第13話 開かれた扉

 扉の向こう側――ほうしょうへきの先は、すでに戦場と化していた。


 三人が扉をくぐったたん、障壁によりしゃだんされていた魔物のほうこうや冒険者らの雄叫び、武器同士がぶつかり合う金属音が耳をつんざく。


 魔法の明かりに照らされた範囲においても、各所で戦闘が行われている様子が目に飛び込んでくる。広い空間の足元には瓦礫がれきや砕けた石が転がり、流血の跡や折れた剣、壊れた防具といったガラクタのたぐいも散乱していた。



「魔物どもは、いたる所からわいてまいります! くれぐれも乱戦に巻き込まれぬよう!」


 二人に忠告をしたカダンの目の前に突然、犬頭の魔物――コボルドが飛び出してきた! 魔物は手にした剣を振り上げ、真っ直ぐに彼におそかる!


「ふんッ!――ぬぅんッ!」


 カダンは大きな鼻息と共に、右手の金属小手ガントレットで力任せに敵を殴りつけた!


 振るわれた鋼の拳により、粗末な剣ごと砕かれたコボルドはえなく後方へ吹き飛んでゆく。そして倒れた魔物は剣の欠片かけらもろとも、闇色の霧となって消え去ってしまった。



「やるな団長ッ! よしッ、俺たちもいくぜッ!」

「うんっ!」


 エルスたちに気づき、魔物の群れが一斉にこちらへと接近する!

 戦い慣れたネズミや犬頭コボルドたちだが、暗闇のためか普段よりも凶暴化しているように感じられる。


「ひとぉ――つッ!」


 エルスは飛びかかってきた魔物の攻撃を軽くかわし、剣で斬り上げる!――そのまま身体をひねりながら剣を振り下ろし、さらに別の一体を真っ二つに両断した!



 しかし倒したのも束の間。

 暗闇からは、続々と魔物が姿を現してくる。



「一撃で倒せるようなザコばっかとはいえ、すげェ量だ。数えてる余裕はなさそうだなッ!」

「わたし、あっちの方を片づけてくる! エルス、ケガしたら教えてね?」

「ああッ! おまえも気をつけてなッ!」


 アリサは小さくうなずくと剣を抜き、エルスとは別方向の敵へと突撃する!



「はぁぁーっ!」


 気合いと共に魔物の群れに飛び込み、アリサは素早く剣を振るう!

 細身の刀身は魔物をやすやすと貫き――彼女は引き抜いた剣の勢いを乗せた一撃で、別の魔物を斬り裂いた!


 さらに、アリサに向かって振り下ろされたコボルドの剣を軽いジャンプで避け、その魔物ののどもとに、彼女は剣を突き立てた!



「よしっ――次っ!」


 床に崩れ落ちたらには目をくれず、アリサは剣を構え直して次の集団へと斬り込んでゆく!


 それは普段の穏やかな彼女からは想像出来ないような、あまりにも積極的な戦いぶりだった。



「へへッ、あいつも気合い入ってんなッ! じゃあ俺は――ッと!?」


 ふとエルスがカダンの方を見ると、なにやら複数の魔物を相手に苦戦しているようだ。彼が相手にしているのは、ベタベタしたねんせいの身体を持つ魔物のようだ。


「――スライムか。よしッ! 魔法で焼き尽くしてやるぜッ!」


 エルスは呪文を唱えると手をかざし、発動のタイミングを見計らう。

 そして、スライムがカダンから離れた瞬間!――魔力を解き放った!


「フォルス――ッ!」


 炎の精霊魔法・フォルスが発動し、エルスの周囲に複数の火の球が出現する!

 それは矢のように細長く変形し、スライムの群れへと降り注いだ!


「プキュゥゥゥ!」


 炎に焼かれ、音とも鳴き声とも判別不能な断末魔と共に、瞬く間にスライムたちは黒い蒸気となって、くうへと消滅した!



「団長!――無事かッ!?」

「おお、かたじけない! しかし、遺跡内は魔力素マナの濃度が低い! 魔力の消耗には、ご注意を!」

「わかった!――確かに、こう次から次へと出てくるんじゃ、常に全力ッてわけにもいかねェか……」


 魔物のそうくつに足を踏み入れた以上、戦いは避けようもないのだが、あくまでも目的は〝異変の原因を取り除くこと〟だ。


 戦闘を行ないつつも、何かしらのとなりそうなものを見つけなければならない。



 エルスは周囲を観察する。りょくとうや魔法に照らされているとはいえ、視界はあまり良くない。所々では瓦礫やくずれかけた柱が光をさえぎり、不気味な影を作っていた。


 その一角、何やらさいだんの跡らしき辺りの空間が、わずかにらめいたようにえた。



「団長ッ! アリサ! ここは任せたッ! 俺は向こうを見てくるぜッ!」

「うんっ! 無理しないでね、エルス!」

「ご無事で!」

「――ああッ!」


 エルスは二人と別れ、道中の魔物をはらう。

 そして真っ直ぐに、祭壇の場所へと駆け抜けてゆくのだった――。

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