第31話 交わる真相

 いったい〝はじまりの遺跡〟で、何が起こっていたのか?


 昨日、エルスたちがについた後の出来事――。

 そして自警団による夜を徹しての調査結果などを、カダンは丁寧に説明する。


 自警団の魔術士・ザインが騒動のちょうほんにんであったこと。あの杖の正体が〝こうつえ〟と呼ばれる、敵地侵略用の兵器であること。さらに杖の効果によって、ザイン自身も異形の姿へとへんぼうしていたこと。


 最後に、すでに彼は〝この世に存在していないこと〟を、カダンは二人に話した。



「ザインさんって、あの〝びゅーん〟ってしてくれた人ですよね?」

「そうです。高度な魔法の使い手である彼の入団を、我らも喜んでいたのですけどね……」


 カダンは悲しそうに口を曲げながら、昨日と変わらずボサボサの頭をく。

 どうやらこれが、彼の標準的な髪型のようだ。


「ザインの正体は盗賊。それも近ごろ我々の手をわずらわせている、〝ジェイド盗賊団〟の一員と判明しました」

「とッ、盗賊だってッ!?」

「はい……。ザインの飲み仲間の話では、彼は酒が入ると人が変わったかのように、自らの〝武勇伝〟をまくし立てていたのだとか……」


 しゅごうだったザインはこれまでも何度か、酒場でトラブルを起こしていた。その際にいくとなく、『俺は盗賊団の幹部だぞ』と口走っていたようだ。


 そうしたいさかいは団長であるカダンの耳にも入っていたのだが、普段の人柄の良さと魔術士としての優秀さから、酒の勢いでのホラ話として不問となっていた。


 それらの事実を話し、カダンは申し訳なさそうに頭を下げた。



「でもあの人って、わたしたちと一緒に遺跡に向かったはずじゃ?」

「ええ。どうやら一度現場へ行ったあとに魔法で街へ戻り、我々と合流したようです。これで〝風のせいれいせき〟の在庫が、やけに減っていた理由も判明しました……」


 あくまでも状況証拠ではあるが――自警団所属の魔術士らの調査により『術者を高速移動させる〝フレイト〟を、せいれいせきを用いて発動したならば、時間的にも往復可能』と、いった結論が出たようだ。



「アイツはなんだッて、そんな面倒なことを?」

「今となっては……。もう……本人は存在しませんので……」

「団長さん……」


 ザインをよほど信頼していたのか。カダンの表情は、見るからに暗い。


「……さて、本題です。遺跡で出会った――ゴホンッ! もとい、旅の魔術士殿によると、『例の杖は、もう一本ファスティアに存在していた』とのこと」

「ああ、知ってる……。実は、それを売ったのが俺なんだ……。だから……」

「ええ、そのようですな! なんとかファスティアをつ前に、あの店主の女性に話をくことができました。それはもう、ギリギリで!」


 カダンは笑いながら、バッグから取り出した紙束を誇らしげにらしてみせる。

 それは彼ら自警団員の、徹夜によってもたらされた〝成果〟だった。



「やっぱり……。俺のせいで店を……?」

「エルス殿、何か勘違いをされておりませんか? あの店は、昨日いっぱいでだったのですよ? 神殿騎士のかたからも正式に通知が来ておりましたゆえ」

「えッ? 閉店……?」


 カダンの言葉に、エルスは冒険バッグから、昨日の依頼状を取り出した。

 そしてアリサと共に、に改めて目を通す。


「あッ。『店番求む 閉店打ち合わせにつき 至急』ッて書いてある……」

「もー。エルス、報酬のとこしか見てなかったの?」

「もしかしておまえ、知ってたのか……?」


 エルスはアリサに疑いの視線を向けるが、彼女はそくに首を横に振る。


「ううん、知らない。だってエルス、すぐに隠しちゃったもん」

「そういやそうだった……。ははッ、朝イチで眠かったし……。報酬だけを見て、急いでがした気がするぜ……」


 エルスがそう言うなり、アリサとカダンからは呆れたようなためいきれる。

 その後一息を置き、カダンは話を〝杖〟に戻した。




「――その打ち合わせの中で。つまりエルス殿が店番をしていた間に、例の〝杖〟も含めて、店を引き払う交渉をしていたようですな」

「そういえば『全然売れないから処分するつもりだった』ッて言ってたっけ」

「ええ。どうも その引き取り業者も、ひとくせある連中だったようで。杖が売れたことを知ると、かなりあわてた様子だったとか」

「あっ、それって……」


 アリサが気づいたように言うと、カダンは大きくうなずいてみせる。


「おそらくは、ファスティアにさいやくをもたらそうとした者の一派でしょうな」


 杖を購入した商人は、ランベルトス行きのたいしょうに合流していた。そしてランベルトスは、はじまりの遺跡とは真逆の方角だ。それならば目的のアイテムを手に入れ損ねた何者かは、すぐに次なる手を打ったのだろう。



「例の異変が起きる少し前――ちょうど〝霧〟が出ていた頃ですな。例の隊商が盗賊に襲われ、積荷が奪われました。その襲った連中こそが、くだんの盗賊団なのです」

「なるほど……。俺が酒場で、ラァテルとってた頃か……」


 エルスの脳裏に昨日の敗北の映像がよぎる。思えば彼は冒険者になってからというもの、自身が納得のいく成果を挙げられていない。



「なぁ団長、その盗賊ッてのは強いのか?」

「ハハッ。少なくとも、この辺りの魔物よりは間違いなく手強いですな! それに首領ボスのジェイドは、風の精霊魔法の使い手です」

「風か……。そういや、ザインも風と契約してたッけ……」


 人類が〝精霊魔法〟を使うためにはあらかじめ、炎・水・土・風の精霊と契約を交わす必要がある。そしてたとえば人間族であるならば、契約できる系統は一つのみに限られる。


「連中には風の魔法を扱える幹部が、少なくとも三人は居たようです。一人はジェイド、もう一人がザイン……。あとの一人は、不明ですな」

「そうか。じゃあ、俺たちに任せてくれよ!」

「ああ! それにはおよびませぬ! 実は、もう〝適任者〟に依頼してあるので!」


 カダンにあっさりと申し出を断られ、エルスは一歩、彼の前へと身を乗りだす。


「ええッ、なんだよッ!? そこは任せてくれてもいいじゃねェか!」

「そ……そう言われましても……。ううむ……」


 メラメラとやる気をみなぎらせているエルスにされ――。

 カダンは困惑の表情を浮かべながら、建物の方を振り返った。



「おい、聞いていただろう? どうする……? ニセル……」


 ひとのない建物に向かい、そう言ってカダンが問いかける。

 すると扉のかげから黒ずくめの男が一人、ゆっくりと姿を現した。

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