第28話 惨劇の誕生日
エルスの過去。
十三年前の悲劇の直前――。
その日は、父の
『エルスくん、お誕生日おめでとうっ! アリサも来たがってたわ』
『おめでとう、エルス。うちのアリサと違って、君は魔術士になりそうだな』
『ありがとうございますッ! あのッ、アリサの熱は大丈夫ですか?』
『ああ、心配してくれてありがとうな。今は、おじいちゃんと留守番しているよ』
真新しい
『ハツネ、メルギアス、今日は遠い所からすまないな。ほら、息子のエルスだッ!』
『この子がリスティとの? そっか。無事に、
『坊や、すごいモノを見せてあげよう。なんと、本物の魔王が使っていた剣だぞ!』
メルギアスという名の長身の男は、布に包んでいた
『ええッ、本当ですかッ!? すごいッ! カッコイイッ!』
『おお、それはッ!? メルギアス、ついに魔王を倒したかッ!』
ハツネとメルギアスは
ただ一人。
かつて冒険の途中で行方知れずとなってしまった
『幸運といえば……。あの時、あそこにリーゼルタが来てなければ、みんなで干からびていたなッ!』
『ああ。次の日には移動するって聞いた時は、さすがの俺も神に感謝したものだ』
『えッ、街が? 動くんですか!?』
身を乗り出しながら
『そうだよ。あの魔法王国は、今も世界のどこかを移動してるんだ』
『すごいッ! 行ってみたいなぁ! 神様にお願いしてみようかな!?』
エルスは無邪気に笑いながら、窓の外の空を見上げる。
そんな彼の様子を見て、レミはクスクスと
『これは、魔法学校へ入れるのもアリじゃないかな? ねっ、
『いやいや、あそこは学費がな……。ハハッ……。いっそ俺も、もうひと頑張りするかッ!』
昔話にも花が咲き、
やがて
話題の主役はメルギアスと、
『それにしても……! これからは〝勇者メルギアス〟だな!』
『いや、大神殿には行かぬつもりだ。勇者など、ガラではないのでな』
『そっかぁ。でもカレンが居たら、喜んだだろうな……』
『そうだな……。「魔王を倒して勇者になろう!」ッて、いつも張り切っていた……』
そんな大人たちの昔話が、まどろむエルスの耳に入ってくる。
いったい誰が話しているのか。そんな記憶さえも
『まさか神隠し……? 本当に古代人の……』
『おそらく、エイン……』
『やはり、神の怒り……』
『ねっ、皆……。その辺にしよっ? メルギアス……ごめんね……』
どうやら突然に
そして、その直後。
『神こそが真の敵だと
『よせッ! メルギアス! せめて子供には手を出さないでくれッ!』
『エルネスト! キサマこそが、カレンを神に売った張本人ではないのかッ!?』
『落ち着いてメルギアスっ! 〝魔王の烙印〟なんかに支配されちゃ駄目だよっ!』
『滅ぼしてくれるッ……! カレンを奪った愚かな神も、くだらぬ世界も――裏切り者のキサマらもなぁ――ッ!』
仲間の突然の
『滅ぶがいいッ!
『目を開けろハツネッ! エルス逃げろッ! 誰か……冒険者を呼ぶんだッ……!』
『ううッ……! 足が震えて……。ごめんなさい父さんッ! う、動けないんだッ……!』
エルスは父の声に応えようとするも、腰が抜けて立ち上がることすらもできない。
アーサーとレミが武器を取りに戻っている間、エルネストは単独で、必死に魔王への抵抗を続けた。
『くッ……! せめてアーサーたちが戻るまでは、絶対に倒れんッ……!』
だが、幼いエルスを
仲間も倒れ、楽しい
『生きろッ……エルス! いつか母さんを……。すまん……リス……ティ……』
『父さんッ……! 神さまお願いしますッ! 助けてくださいッ……!』
『我が怒り! 我が魔王のチカラッ! 思い知れッ! 大いなる闇へ
幼いエルスは、父が傷つき、倒れる姿を――。
ただ
父から手渡された、もう一つのプレゼント。
両親の想いが込められた、ウサギ型のペンダントを握りしめながら――。
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