第28話 闇に囚われしもの

 どうへいらとたいするエルスたち。彼らは正面に六体、さらに広間の奥に最低でも二体の姿が確認できる。フードからのぞく巨大な目玉が不気味に動いているものの、左右の手には武器らしきものは握られていない。

 「何を仕掛けてくるかわからねェ、二人とも気をつけろッ!」

 「数も多いね。わたしたちだけじゃ不利かも」

 「確かになッ……。よしッ、一旦通路に下がって――」

 「――おおっと、それは困りますね!」

 エルスの言葉を遮り、ボルモンクさんせいが指を鳴らす。それと同時に三人の背後――通路の入口が、てつごうによって封じられた!

 「なッ!?――ッて、あんたは……!」

 「悪いケド、逃がすワケにはいかないのよん?」

 慌てて振り返ったエルスを嘲笑あざわらうように、鉄格子の向こう側にゼニファーが姿を現した!

 「うー! まさか裏切ったのだー!?」

 「馬鹿言わないでねん。最初からアタシのボスは先生よん?」

 「博士はかせと呼ぶように言ったはずです、ゼニファー」

 ボルモンクは巨大な魔水晶クリスタルの隣へ立ち、エルスらを指さす。

 「――貴方あなたたちは実験台なのです。しっかりとデータを取らせていただきますよ?」

 「クソッ……! 戦えばいいんだろッ! その代わりクレオールを返せッ!」

 「ああ、これは失礼。冒険者諸君は、が無ければ動かないのでしたね?」

 ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、ボルモンクはクリスタルを軽く叩く。すると内部に渦巻いていた闇が少しずつ晴れ、透き通った内部があらわになった――!


 「なッ……!? クレオールッ!」

 クリスタルの中は空洞で、巨大な十字架が見える。

 ――さらに、そこに縛りつけられたクレオールの姿が――!

 彼女は気を失っているのか、目を閉じたままうなれ、ピクリとも動かない……。

 「ふぅむ。少々濃度が高すぎましたかね? それとも、まだ毒が残っているか」

 「おいッ! 何をしやがった!?」

 「見たままですよ。愚かな貴方あなたにも理解できるでしょう?――ああ、そこの魔導兵をすべて倒せば、彼女は解放してあげます。報酬としてね!」

 「どこまでも非道な悪人め! もう許さないのだー!」

 ミーファは斧を構え、ボルモンクめがけてちょうやくする!

 「ヴィスト――!」

 ――しかし、背後から放たれた風の刃が、彼女を直撃した!

 「ぎゃう!」

 空中で不意打ちを受け、そのまま落下するミーファ! 守護の魔力を込めたマントや服のおかげで直接的なダメージは無さそうだが、無防備に床に叩きつけられてしまった!

 「ダメよん? ちゃんとルールを守ってくれなくちゃ」

 風の魔法ヴィストを放ったゼニファーは、呆れたようにためいきをついた。

 「大丈夫かッ、ミーファ!?――卑怯だぞあんたらッ!」

 「実験内容はこちら次第です。それより良いのですか? 早く倒さなければ時間切れになってしまいますよ?」

 ボルモンクが再びクリスタルに触れると、内部にうっすらと闇が渦巻きはじめた――!


 「クソッ!――二人とも、すまねェ……」

 「大丈夫だよ。行こっ!」

 「正義の前に、悪は滅びるものなのだー!」

 「ああッ……! 先手ッ、必勝ォ――ッ!」

 魔導兵は武器を持たず、戦闘の意志も感じられない。元が人類ひとだということもあり、先に仕掛けるには抵抗があった。

 ――だがエルスは覚悟を決め、目の前の一体へ斬りかかる!

 「うぉぉぉ――ッ!」

 「ルォォン……防衛……」

 かつて相対したこうの杖と同じこえを発し、魔導兵は腕を伸ばす!――エルスの剣は鋼鉄の腕に弾かれ、難なく受け流されてしまった!

 「チッ……! こいつら、ニセルの義体ものより頑丈みてェだ……」

 「問題ないのだ!――それっ、どーん!」

 ミーファは再び跳躍し、空中で斧を振り下ろす!――外れた斧頭アクスヘッドが、鋭利なる質量となって襲いかかる――!

