第25話 思惑の中へ
起床したエルスたちは朝の準備を整え、一階の酒場に集合する。そこで三人は朝食をとりながら、本日の方針を話し合うことに。
「ニセルは帰ってきてねェか。どうする? 先に工房に行ってみるか?」
「そうだねぇ。街の人に
「うー! もう一度、商人ギルドに殴り込むしかないのだー!」
「もう正直、
エルスは深い
「心配なの? クレオールさんのこと」
「そりゃあ、あいつも
「ふーん。そーなんだ」
少し嫌味っぽく言い、アリサはエルスの横顔を
目覚めた時、自身の隣でミーファが寝ていたことにも驚いたアリサだったが――。彼女は今朝のエルスに対して、言葉にできぬ、妙な不自然さを感じているようだ。
*
「勇者サンド、三人前だ。待たせたな……」
「あっ……。ありがとうございますっ」
アリサが思考を
「んッ? マスター、何か落としたみてェだぜ!」
「ああ……。
「マスターって、お子さんがいるんですね?」
「まぁな。さっき
エルスは拾い上げた落し物の
「あっ、これ。昔、エルスが読んでくれたことあったよね」
「そうだっけ? もう覚えてねェなぁ」
「おー!
勇者サンドを
絵本に描かれている物語は、ごくありふれた〝昔話〟のようだ。しかし、その文章を目にした直後、エルスの表情が固まった。
『
『
『そして、
「魔王……、リーランド……!? それに、
今朝の夢の内容が
「どうしたのエルス……? 大丈夫?」
「ああ……。確かに昔、読んだかもしれねェ。……見覚えがあるはずだぜッ」
どうにかエルスは平静を装いながら、引きつった笑みを浮かべてみせる。
「その魔王リーランドは〝
「ッてことは……。これは実話なのか……?」
エルスの問いかけに対し、ミーファが大きく
その話を要約すると、祖国を救った英雄リーランドが国からの裏切りに
「その
「マジかよ……。わりと近くじゃねェか」
ガルマニア帝国は、現在エルスたちが滞在している〝ランベルトス〟から
「でも
「へッ? そうなのか?」
「うん。たしか――」
アリサが言いかけた時。
酒場の入口が大きく開き、一人の〝女〟が現れた。
大きな〝
「銀髪の。
「んッ?――ッて、あんたはッ!? ジェイドの
女はファスティアにて〝
「さぁ、なんのことかしらん? 悪いけどアタシ、小さいことは覚えてないのよん」
「うー? ご主人さま、彼女は〝悪い奴〟なのだー?」
「ああッ! こいつは前に、ファスティアで……」
エルスは拳を握りしめ、ミーファにファスティアでの出来事を説明しようとする――しかし、
「あー、もぅ……! どうでもいいけど、急いだほうがイイと思うわよん? なんたって、クレオールお
「なんだって? どういうことだッ!?」
「さぁねん? アタシは、
ゼニファーは
どうやら彼女の
「それでぇ、どうすんのぉ? 来ないなら帰るわよんー」
「くッ、わかったよ! 二人とも、いいか?」
*
ゼニファーに連れられて、商人ギルドに到着したエルスたち。今日は正面玄関を通り、
「さ、連れてきたわよん? これで最後の仕事は果たしたわねぇ?」
「うむ……。今までご苦労ぢゃった……」
エルスたちを案内し終え、ゼニファーは
「すまぬ……! 結局、オヌシらを巻き込んでしもうた!」
「謝ることねェさ、
「そうなのだ! この悪人を成敗するのは、ミーの使命なのだー!」
そう言ってミーファはボルモンク
「これは、ワシが
「えっ? 消したって?」
「ワシらのような〝国家元首〟には特別な権限があっての。アヤツがワシに協力をする条件が、アヤツの手配書をすべて取り消すことぢゃった」
シュセンドは玉座が傾いてしまうような勢いで、エルスらに深々と頭を下げる。
「ワシが愚かぢゃった……! 自身の立場に
「まだ間に合うさ! すぐに俺らが行って、クレオールを連れ戻すッ!」
エルスは拳を強く握り、自身の胸を強く叩く。
そんな彼の隣で、アリサが
「うーん。でも
「わかってるさ。それでも行くしかねェ! どうした、アリサは嫌か?」
「え? ううん、そうじゃないけど……」
アリサはそう言い終えたあと、小さな声で「たぶん」と付け加えた。
「当然、ミーは行くのだー! ご主人様と、ミー自身の正義のために!」
「あっ……。うん、そうだね。――
「よしッ! それじゃ行ってくるぜ!」
「すまぬ……。よろしく頼むのぢゃ……!」
シュセンドは再び、三人に向かって頭を下げる。エルスたちは彼と別れ、謁見室を
「行くのねん? 特別に連れてってあげるわぁ」
「えッ、いいのか?」
「どうせ、場所もわかんないんでしょ? 『南西』って言っても広いのよん?」
「確かにそうだけどよ。……わかった! よろしく頼むぜ!」
「はぁい。じゃ、外まで急いでねん」
そう言い終えるなり、ゼニファーが街の外へと駆けだしてゆく。そして三人も彼女の
「うー、なんか怪しいのだー。
「かもな……。でも、今はアイツに頼るしかねェ……」
「ニセルさん、どうしたんだろうね?」
「わからねェけど、工房に行ってる余裕はなさそうだ。一応、
*
大通りを走りきり、街の入口へと出た
そこへ全員が
「くれぐれも落ちないようにねぇ? マフレイト――!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、エルスたちを風の結界が包み込む。四人を乗せた結界は地面から
マフレイトは術者を含めた複数人を高速移動させる、高位の
「無事でいてくれよ、クレオール! 絶対に助けてやるからなッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます