた。二人は合図をしたのを
「その腕は……。さっきのスゲェ〝光〟のせいか?」
「ああ。――まっ、直せば問題ないさ。それより、見事だったぞ。エルス」
「ありがとうございます、エルス。……
微笑むクレオールではあるが、どことなく表情が引きつって見える。
そんなクレオールの肩を、エルスが優しくポンポンと叩く。彼には彼女の表情の意味を、なんとなく理解することができたのだろう。
「あっ。ザグドさん……?」
アリサは二人の足元に横たわっているゴブリンの姿に気づく。ボロボロになった彼の胴体には、もはや頭と左脚しか残っていない。
「彼は……。この
「まだ息はある。しかし、もう間に合わんだろう。いっそ楽に――」
「まッ! 待ってくれニセル!」
エルスは
「急いで帰ろう! 仲間……、なんだよな……? ニセル」
「エルス。……ああ、そうだな。ありがとう」
右手に
「おいエルス! こいつを使え!」
ジェイドが放り投げてきた指輪を、エルスが左手で
「俺様は
「ジェイド! わかった、ありがとなッ!」
ジェイドは親指を立て、ニヤリと口元を上げてみせる。続いて彼は〝
そしてエルスはザグドを連れ帰るため、急いで仲間たちを周囲に集める。
「アリサ、クレオール! ザグドに治療を頼む! それじゃ行くぜ!」
「わかった!」
「はい!」
エルスは指輪を握りしめ、
「風の力よ、
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、風の結界がエルスたちを包み込む。床から
「シシッ……。皆さま、申し訳ねえのぜ……」
ニセルに抱えられながら、ザグドが弱々しげに
「もう少しだけ耐えてくれよ! すぐにドミナさんの所へ連れてくからさッ!」
「ふふー! ご主人さまに、ミーの
不安定な結界の中、ミーファが軽々と
「うおッ! 危ねェ……! あれ? でも本当に、制御が楽になった気がするぜ」
術の安定を確信し、エルスはさらに出力を上げ、移動の速度を上昇させる。やがて
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