第24話 その名を知るもの
ドミナの工房にある施術室。室内には奇妙な装置が並び、椅子のような形状のベッドにニセルが寝かされていた。
そして彼の左耳と左眼を
「ふっ。どうやら、ギルドで動きがあったようだ」
「
「ああ。鮮明とはいえないな。だが、
「耳の良さは師匠のお
ドミナは作業の手を止め、ニセルの頭から装置を取り外す。彼女は
「負担の方はどうだい? 気分は?」
「まっ、あまり良くはないな。
「ははっ、それはすまなかったね」
「だが情報は充分だ。連中は、クレオール嬢を
ニセルの言葉に、ドミナは
「お嬢を? まさか、やったのは……?」
「ああ、ザグドだ。今は
「そうかい……。なんてことを」
ドミナは深い
もうすでに、彼女の覚悟は決まっている。
「ふっ。明日エルスたちを誘い出し、成果のお
「ボルモンク
「さあな。だが、今のところは違うとみていいだろう。特に言動に異常はなかった」
「言動だって? そんなモンでわかるってのかい?」
視線は手元に集中したまま、ドミナは小さく首を
「ああ、ファスティアで会った。――彼女と同じく、オレのことを『マークスター』と呼んだ奴にな」
「そういえば、ニセル君の名前をそんな風に呼ぶのは、
おぼろげにしか思い出すことのできぬ、存在したはずの師の記憶。
それでも時おり彼女の声が、ドミナの頭にフラッシュバックしていた。
「そうだ。あとは、
「太陽?」
「
「ああ……。そういえば……」
ドミナは消えかけた記憶の
「……聞き覚えがあったような気がするね。なんとなくだけどさ」
そう言って大きく
「時々、頭の中に
「懐かしいな」
「やめとくれ。ニセル君は思い出さなくていいよ」
照れた様子のドミナに対し、ニセルは「ふっ」と息を
「すまない。――だが、急いだほうがいいかもしれんな」
「もうすぐ終わるよ。ところで、〝ドラムダ式
「……ああ、遠慮しておこう」
ニセルの回答に、ドミナは残念そうに頭を
「そうかい? まぁ、一人いりゃ充分かね」
「む……? どういうことだ?」
その疑問には答えず、ドミナは黙々と作業を再開させるのだった――。
一方、酒場から二階の宿へと戻ったエルスたち。
エルスはアリサと同じ寝室へと入り、
「それにしても、街の下に洞窟があったなんてな。今度ゆっくり探索してみたいぜ」
「うん。そうだね」
「そういや、地下の変な部屋はなんだったんだろうな?」
「うん。そうだね」
「どうしたんだ? さっきから。――
エルスが疑問に思って振り返ると、彼のベッドでうずくまるように横になっているアリサの姿が目に入った。彼女は真横を向いたまま、どこか遠い目をしている。
「なんだ? 今日は最初からこっちに
「だって、わたしの場所だもん」
アリサは
エルスは彼女の頭を
「わかってるッて。それじゃ、寝ておこうぜ! おやすみ、アリサ」
「うん。おやすみ、エルス」
疲労に加え、珍しく頭を使いすぎたためか――いつもの就寝の挨拶を交わすや、エルスは早くも寝息を立てはじめる。
「……さみしかったんだからね……」
アリサは彼の腕にしがみつき、そう小さく
眠りに就いたエルスは、夢を見た。
真っ暗な闇が支配する空間。そこに、ただ一人。
『またか……』
これまでも何度か見たような記憶はある。
これから何が起きるのかも理解できる。
そして案の定。エルスの前に、焼け焦げた
銀色の前髪で目元を隠した少年は、彼を歓迎するかのように両手を広げる。
『……やっと会えるよ……』
『はぁッ? 何にだよ!』
『……いつでも力を貸してあげる……』
『いらねェッて言ってんだろッ! 大体、おまえは誰なんだッ!?』
暗闇の空間に浮かびながら、エルスは大きく声を
対する銀髪の少年は顔を伏せたまま、
『……僕はエルス……』
『なッ!? エルスは俺だッ!』
エルスは叫び、拳を握りしめようとする――が、どうにも体が動かない。
そんな彼を
その少年の額には〝魔王の
烙印が放つ
『それはッ……まさか魔王メルギアスの……!?』
『……リーランド……アインス……』
『あぁ!? 何を言って……』
『……いまは……エルスだ……』
少年は再度そう名乗り、エルスに向かって手を伸ばす。
そしてこちらを向いたまま後方へと下がり、そのまま闇の中へ消えてしまった。
『おいッ! 待ちやがれッ!――クソッ、動けねェ……!』
エルスは闇の中で、必死に
だが
「……ぐげッ!」
次にエルスの意識が戻った時には、すでに次の朝が訪れていた。
いつも通りに床で目覚めたエルスだったが、
「わわぁ……。ご主人様ぁ……。らぁめなのだぁ……」
「へッ? ミーファ……!? ッていうか、降りろッ……てッ……!」
エルスは寝巻き姿のミーファをなんとか
「ふぅ……。さすがに死んじまうッ……ぐげッ!」
エルスは手早く首の関節を戻し、
「あれは……魔王……なのか……?」
鏡に映る顔を眺め、念のため前髪をかき上げてみるも――当然ながらエルスの額に、不気味な
あのまま夢から覚めなければ、どうなっていたのだろうか?
エルスは何気なく、二人の少女が眠っているベッドに目を
「まさか……。アリサたちは、俺のために……?」
彼女らの
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