第32話 ニセル・マークスター
自警団本部の扉の
彼は全身を黒いマントで
「えー、この男は自分の古い友人で。かなり熟練の冒険者なのですが……。まあ、その経歴はいろいろと
「おっと、カダン。そこまでだ」
男は右手でカダンを制し、エルスたちの方を
「オレはニセル・マークスター。長いんで〝ニセル〟と呼んでくれ。まっ、コイツの言う通り、ただのワケアリ冒険者ってヤツさ」
「あッ……ええッと。俺はエルス……ッて、申しまッス……」
「初めまして、ニセルさん。エルスと同じ駆け出し冒険者のアリサですっ」
たどたどしく挨拶をするエルスの隣で、アリサが丁寧にお
「ふっ。二人とも楽にしてくれ。オレも
ニセルは口元のマフラーを下げると巻き煙草を
「ずっと我慢してたんでね。一服させてもらうぞ」
「俺たちが話してる間、あそこで待ってたのか……? す、すまねェ……」
「じゃあニセルさんが、盗賊退治に?」
アリサの問いには答えずに。
ニセルはカダンを手で示し、彼に説明を
「ええ、それもですが……。重要なのは〝調査〟ですな! 誰が、何の目的でファスティアを
「そういうのが、オレの得意分野でね。まっ、場合によっては〝殺し合い〟になるかもしれんが」
「こッ……殺し合いッて……」
サラリと言ってのけたニセルに対し、エルスはブルリと身を震わせる。
「退治するってことは、
ニセルは煙を吐き、じっとエルスに視線をあわせる。
エルスはゴクリと
「わたしはエルスについてくよ? 旅に出る時から決めてたし」
「そ、そうか……。わかった……」
エルスは
「行きたい。俺たちも連れてってくれ!」
「ふっ、そうか。――カダン、依頼人はお前さんだ。最終的な判断は任せる」
「うーむ。自警団長としては、やはり若者を危険な依頼に巻き込むわけには……」
「――だ、そうだ」
依頼人の決定を受け、ニセルは片手で〝お手上げ〟のジェスチャをする。
それに
「ま……待ってくれッ! 団長ッ、頼むッ!――いや、お願いしますッ! 俺にもやらせて下さいッ!」
「エ……エルス殿……?」
「また俺のせいで、誰かに迷惑をかけちまうのは嫌なんだ……。せめて一緒に見届けるだけでもッ! お願いしますッ……!」
エルスからの必死な頼みに、カダンは困り果てた様子でニセルに視線を送る。
しかし彼は
どうやら「自分で決めろ」という意味らしい。
「……わかりました! では、エルス殿。
「あッ……、ありがとうッ! 団長ッ!」
「団長さん、わたしもいいですか?」
「もちろん! ですが、お二方……。とても危険な任務です。いざという時は、ニセルの指示に従ってくださいね?」
カダンは真剣な表情で言い、若い二人に細心の注意を
エルスとアリサは元気よく同意し、続いてニセルに向き直った。
「それじゃよろしくなッ! ニセル!」
「よろしくね、ニセルさんっ」
「ふっ。まあ短い間だが、仲良くやろう」
三人は互いに握手し合い、盗賊団討伐のためのパーティを結成する。その様子を見守っていたカダンは一呼吸を置いた
「えー、我が自警団の調査によると、どうやら『盗賊団のアジトらしき洞窟が、ファスティアの北の外れにある』とのこと!」
カダンは多くの畑が見える、広大な農園地帯の方を指で示す。
「――あちら側は林が多く、ランベルトスへ繋がる街道の裏側にあたります。盗賊が根城にするには最適ですな!」
「なるほどな。まっ、
ニセルは静かに目を
「おいおいニセル……。ウチの優秀な団員の調査を疑うのか?」
「その〝優秀な団員〟が、盗賊だったばかりだろう?」
「ウグッ!? ま、まあ……。そういうことも、無いとは言いきれんが……」
「ふっ、冗談だ。情報感謝するぞ」
ニセルは吸いかけの巻き煙草を
「投げ捨てると神殿騎士がうるさいんでね。――さっ、行くか」
「ああッ!」
カダンが
「申し訳ない! 実はエルス殿に、折り入ってお願いが……」
「へッ?」
カダンは両手を合わせるジェスチャをし、携帯バッグから小さな革袋を取り出した。それにはエルスが受け取った〝報酬〟と同じく、自警団の紋章が入っている。
「
「え、それだけか? いいぜ、任せてくれ!」
エルスはカダンから革袋を受け取り、それを冒険バッグに
「それで、誰に渡せばいいんだ?」
「あー、その……」
カダンは冷や汗を流しつつ口ごもり、ゆっくりと農園地帯を指さした。
「あの農園の主、カルミド殿へ……」
「カルミド?――なんか聞き覚えあるけど……。誰だっけ?」
「ほら、エルス。遺跡で会ったドワーフの人!」
首を
「あー! あの土使いのジイさんなッ! あのジイさん、農園持ってたのかぁ」
「エルス、今日は『ジイさん』って呼んじゃダメだよ? 昨日、すっごく嫌がってたみたいだし」
「わッ、悪かったよ……。あのヒゲモジャの顔見てると、つい呼んじまうんだよなぁ……」
ドワーフ族の男性は、実際の年齢以上に外見上の老化が早い。
カダンいわく、カルミドの年齢は「自分と同い歳」なのだそうだ。
「それでは、カルミド殿に
「どうせなら、団長が直接渡しに行けばいいのに。近所なんだしさ」
「自分――というより、自警団は彼に嫌われておりますからな……」
「こっちもワケアリか。わかった! じゃあ、行ってくるぜッ!」
カダンに大きく手を振り、エルスとアリサはニセルが待っている
そして
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