第23話 紫色の恐怖
深夜。商人ギルドの
薄暗い大広間には
「ヴィ・アーン! ちゃんと
「うぬ……。
「まったく、ここへ来るたびに不快な気分になります。まぁ、一番の原因存在は、他でもない
シュセンドの前に現れたのは、〝博士〟ことボルモンク
「さて、その顔を
「ワシの答えは変わらぬのぢゃ。もう、オヌシに支援はできぬ」
「おや、おや! そうですか! では、これをご覧なさい」
ボルモンクは
「それは……!? まさか、クレオールのっ……!?」
「彼女なら無事ですよ。まぁ、今後の運命は、貴方の返答次第ですが」
「ぐぬぅ……!」
「よもや〝変装〟という、初歩的な策を使うとは。――ゲルセイルでしたか? まぁ、
クレオールに続いて
「なぜオヌシが……。あの子の名まで知っておるのぢゃ……!」
「言った
「ぐぅ……。よかろう、持ってゆくがよい……」
シュセンドは玉座の
それらの書類をザグドが受け取り、無駄のない動きで、自らの
「要求には
「まぁ、まぁ。そう
涼しげに答えるボルモンクに対し、シュセンドは再び声を
「なんぢゃと? あの場所は……。まさか〝
「まぁ、
ボルモンクは眼鏡の
「どうも地下の実験場へ侵入した、
「イシシッ! お嬢様のお友達の、〝銀髪の冒険者一味〟のことですのぜ?」
「かっ……、彼らは……! この件には関係なかろうっ!」
シュセンドが玉座から身を乗り出しながら必死に訴えるも、ボルモンクは、彼に視線を合わせようともしない。
「
「あの不良品を横流ししたのも……、さてはオヌシか!?」
「これも〝再利用〟というものです。――まぁ、おかげで良い実験結果が得られました。次は、その〝成果〟を試す時なのですよ!」
まるで舞台上にいる役者の
「試験成功の
「まっ、待てっ! わかった……。彼らを送るっ……!」
シュセンドは顔面に汗を
「はじめから、そう言えばよいのです。――ああ、時刻は明朝。ギルドの始業時間以降でお願いしますよ。今度こそ、しっかりと期日は守るように」
「承知したのぢゃ……」
「もちろん、さらに多くの〝実験台〟を送ってくださっても構わないのですが……」
ボルモンクはニヤリと口元を上げ、邪悪な笑みを浮かべる。
「それならばいっそ、街ごと〝実験場〟にする方が、手っ取り早いでしょうね」
「言う通りにするのぢゃっ! だから、娘や街には手を出さんでくれっ……!」
「ヴィ・アーン! 上出来です。――それでは、我輩は失礼しますよ。睡眠不足は、我が崇高なる頭脳の天敵ですからね」
ボルモンクはドレスの切れ端とイヤリングを投げ捨て、ザグドを連れて謁見室から去っていった。シュセンドは
「ぐぬぅ……。ワシは……どうすればよいのぢゃ……」
「おやおや? なにか興味深い出来事でも? シュセンドさん!」
「うぎょえぇっ――!?」
「はっはっは! 驚かせてしまいましたかねぇ?」
「ル……、ルルルっ……! ルゥランさまっ!? なぜこちらに!?」
いきなり
「じつは、ミルセリアさんの〝お使い〟でして。彼女、人使いが荒いのですよ!」
「大神殿から……!? ま……、まさか……」
シュセンドは息を呑み、ルゥランの顔をじっと見つめる。すると彼は
「はい、まさかの! なんとランベルトスの〝ギルド制度〟が、世界的に承認されることが決まりましたよ! いやぁ、おめでたいですねぇ!」
「は……!? そう……、でしたか。それはありがたいのぢゃ……」
「おや? アナタの〝先々代〟よりも、ずっと以前の
ギルド制度が全世界に
「うぬぅ……。じつは……、ルゥランさま……。折り入って、ご相談が……」
「ほうほう? なにやら〝興味深いお話〟のようですねぇ?」
目の前の男にすべてを話すべきなのか――。シュセンドは迷う様子をみせたものの、
*
「なるほどなるほど! いやぁ、とても興味深い!」
「アヤツの望み通りにエルスらを送れば、もはや彼らの命は無いも同然……。ワシは……。自分の娘と街のために、彼らを犠牲にしてもよいのぢゃろうか……」
「ええ、大丈夫です! ぜひ向かわせましょう!」
そう即答するルゥランに対し、シュセンドは
「はっはっは! それにエルスさんなら、
「エルスを、ご存知なのですか?」
「お会いしたのは一度きりですが! はじめの
十三年前の大きな出来事といえば、やはり〝魔王メルギアスの出現〟だろう。ルゥランは〝あの日〟の現場を思い返すように、紫の瞳を細めてみせた。
「それほど以前から……。いったいエルスはナニモノですのぢゃ?」
「ワタシも興味がありましてねぇ? ですので調べてみようかと!」
「お珍しいですのぢゃ。アナタさまにも、わからぬとは……」
エルフ族の大長老でもあるルゥランは〝
「まぁ、そう思いつめずに! ワタシも
「そ……、そう
「はっはっは! まぁまぁ、彼らを信じましょう! では、さようなら」
そう言い終えた瞬間、ルゥランの姿が
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