第33話 冒険者の三人
「
カダンからの追加の頼みを引き受けた、エルスとアリサ。
二人は、少し離れた場所で新しい巻き煙草を
「ごめんね、ニセルさん。さっきの無駄にさせちゃった」
アリサはニセルの口元へ視線を送る。どうやら火は点いていないようだ。
ニセルは
「平気さ。まだ、たくさんある。吸ってみるかい?」
「ううん。やめとく」
「ふっ、その方がいい」
国や種族ごとにルールの差はあるが、基本的に冒険者として旅立った者には年齢を問わず、成人としての自由が認められている。
かつては人間族の年齢を基準とした〝法〟が世界全体に適用されていたが、寿命や文化の大きく異なるエルフ族やドワーフ族、またはそれらの混血種族の間から不満が噴出し、次第に現在のかたちへと変更されていった。
過去には、こうした文化や価値観を巡る
そう、当然ながら人類の敵は魔物だけではない。
時には――同じ人類同士で争い、命を奪いあうこともあるのだ。
農園へ通じる道は大通りのように整備はされておらず、ただ草むらに地肌を露出させただけの農道が続く。荷車が通れる程度の道幅は確保されてはいるが、エルスたち以外に通る者の姿はない。
「思ったより広いんだなぁ。こんな
エルスは
「わたしも昨日、依頼で来るまで知らなかったなぁ。依頼人さんに教えてもらったけど、ファスティア全体が元々は大きな農園だったんだって」
「へぇ、そうなのか。
「ほう、二人ともアルティリアの出身なのか」
「おうッ! といっても、俺の家があったのは街外れだけどな! ニセルはどこから来たんだ?」
「オレかい? ノインディアって所さ。海の向こうの、小さな国だ」
ニセルは林の方向を指さす。あの林を抜けると街道があり、さらに進むと切り立った
「この〝アルディア大陸〟に定期的な用事があってね。ついでに、こっちで少し稼ごうってワケさ」
「おおッ、なんかカッコイイな!――いいなぁ、俺らも早く世界を飛び回れるような冒険者になりたいぜ!」
「うんっ。まずは、ちゃんとお金を稼げるようにならなきゃだね」
「だなッ! 早いとこ
エルスは自らの手を見つめ、強く握り締める。
「珍しいな。お前さんは、この街で名を上げたいってワケじゃないのか」
ファスティアは〝冒険者の街〟と呼ばれるだけのこともあり、ここを拠点に活動し、なかには永住を決める者も多い。ニセルが視線を送るとエルスは立ち止まり、真剣な目で彼の顔を見つめた。
「ああ。俺の一番の目的は、なんたって魔王を倒すことだからなッ!」
「ほう、魔王退治か。なるほどな」
「わッ……笑わないでくれよ?」
「笑わんさ。お前さんの目を見ればわかる」
「そうかッ! ニセルって良いヤツだな!」
「ふっ。さあな、それはわからんぞ?」
はぐらかすように言い、ニセルはゆっくりと歩を進める。
それにつられるように、二人も再び歩き始めた。
「だが、魔王といっても様々だ。お前さんが狙っているのは、どの魔王なんだ?」
「メルギアスってヤツさ!――俺やアリサの父さんたちを殺した、あの魔王を絶対に倒すッ!」
「
「ああ、その時に俺はロイマンに助けられた!――でもさ、目が覚めた時に声が聞こえたんだ。『次はキサマだ!』ってさ。きっと、まだどこかで生きてるッ!」
「ふむ、なるほどな」
「誰も信じてくれねェけどさ、俺には確かに聞こえたんだよ。今だって、頭にこびり付いてる……」
エルスの言葉に、ニセルは「ふっ」と息を吐く――
「――確かに、信じがたいな」
「だろ? やっぱり……」
「――かといって、お前さんが嘘を言っているとも思わんよ」
ニセルはエルスの肩を軽く叩き、優しげに言う――
「魔王の能力は、未知の領域だ。何を仕掛けてきても不思議ではないさ」
「うん。エルス、一緒に頑張ろうね?」
「ああ……。ニセル、アリサ。二人ともありがとうなッ!」
仲間からの励ましに、エルスは照れ隠しのように駆け――
二人の方を振り向いた。
「まずはとにかく、依頼を終わらせねェとな! 今度こそ完璧に成功させてやるぜ!」
「ああ。霧が出る前にここを抜けよう。細道を
「確か、もうちょっと進むと家があったはずだよ」
「じゃあ――とりあえずは、その家を目指すか!――よしッ、行こうぜッ!」
この日、三人の冒険者が――最初の目標に向かって、共に歩み始めた!
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