第30話 トリックスターの導き
強敵〝
《ここは……? どこだッ?》
現在、エルスは暗闇の中に
《……助けてあげようか?……》
《なんだ……? ここに誰か
《……ほら、こっちに手を伸ばして?……》
暗闇に浮かぶ銀色の光――。
しかし、その正体を見た
《なッ……!? また
エルスの目の前に現れたのは、ボロボロの
「いらねェッて言ってんだろッ!――ッて、あれッ……?」
自身の大声と共に、ふとエルスが目を覚ます。気づけば彼は、明るい〝独房〟のような場所に入れられており、これまで気を失っていたらしい。
*
光沢のある石造りの床は冷たく、三方は金属の板で閉ざされている。壁の一面だけは
「そうか。俺は落とし穴に落ちて……」
エルスは低い天井を見上げる。しかし一方通行の
「とにかく脱出しねェと。……だめだな、
鍵穴さえあれば、ニセルから預かった〝盗賊の鍵〟で
「まいったな。剣は折れちまッたし、
「この鉄格子、衝撃を加えると
「うわッ! 誰だ!?」
いきなり耳元で
「はっはっは! 驚かせてしまいましたかねぇ?」
「あッ、当たり前だッ!……ッて、あれッ? あんたは確か、ファスティアで会ったエルフの兄さんか? 俺の店にも来てくれたよな?」
「おやおや、若者は記憶力がよろしいようで! はい、ワタシはルゥランという魔術士です。――じつはアナタにお会いしたかったのですよ、エルスさん!」
ルゥランは軽い
「んんッ? 俺のこと知ってンのか?」
「それがあまり知らないのですよ! ですので、ぜひお調べしてみたいなと!」
その言葉を聞いた
「ンなッ!? もしかしてあんたも、ボルモンク三世の仲間だったのかッ!?」
「はっはっは! まさか!」
パタパタと手を振りながら、ルゥランは楽しげに笑ってみせる。
*
「とりあえず、あんたは〝敵〟じゃねェッてことでいいんだよな?」
「ええ、もちろん! ワタシが
「ああ……。リリィナと知り合いなのか……。同情するぜ……」
エルスは幼少の頃から付き合いのあるエルフ族を思い出し、
「彼女は非常に
ルゥランは鉄格子の前へ行き、笑顔のままでエルスの方を振り返る。
「出るッていってもなァ。この檻、いったいどうすりゃいいんだ?」
「
「んッ……?」
エルスの問いには答えぬまま、ルゥランは右手の
「ゼルデバルド!」
闇魔法・ゼルデバルドが発動し、ルゥランの右手に〝闇色の剣〟が出現する。そして闇の剣を右手で
「ほいっ! ささっと!」
「おやおや? 見かけほど丈夫ではなかったようですねぇ」
「いッ……!? いまの魔法は何だ……!?」
「はっはっは! ただの〝
ルゥランは涼しげに笑いながら、闇を掴んでいる手を開いてみせる。すると〝暗黒の剣〟は空間に溶けるかのように、
「どうです? 覚えましたか?」
「へッ? いや、さっきの
「いいですねぇ! やはりアナタは記憶力がよろしい!」
魔法を扱うには呪文を覚える以外にも、それぞれに決められた契約や儀式を行なう必要がある。たとえば精霊魔法であれば高位の魔術士に
しかし〝
*
「では、脱出しましょうか!」
「あ……。ああッ! そうだ、早くアリサたちの所へ戻らねェと……」
エルスはルゥランの
そして右手側には鉄格子のついた扉があり、そちらが出入り口だと見てとれた。
「
エルスは出口へ向かいながら、左右の檻へと視線を
「そのようですねぇ。別の場所へ運ばれたか、すでに
「クソッ……! ボルモンク三世のヤツ、いったい何を考えてやがンだッ!」
「はっはっは! 彼の行動理由や目的には、ワタシも興味がありますねぇ!」
そう言ってルゥランは楽しげに笑う。そして二人が
「ささっ、どうぞ!」
「へッ? どうぞ、ッて言われても……」
どうにもルゥランの意図がわからず、エルスは困ったように頭を
「まさか、さっきのを
ここで立ち止まっていても仕方がない。
エルスは深呼吸をして意を決し、さきほど覚えた呪文を唱えた。
「ゼルデバルド――ッ!」
闇魔法・ゼルデバルドが発動し、エルスの手に暗黒の剣が出現する!
「げッ!? できちまッた!?」
「はっはっは! お見事です!」
エルスは暗黒の刃をゆっくりと振り、鉄格子を撫でるように斬りつける。するとさきほどの
「なんて威力だ……。怖くなっちまうぜ……」
ルゥランのお手本に
「その通り! とっても危ない術ですので、注意してお使いくださいねぇ?」
「そんなモン、簡単に教えねェでくれよッ!?」
「大丈夫ですよ。まず〝術の恐ろしさ〟に気づけたアナタならば、ね!」
うろたえるようなエルスに対し、ルゥランは優しげな口調で続ける。
「この闇魔法は、これからのアナタには必要となるでしょう。エルスさん!」
「えッ? ああ……、ありがとなッ! ルゥラン!」
いずれにせよ、
*
二人は扉のあった場所を抜け、細い通路へと入る。すると
「ふむふむ。これは〝オルメダの遺跡〟と同じ仕組みのようですねぇ。――どうやら彼は
「オルメダ? アイツの手配書に書かれてた
エルスは手配書に書かれていた、ボルモンクの罪状を思い出す。そこには確か〝聖地侵入〟と記されていた記憶があった。
「はるか
天井の
「
「さて? 三千歳までは数えていたのですがねぇ」
「三千ッ!? すっげェジイさんじゃねェか……!」
「いやぁ、なかなかに興味が尽きないのもので! 長生きしちゃいましたねぇ!」
他種族との交流が少ないことや、独自の死生観を持っているという理由もあり、
二人がそんなやり取りをしながら進み続けていると、やがて通路が途切れた先に、中規模な広間が現れた。
*
「これはッ!? まさか全部、
「ほうほう。これは実に興味深い!」
広間にはランベルトスの地下で見たものと同じ、謎のカプセルが大量に並んでいる。さらに透明なカプセルの内部には、魔導兵が一体ずつ、直立状態で入っている。
「ッてことは……。あの洞窟で見たヤツも、やっぱりボルモンクが……」
まだ、これほどの数の魔導兵が残っているということは、アリサたちの所にも〝
「コイツらが一気に
「大変なことになりますねぇ。では、ささっと片づけちゃいましょうか!」
仲間を案ずるエルスに対し、ルゥランは涼しげな顔で笑ってみせる。いつの間にか彼の手には、巨大な杖が
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