第31話 優しき冒険者の目覚め
ボルモンク
「片づけるッて、この数を二人で倒すのかッ!?」
ルゥランの口から出た言葉に、エルスは驚きを隠せない。少なくとも、この場には魔導兵の入った〝カプセル〟が二十基以上は並んでいるのだ。
「ッていうか。――そのデケェ杖、いつ出したんだ?」
「ああ、さきほど取ってまいりました! 散歩には少々重すぎましてねぇ」
「取ってきたッて……。そういや、あの檻の中にも、いきなり出てきたよな?」
エルスは今さらながら、ルゥランについての疑問を口にする。しかし彼は
「ふむふむ。この程度の数なら、ワタシだけでも大丈夫でしょう!」
ルゥランは植物や宝石によって飾りつけられた
「デストミスト――!」
闇魔法・デストミストが発動し、ルゥランの杖の先端から、紫色の光が
やがてカプセルの内部は闇色に染まり、その〝闇〟さえも泡の中へと吸収される。そして泡が
「今のが〝
「はじまりの遺跡だって? じゃあ、団長が言ってた〝魔術士〟ッてのは……」
エルスは周囲を一望しながら、同時に
「
「本来は呪われた道具を壊す魔法ですが、こういう使い方もあるということで!」
「呪い? そうか、
通常であれば、命が尽きた人類は〝
しかし、極端に瘴気の濃度が高い場所では正常に霧へ
「いいですねぇ! その冷静さや観察眼は、魔術士にとって重要ですよ!」
ルゥランはエルスを
*
「とにかく今は、捕まった仲間を早く取り戻さないといけねェしな」
エルスは拳を
「まずは目の前の事をなんとかしねェと! 早くアリサたちと合流だ!」
「では、ワタシは残りの部屋を片づけて回りましょう!」
ルゥランは
「残り? まだ残ってやがンのか?」
「ええ、似たような設備がおそらく三箇所。いやぁ、かなり本腰を入れて建設したようですねぇ。――
そう言いながらルゥランは、周囲を見渡すようなジェスチャをする。どうやら彼の〝眼〟にだけは、何かが
「わかった、それじゃ頼むぜ! ああ、そうだ――」
エルスは思い出したように言い、自身の冒険バッグから〝武器収納の
「よかったら使ってくれよ! ルゥランになら渡しても大丈夫だろうしさッ!」
「おや、これは興味深い! ありがたく
「おお、これは素晴らしい! ありがとうございます、エルスさん!」
「へへッ! まッ、
エルスは大きく手を振ると、先に続く長い通路へと全速力で駆けていった。
*
そんなエルスの背中を見送り、ルゥランは右目の
「
いつものように笑いながらも、額から流れる汗が止まらない。ルゥランは
「しかし、あれほど多くの
そう独りで
*
一方、研究所の出入口近くの大広間。エルスが罠に掛かってしまった
「はあぁ――ッ!」
アリサは気合いと共に、何度も斬撃を繰り返す。すると魔導兵の腕にも少しずつヒビが増え、やがて金属疲労に屈するかのように、鋼鉄の腕が落下した。
「そこッ! せやぁ――ッ!」
がら空きになった魔導兵の胴に、アリサが
「ゥルォォ……。シャッ……。ダ……」
機能停止の音声と共に魔導兵はガラガラと床に
「はぁ……、はぁっ……! せっかく倒しても、これじゃ……」
アリサの周囲では獲物を求めるかのように、
しかし瘴気によってアリサの魔力や体力を大きく奪われており、もう魔導兵の攻撃を
「ふぅむ。この高濃度の瘴気の中で、ここまでの戦闘能力を発揮するとは。しかしながら、そろそろ限界のようですね」
劣勢に
「まだまだなのだ! アリサ、ドワーフの底力を見せてやるのだー!」
「ドワーフだろうとブリガンドだろうと、
「もう悪の言葉を聞く耳など持たぬのだ! リカレクトぉ――!」
ミーファは唱えていた魔法を解き放ち、アリサの身体を守護の結界で包み込む。続けて彼女は攻勢に出るべく、さらに呪文を唱えた。
「さー! 正義の力を受け取るのだ! レイリゴラぁム――!」
土の精霊魔法・レイリゴラムが発動し、アリサの剣が
「ありがとっ、ミーファちゃん! やあぁーッ!」
魔力を帯びた剣により、再び攻勢に出たアリサ。
「ふふー! ミーたちの正義は止まらないのだー!」
さきほどの魔法でミーファも
「アリサ、ここは任せたのだー! そりゃ、どーん!」
瘴気を分散させるため、アリサから離れた位置の魔導兵らをなぎ倒す。
「負けないッ! 絶対に助けるもんッ!」
黄金の刃を構えながら、アリサは巨大な
クレオールのことはどうでもよかった。
エルスのためについてきた。
エルスが〝彼女を助けたい〟と、そう望んだからついてきた。
それがアリサ自身の望みでもあると、そう思い込んでいた。
「――でもッ!」
アリサは力いっぱいに剣を振る。
金色の刃に斬り裂かれ、
「助けるッ! エルスもッ! そしてクレオールさんもッ!」
振り下ろされた鋼の拳を、左腕で受け止める。守護の結界を
「待っててッ! いま助けるからッ!」
決意の叫びと共に――。
アリサは
*
「むむっ!? ゼニファー!」
「ルール違反よん? サイフォ――!」
風の精霊魔法・サイフォが発動し、アリサの周囲の〝風〟が動きを止めた。同時に彼女に掛かっていた、
精霊たちの
「困ったお
「……さないッ!」
アリサは背後を振り返り、ゼニファーを
風の
「なっ……、何よん……。そんなに怒らなくってもイイじゃない……」
ゼニファーの
しかし、彼女が
「ハッ! 見つけたぞゼニファーめ! 俺様が〝借り〟を返しに来たぞ――!」
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