第14話 エンカウンター

 魔物の群れをせながら、ほどなくして目的の地点へと辿たどいたエルス。


「さっきは確かに、なんか違和感があったんだけどなぁ」


 うすやみの大広間の中、エルスは目の前のさいだんを見上げる。

 てた台座には何かがまつられていたけいせきこそあるが、それはとっくに失われ、もう正体を知るすべはない。



 それに、ゆっくりと観察する時間など与えないかのごとく。

 エルスの背後に現れた魔物が、手にした武器を振り下ろした!



「――おおッと! こいつは、オークかッ!?」


 なんとか不意打ちをかわし、エルスは素早く剣を構える!


 目の前では、だらしなくふくらんだ腹と〝ぶた〟の頭が特徴的な人型の魔物――オークが棍棒を握り、エルスを見下ろしていた!



 この辺りの魔物では強い部類で、その巨体から繰り出される怪力は、駆け出しの冒険者にとってきょうだ。さきほどまでエルスが立っていた石の床は粉々に砕け散り、下地が表れている。


 強敵とのそうぐうに、エルスは元来た方角へ目をるが――残念ながら、ここからでは仲間たちの姿は見えない。



「ブオォォ――ッ!」


 オークはエルスの視線が動いた隙を見逃すことなく、再び棍棒を振り下ろす!

 当然ながら、魔物がこちらの応援など待ってくれるはずもない。


「独りになったたん、こいつに出くわすなんてなッ!――もうやるしかねェ!」


 繰り出される重い一撃をステップで避け、エルスはオークの腹をななめに斬り上げる!――が、弾力のある皮膚によって威力は軽減され、浅い傷がついたのみだ。



 エルスは続けて剣を振り下ろすも――オークの手にした棍棒によって、斬撃は軽く受け止められてしまった。


 木製の棍棒はざつな造りながら、武器としての強度も威力も、充分に兼ね備えているようだ。



 オークの腹からはうっすらと黒い霧がれていたが、大したダメージが無いことを示すかのように、すぐにピタリと止まってしまった。



「チッ……! いつも通りアリサが居りゃ余裕なんだが……」


 普段はアリサと二人で魔物狩りをしているエルス。


 暗闇の中に相棒の姿を探すも、目に入るのは魔物の群ればかり。

 さらに、それらの数体はエルスに気づき、こちらへの接近を開始している。



「出し惜しみしてると囲まれちまう……。こうなったらッ!」


 進路を塞ぐ魔物を斬り払って走り、エルスはオークと距離を取る。



 続いてエルスは剣に手をかざしながら、小さく呪文を唱える。

 それに呼応するかのように、彼の銀髪と瞳が赤い光を放つ――!


「魔法剣ッ! レイフォルス――ッ!」


 炎の精霊魔法・レイフォルスが発動し、エルスの剣が魔力の炎を帯びた〝魔法剣〟と化した!



「ブッ?……ブォォ――ッ!?」


 剣が放つ炎によって、オークのきょうがくの表情と、エルスの不敵な笑みが照らし出される。


「へへッ! 豚の串焼きにしてやるぜッ! 全力必中――ッ!」


 エルスは床を蹴り、オークの元へとはしる!

 彼の気迫にされたのか、魔物は棍棒で防御の構えをとった!



「――無駄だッ! そんな棒きれ、燃やしてやるぜッ!」


 エルスは力任せに、炎の剣を振り下ろす! 一撃を受け止めた棍棒からは、堅い木を打ちつけたような重い音が響き――次の瞬間、炎に包まれた!


「ブヒィィン!」


 オークは炎の熱に耐えきれず、慌てて武器を手放す。

 そしてエルスの剣が、無防備となったオークの腹を深々と斬り裂いた!


 大きく裂けた傷口からは、大量の黒い霧がなくあふる――。



「これでッ! 戦闘終了だッ――!」


 エルスは剣を持つ手をクルリと反し、オークの腹を刺し貫いた!


 魔物の背中からは燃え上がる剣先が生え、同時に全身が炎に包まれる。

 巨体は炎と黒煙に包まれながらくずち、すべてがくうへとかえっていった。



「へッ! 独りでも、なんとかなるモンだッ!」


 見事、単独ソロで強敵を撃破したエルス。

 彼は炎の剣を手にしたまま、左手で顔の汗を拭う。


 だが、エルスが息つく間すらもなく。

 炎に呼び寄せられるかのように、新たな魔物の群れが、こちらへと集まりはじめていた――!

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