第31話 強き心の継承者

 「片づけるッて、このどうへいを二人でかッ!?」

 ルゥランの言葉に、エルスは驚きを隠せない。少なくとも、この場にカプセルは二十基は並んでいるのだ。

 「――ッていうか、そのデケェ杖、いつ出したんだ……?」

 「ああ、さきほど取って参りました! 散歩用には少々重すぎましてねぇ」

 「取ってきたッて……。そういや、あのおりの中にも、いきなり出てきたよな……」

 エルスは今さらながらの疑問を口にする。ルゥランはいつも通りの笑顔を絶やさず、一歩進み出た。

 「ふむふむ。この程度の数なら、ワタシだけでも大丈夫でしょう!」

 ルゥランは巨大な杖を構え、ゆっくりとを示すように呪文を唱える――!

 「デストミスト――!」

 闇魔法・デストミストが発動し、杖の先端から紫色の光がほとばしる! 光は周囲の魔導兵に照射され、続いて生じた紫色の泡が全身を包み込む!

 ――やがて魔導兵らはしょうを噴き出し、泡と共にくうへ消え去った!


 「今のが『かいじゅ』の闇魔法です! やはり『はじまりの遺跡』のと同じ性質だったようですねぇ」

 「もしかして、にも来てたのか?――ッていうか……」

 エルスはすっかりからになってしまった広間を見わたす。

 「――本当に一瞬で片づけちまった……。とんでもねェ魔法だな……」

 「本来は呪われた道具を破壊する魔法なんですけどね。おそらく同じ性質ではないかと!」

 「呪い?――そうか、瘴気で操られてるッてことは、不死人類アンデッドなんかと同じか……」

 通常であれば命が尽きた人類は、霧となって消滅する。だが、極端に瘴気の濃度が高い場所では霧へかえることができず、生けるしかばねとなってしまうのだ。

 「いいですねぇ! 魔術士にとって、その冷静さや観察眼はとても重要ですよ!」

 手を叩いて褒めながら、エルスの顔を覗き込む。ルゥランの右眼に着けられた片眼鏡モノクルが、光を反射してかわずかに輝いた。

 「冷静さ、か……。今は捕まった仲間を早く取り戻さないといけねェしな」

 エルスは拳を握りしめ、先へと続く通路をにらむ。

 「――まずは目の前のことをなんとかしねェと! アリサたちと合流だ!」

 「では、ワタシは残りの部屋を片づけて回りましょうか!」

 「残り? まだ残ってやがンのか?」

 「ええ、似たような施設がおそらく三箇所。かなり本腰を入れて建設したようですねぇ、研究所ここ!」

 そう言いながら、ルゥランは周囲を見わたす。彼には何かがえているようだ。


 「わかった、それじゃ頼むぜ! 俺は仲間の所に!……ああ、そうだ――」

 エルスは冒険バッグから、武器収納の腕輪バングルを二つ取り出す。

 「――これ、使ってくれよ! ルゥランになら渡しても大丈夫だろうしさッ!」

 「おや、これは興味深い! ありがたく頂戴しましょうかねぇ」

 受け取ったルゥランは両腕にめ、右手の杖を収納してみせた!

 「おお、これは素晴らしい! ありがとうございます、エルスさん!」

 「へへッ!――まッ、貰いモンなんだけどなッ! それじゃ行ってくるぜ!」

 エルスは大きく手を振り、一目散に通路へ向かう!――ルゥランは小さく手を挙げ、彼の背中を見送った。


 「らくいん――タイプ・リーランド。やはり彼がお持ちでしたか! それにしても……」

 ルゥランは片眼鏡モノクルを取り外す。鼻当てと一本のつるが付いており、鼻と右耳で固定する形のようだ。

 「――あれほど多くの要素ものを抱えておいでとは! いやぁ、さすがに少し疲れちゃいましたねぇ!」

 陽気に笑いながらも、額から流れる汗が止まらない。ルゥランは目眩めまいを抑えるように額に手を当て、汗をぬぐう。

 「さて、どこまでミルセリアさんにお伝えしたものか。――またお会いしましょうねぇ? エルスさん!」

 そうつぶやき終えると、ルゥランの姿は虚空へ消え去った――。



 ――どうへい研究所・入口近くの大広間。

 エルスが囚われたあと、残された二人は敵との激戦を繰り広げていた!

