第24話 冒険者の醍醐味
「なんとか無事に帰れたぜ……。うッげェ……」
はじまりの遺跡から
夜の大通りは魔法の街灯によって
「お疲れさまっ、エルス。大丈夫?」
「一応な……。正直、これはもうやりたくねェな……」
地面に降り立ったエルスの足元は、時おりヨロヨロとふらついている。
彼が握りしめていた風の
「もうすぐ宿屋さんだから。頑張ろっ?」
アリサはエルスを支えながら、大通りから外れた路地を歩く。
すでに暗闇の空に浮かぶ
二人は初めてファスティアに到達して以来、ずっと自宅のように利用し続けている、安価な宿へと
ここは比較的新しい木造の建物なのだが、どうにも隠しきれない薄汚れた壁や
「ふぅ……、今日は冒険者生活始まって以来の大変な一日だったぜ……」
エルスはガタついた木製のテーブルに着き、疲労した背筋を大きく伸ばす。
「そうだねぇ。いつもは魔物狩りのあと、依頼ひとつで終わりだったし」
彼の隣に着席し、アリサは普段の生活を振り返る。すっかり
「まッ、飯だ飯! 今日は久々に、肉でも食おうぜッ!」
「わぁ、やったね! でもエルス、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だッて! ほらッ、コイツを見てみろッ!」
エルスは得意げに笑い、財布から金色の光を取り出す。そして彼の指先にある金貨を見るや、アリサの瞳もキラキラと輝いた。
「あっ! 金貨なんて久しぶりだね。どうしたの?」
「あの店番の報酬さ! おまえも見に来てただろ? なんか
そこまでを言いかけ、エルスはようやく気がついた。
不気味な目玉こそ無かったが――。
カダンが持っていた黒い棒切れは、
「ねえ、エルス。団長さんが持ってたのって、やっぱり〝あの杖〟なのかな?」
「うッ……。そうだとしたら、今日の騒ぎは俺のせい……なのか……?」
「どうだろ? 心配だったら、明日団長さんに
やはり杖を売った本人として、無関係とはいかないのだろう。
アリサからの返答に、エルスの
「……なあ、アリサ……。今夜は好きなの食っていいぞ? これが〝最後の
「うーん……。そう言われると食欲が……」
「大丈夫だッて! まずは食おうぜ! なんとかなるさ! ハハッ……」
確かに不安にばかり気を取られ、ずっと頭を
エルスは気持ちを切り替えるべく――地味なメイド服を着た
それでも料理がテーブルに並びはじめるとやはり
勇者サンドに、アルティリアカブのスープ。
カルビヨン風海鮮サラダに、草原ヒツジのステーキもある。
おまけに今日は水ではなく、ランベルベリーを
「
「まだ旅に出て、そんなに
「まさかこの宿で、こんな
エルスはステーキにフォークを突き刺し、それに豪快にかじりつく。
魔物のなかには動物との区別が曖昧な
世の中には魔物の肉を好む食通もいるらしいが、運良く食用に適す部位が消え残ることは
「やっぱ、まともに飯が食えるようになると、冒険者として成長したッて感じがするよなッ!」
「いつもの店員さん、二回も注文を聞き返してたもんね」
アリサは思わず笑みがこぼれそうになるのを
ファスティアは大農園の一部を開発して創られたこともあり、現在でも野菜の収穫量が豊富だ。アルティリアカブやランベルベリーのような、世界的に有名な特産品も多く生産している。
国王も、当初は王国の食料庫である大農園の縮小には強く反対したものの――それ以上にファスティアから
王国の新たな交通の要所として、世界各地の名産品や人材がアルティリア国内へ集まる切っ掛けとなったことも、ファスティアの大きな成果だろう。
二人が料理を
「あら、ずいぶん豪勢ね。お金が無くて何も食べてないんじゃないかって、心配したのよ?」
「へッ、リリィナ! 余計なお世話だッ!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。心配してくれてありがとね」
現れた女性は、エルフ族のリリィナだった。彼女は白いマントとフードで全身を
「エルスはもう、『リリィナおねぇちゃん!』って呼んでくれないのね……」
「当たり前だ! もうガキじゃねェんだから、
「そう。残念ね。でも、人間の成長は早いものね。エルネストもあっという間に大人になったと思ったら、産まれたばかりのあなたを連れて――」
「……やめてくれよ……。あんまり、父さんのことは思い出したくねェんだ……」
父の名前が出た
「……ええ、ごめんなさい。そうだ。お
「おッ! そういや、何かくれるッて言ってたよな!」
物につられ、
今度はリリィナの手元にある〝アイテム〟を見て、一気に青ざめてしまった。
「ぅげッ……!? それは……まさか……!?」
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