 「ォオオン!……損傷……不能……」

 鋼鉄の刃に潰され、魔導兵のからだからは瘴気と稲妻がほとばしる! やがて、活動停止のサインか、不気味に輝いていた目玉も消失してしまった……。


 「ほう、ほう。さすがはミーファ王女様。わがはいもドワーフの端くれとして、誇りに思いますよ!」

 「ドワーフだろうとノームだろうと、ミーは悪人に容赦しないのだー!」

 「結構、結構。我輩とてノーム族の身など、不本意でありますからね。――そう、我輩はさらなる高みへ! 神となるのですから!」

 ボルモンクは大袈裟に高笑いをしたあと、指を鳴らす!

 「――行動開始アクティベート。ただし、専守防衛です!」

 「ルォォ……攻撃……迎撃……!」

 あるじの命令を受け、目の前の五体がいっせいに動き始めた! 彼らのゆっくりとした動作が、この存在の異様さをより際立たせる……。

 言い知れぬ恐怖にたじろぐエルスをよそに、今度はアリサが飛び出した!

 「はぁー! せいっ――!」

 一気に剣の間合いへ入り、刃を振り下ろす!――しかし、エルスと同様に、彼女の一撃も軽く受け流されてしまった!

 「エンギル――っ!」

 第二の矢を用意していたのか、続いてアリサは光魔法エンギルを解き放つ! リング状の光の刃が、魔導兵へ襲いかかる!

 「オオォッ……障壁……!」

 その声と共に、魔導兵の周囲へ高濃度の瘴気が放出される! 闇の霧に阻まれ、光の刃はかき消されてしまった!

 「どうしよう、だめみたい」

 「なんてヤツだ……! アリサの怪力でも通用しねェのかッ」

 彼女の剣は細身ではあるが、一般的な剣とは比較にならないほどの切れ味と頑丈さを誇っている。それに加え、ブリガンド族の腕力を乗せた一撃すらも、軽くあしらわれてしまった。

 「そりゃー! ずっどーん!――悪よ、滅びるのだー!」

 ミーファの方へ目をると、もう一体を撃破したところだった。あの巨大な斧が放つ正義ちからの前には、さすがの耐久力も及ばないようだ。


 「俺の力が足りねェ……。魔法ならッ!」

 エルスは左手に短杖ワンドを持ち、呪文を唱える。杖の先端が、緑色の輝きを放つ!

 「ヴィスト――ッ!」

 風の魔法ヴィストが発動し、杖から風の刃が撃ち出される! 刃は一直線に飛び、魔導兵を襲う――!

 「ォォォ……損傷……軽微……」

 鋼鉄製の腕に亀裂が入り、瘴気がれ出す!――が、決定打には遠い!

 「まだ駄目かッ!?――なら、剣と魔法だッ!」

 剣に杖をかざし、エルスは再び魔法を放つ!

 「レイフォルス――ッ!」

 炎の精霊魔法・レイフォルスが発動し、エルスの剣が炎の魔法剣と化した!

 「……ほう!」

 それを見て、ボルモンクは感嘆の声を上げる!

 「いくぜェー! うぉりゃアァ――!」

 気合いと共に、エルスは炎の剣を振り下ろす! 魔力の込められた刃は傷ついた腕を斬り落とし、鋼鉄製のからだへ食い込んだ!

 「ぐぉぉ……! かッ、かてェ……ッ!」

 「ゥルルル……損傷……損傷……!」

 魔法剣には当然ながら、筋力や武器を扱う技能も重要となる。エルスは剣に力を込めるも、残された腕に剣身をつかまれ、押し戻される!

 ――そしてついに、強力な握力によって刃をへし折られてしまった!

 「ぐわッ……! チクショウ!」

 「エルスっ! はあぁぁ――っ!」

 エルスと敵の距離が離れた隙を狙い、アリサが飛び出して剣を振るう! 一撃は刻まれたきずあとを正確に狙い、その胴体を両断した!

 「ォルルル……不能……不……」

 だんまつこえと共に魔導兵は崩れ落ち、周囲に瘴気をまき散らした!


 「エルス、大丈夫っ?」

 「助かったぜ、アリサ!――とは言ッても、ちょっとやべェな……」

 なんとか三体を撃破したものの、エルスは剣を失い、アリサの攻撃もまともに通用しない。ミーファは単独で立ち回っているが、攻撃のパターンを読まれてしまったのか、少しずつ劣勢に追い込まれている様子だ。

 「ふむ、ふむ。良い戦いぶりです。とても良い実験体だと褒めてさし上げましょう!」

 「へッ! 嬉しかねェな! ならいっそ、クレオールを放しやがれッ!」

 「それは出来かねますね。――いや? 待て……」

 ボルモンクは狂気じみた笑みを浮かべ、エルスへ手を伸ばす!

 「――そうですね。次の実験次第では、考えてあげましょうか!」

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