 「はあぁ――ッ!」

 アリサは気合いと共に何度も斬撃を繰り返す!――魔導兵の腕に少しずつ亀裂が増え、やがて砕け落ちる!

 「そこッ! せやぁ――ッ!」

 がら空きになった胴に、渾身の突きを放つ! 細身の銘剣エレムシュヴェルトに貫かれ、魔導兵は機能を停止した!

 ――床に崩れ落ちた残骸からはしょうが噴出し、辺り一帯に滞留しはじめる……。

 「はぁ……はぁ……! 倒しても、これじゃ……」

 まだ周囲では、大量の目玉が獲物を求めている! 瘴気によって魔力や体力、身体能力を奪われ、もう魔導兵の攻撃をさばくのも厳しい……。

 ――そして、ついに鋼鉄の拳がアリサを捉えた!

 「痛っ……! くぅっ……」

 「ふぅむ。瘴気の渦の中で、それほどの戦力を発揮するとは。ですが、そろそろ限界のようですね」

 膝をつくアリサをり、ボルモンクさんせいは冷笑を浮かべる。

 「ふっふー! まだまだなのだ!――アリサ、ドワーフの底力を見せてやるのだー!」

 「ドワーフだろうとブリガンドだろうと、しょせんは神のかいらいです。魔導兵それらと何も変わらない」

 「もう悪の言葉など、聞く耳もたぬのだ!――リカレクトぉ!」

 ミーファは魔法を解き放ち、アリサの身体を守護の結界で包み込む!――さらに彼女は呪文を唱える!

 「正義の力を受け取るのだ!――レイリゴラぁム!」

 土の精霊魔法・レイリゴラムが発動し、アリサの剣がこんじきの輝きを放つ魔法剣と化した!

 「ありがとっ、ミーファちゃん!」

 ミーファの援護を受け、アリサは再び立ち上がる!

 「――やあぁーッ!」

 魔力を帯びた剣により、再び攻勢へ出たアリサ! ミーファも魔力は尽きたようだが、あまり影響は無いらしい。

 「どーん! ミーの正義は止まらないのだー!」

 瘴気のエリアを分散させるためか、アリサから離れた位置の魔導兵をなぎ倒す! 猪突猛進な台詞ことばに対し、ミーファは冷静な状況判断能力に長けているようだ。


 「負けないッ!――絶対に助けるもんッ!」

 魔導兵を斬り倒しながら、アリサは巨大な魔水晶クリスタルへ目をる。十字架に囚われたままのクレオールは、やはり微動だにしない。

 ――彼女のことは、どうでもよかった。

 エルスのためについて来た。

 エルスが「助けたい」と望んだからついて来た。

 それが、アリサの希望のぞみ――

 「――でもッ!」

 アリサは剣を振る! 金色の刃に斬り裂かれ、哀れな人形が崩れ落ちる!

 「助けるッ!――エルスもッ!――クレオールさんもッ!」

 振り下ろされた鋼の拳を、結界をまとった左腕で受け止める!――そのまま体当たりを仕掛け、倒れた魔導兵に剣を突き立てた!

 「待っててッ! いま助けるからッ!」

 決意の叫びと共に、アリサは魔水晶クリスタルの元へ猛然と駆けだした――!


 「むっ、ゼニファー!」

 「ルール違反よん?――サイフォ!」

 ゼニファーの風の精霊魔法サイフォにより、アリサの周囲の風が動きを止めた! 同時に、アリサに掛かっていた守護の結界と魔法剣も消滅する!

 ――土の精霊魔法は風の精霊魔法に弱い。本来は相手の詠唱を阻害するための術だが、ゼニファーは付与魔法エンチャントを打ち消すために使用したようだ。

 「困ったお嬢ちゃんねぇ? もう銀髪の彼は諦めたほうがイイわよん?」

 「――…………ッ! ………さないッ!」

 アリサは振り返り、怒りの形相をゼニファーへ向ける! 風のいましめにより前半部分は聞き取れないが、表情から放たれる気迫に思わずゼニファーはたじろいだ!

 「なっ……何よん……。そんなに怒らなくてもイイじゃない……」

 頬を冷たい汗が流れ、化粧メイクにじむ。二人を隔てるてつごうが無ければ、アリサは今にも飛びかかって来ていただろう。


 だが、ゼニファーの背後――研究所ラボの入口方面から、さらに彼女を恨む者のごうが響いた!

 「ハッ! 見つけたぞゼニファーめ! 借りを返しに来たぞ――!」

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