第29話 寄り添う者と支える者
過去の記憶を思い出し、
アリサは、そんなエルスに近づき、優しく抱きついた。
突然の感触に、エルスは思わず現実へと引き戻される――。
「うわッ!――なッ、なんだよ? こんな所でしがみついても
「うん。だから一緒に歩いていこ?」
「おまえ――」
慰めているつもりか?――と、言いかけて、エルスは口をつぐむ。
どんな慰めもエルスには必要なく、何の効果も無いことなど、いつも身近にいるアリサならば理解している。こうしているのは、彼女なりの精一杯の気遣いなのだ。
「わかった、もう考えるのはあとだ! とにかく団長の所に行くぜッ」
「うん」
「ありがとな……」
エルスは小さな声で
「いらっしゃい。武器に防具、薬や
店主と軽く挨拶を交わしたあと、エルスはボロボロになった剣を
「はい、毎度あり。それはそうと、お連れさんの剣、なかなかの
「んッ? そうなのか?」
「ああ。見た感じ、剣自体が周囲の
突然の解説を始めた店主に、エルスは新しい剣を身に着けながら適当に相槌を打つ。――対して、アリサは嬉しそうに目を輝かせた。
「これでも、武器を扱って長いもんでね。良い武器には自然と、目がいってしまうのさ。魔法剣に特化した武器なんて滅多に出回らないし、大事に使いなよ?」
「はい! ありがとうございますっ」
祖父の作品を褒められたことで気分が良くなったのか、アリサは店頭にあった薬を手に取り、
「アリサのジイちゃん、何気にすげェモン造れンだなぁ」
「ドワーフの国だと、有名な職人なんだって。お姉ちゃんの
「あのヤベェ杖も、そうなのか……」
幼い頃、あの杖でリリィナから何度も
広大な〝ドワーフの酒場〟の外周をぐるりと
だが、歩きやすくなった反面――
目的地に近づくにつれて、エルスの足取りが次第に重くなる。
「あっ、見えてきたよ? ほら、あそこに団長さんも居るみたい」
エルスの腕を引きながら、アリサは石造りの無骨な建物を指さす。二階建ての建物の前では、自警団長カダンが大柄な人物と話をしているようだ。
「げえッ! 団長の横の……アレって……」
カダンとやり取りを交わす
大柄な
「しッ……神殿騎士じゃねェか……」
神殿騎士は大神殿により世界中の街に配置され、永き眠りについた
神の直属の使徒とされ、たとえ一国の王であっても逆らうことは許されない。この世界における絶対的な秩序の番人。それが神殿騎士だ――。
「うーん、なに話してるんだろ? ここからじゃわからないね」
「まさか俺を……? 捕まえる気じゃ……」
隣の敷地は自警団員たちの訓練所になっており、数人の男たちが素振りや模擬戦などのトレーニングを行っている。
エルスが立ち
「うぐッ……」
重い金属音と共に迫る威圧感に、エルスは思わず
「団長さんに用があっただけみたいだね」
「だッ……だなッ! ふぅ、人生終わったかと思ったぜ……」
「そんなに怖がらなくてもいいのに」
アリサは、すっかり腰が引けてしまったエルスの腕を強く引っ張る――。
「自首しに来たんじゃないんだから。ほら、行こっ?」
「わかったから引っ張ンなッて!――ふぅーッ……よしッ! 行くぞッ!」
まるで絶望的な戦いに
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