第12話 はじまりの遺跡

 はじまりの遺跡。これははるいにしえの旧世界・そうせいの頃より存在していたとされる建造物だ。かつてはそうごんな神殿であったとおぼしきものの、今や石造りの外壁は大きくくずれ、そこかしこの隙間からは、薄暗い内部の様子が見え隠れしている。


 旧世界が終了し、さいせいとなった現代では、この崩壊した建造物がなる役割を有していたのか、もはやうかがい知ることはできない。


 ◇ ◇ ◇


 魔術士ザインの運搬魔法マフレイトに乗り、遺跡に到着したエルスたち四人だったが――。


 やはり事前に聞かされていた情報どおり、遺跡の正面入口からは原因不明の異変によって、魔物たちがもなくしていた。


 いっこうは魔物らに気づかれぬよう、遺跡の外周をしんちょうに回り込み、裏口と思われる小さな入口から内部へと侵入する。


 この場所は広間のような空間となっており、壁に設置されたりょくとうのおかげで充分な照明がされている。現在、自警団ならびに冒険者たちは、この広間を行動のきょてんとしているようだ。


 現場に入ったザインは運搬魔法マフレイトの動きを完全に停止させ、エルスたちを石床の上へ静かに降ろした。


「おおっと!――なんか久しぶりに、自分の足で立ったような気分だぜ」


「そうだね。ずっとフワフワしてたのに。不思議な感じ」


 二人は足場を確かめるかのように、ひび割れた石床に靴音を鳴らす。この感覚に慣れるまでは、うっかりバランスを崩してしまいそうだ。一方、すでに慣れた様子のカダンはザインに近づき、団長として彼にねぎらいの言葉をける。


「ザイン、ご苦労だった! しばらく休んでおいてくれ!」


「はい、団長。魔力素マナが回復しだい、私も参戦いたします。――皆様、どうかご武運を。『酒場でおぎょうよく』なんて、絶対にめんですからね?」


 ザインは一同に敬礼をし、広間の奥まった一角にある、細い通路へと去ってゆく。

 アリサは彼の後ろ姿を目で追いながら、自身の口元に指を当てた。


「さっきの話、ちゃんと聞いてたんですね。ザインさん」


「ハハ……。ああ見えて彼はかなりのしゅごうですからな! さあ、まずは此方こちらへ」


 エルスたちはカダンに連れられ、広間にいくつか存在する、扉の一つをくぐって入る。彼に案内された部屋は隣の〝拠点部屋〟よりも、少し小さめな空間となっていた。



 ここでも数本のりょくとうこうこうと周囲を照らしており、室内には複数のかんしんだいが並べられている。カダンいわく、こうした設備は「ここが〝騎士訓練所〟だった頃の名残」らしい。


 そうしたうんちくを手短に語り、カダンは入口の脇に立っていた、自警団員の一人に近づいてゆく。現在、ここは救護室として使用されており、寝台ベッドでは運び込まれた負傷者らの治療が行なわれているようだ。


「任務、ご苦労!――状況は?」


「ハッ! 団長! 残念ながらかんばしくありません。あふれ出る魔物は出来るだけ外へ流し、周囲の冒険者たちに対処いただいております!」


 そこまで報告した団員は周囲に目配せをし、やや声をおさえながら言葉を続ける。


「……むろん、この原因の大元を探るべく、内部の探索を続けてはおりますが……。なにぶん負傷者の収容に手一杯で、あまり探索そちらには手が回っていない状況です……」


「ウム、良い判断だ。くれぐれも人命を最優先で頼む。ファスティア自警団は〝人々と街の安全〟を守ってこそ、だからな!」


「ハッ! 承知いたしました!」


 部下からの報告を受けたカダンは、エルスとアリサの方へと向き直る。いつの間にか二人は背後にり、今の話を聞いていたようだ。そしてカダンは神妙なおもちのまま、二人の前で改めて姿勢を正してみせた。



「お聞きの通りです、おふたかた。――これより我々は遺跡内部を探索し、この異変の何らかのを特定・発見し、それを取り除きます!」


「おッ……、おうッ! 了解だぜ!」


「すごいことになったねぇ。エルス」


「未熟な新兵の訓練所となっていたしてとはいえ、この場所はれっきとした古代の遺跡! くれぐれも油断なされぬよう願います!」



 今後の方針を固めた三人は拠点部屋へと戻り、今度は遺跡の奥へと通じる扉の前へ集合する。この扉は、粗末な木材を組み合わせる形で急造されたもののようだ。


 しかし扉の外枠へ目をると、今朝エルスがの店で見たうすぬののカーテンのように、あわく光っているのが確認できる。


「この〝ほうしょうへき〟から先は、魔物のそうくつです! も万全とは言えませんが、危険を感じたら直ちに、へ引き返しましょう!」


 カダンは身振りを交えつつ、エルスらに注意をかんする。彼の真剣な様子に緊張しながらも、二人は戦いへの覚悟を決める。


「――準備は良いですな? 行きます!」


 カダンは手近にあった魔力灯を手にすると、しょうへきの施された扉を開け、暗闇の中へと勇ましく進み出ていった。


 エルスも右手で剣を抜き、団長のあとに続いてゆく。


「よしッ! いよいよ戦闘開始だッ! 気合い入れてくぜェ――ッ!」

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