第9話 冒険者の役割
過去の記憶を呼び起こしながら、ぼんやりと遠くを見つめているアリサ。
エルスは小さく首を
「おい、大丈夫か?……アリサ?」
しばらくするとアリサはエルスの声に気づき、ふと我に返る。
そして何事もなかったかのように、彼の灰色の眼に視線を合わせた。
「あっ……。うん、大丈夫。冒険者って、本当にすごいなぁって」
「おうッ! だってさ……。神様に頼ったって、
エルスは徐々に
「……いつだって、困ってる人を助けるのは冒険者だ。それが、冒険者の役割なんだ……」
エルスは冒険者への強い想いと、神への失望を口にする。
アリサは、そんな彼の横顔を静かに見つめた。
「エルスは神様のこと、嫌いになったの?」
「神頼みなんかより、自分でどうにかしたいってだけさ。別に嫌いなワケじゃねェよ」
エルスはどこか不機嫌そうに、再びワラ山に背中を預ける。
「じゃあ、わたしのことは?」
「嫌いじゃねェよ」
「さっきのエルフの人は?」
「あの野郎――ラァテルも、別に嫌いじゃねェよ。なんたってアイツも
エルスは言いながら、傷の癒えた右腕を見つめる。手痛い敗北こそ味わいはしたが、ラァテルの実力に認めるべきものがあったのも事実だ。
「そっか。わたしも、あの人も冒険者だもんね」
「おう! 冒険者に、嫌いなヤツはいねェよ!」
そう宣言したエルスの銀髪が、
「あっ。霧、晴れたねぇ」
「よしッ! やっと神様のウザッてぇ霧も消えてくれたし、外で
エルスは荷車から勢いよく飛び降り、服についたワラ
「やっぱり神様のことは好きじゃないのね」
「嫌いじゃねェけど好きでもねェよ! さあッ、魔物狩りにでも行こうぜッ!」
冒険者の役割の一つに、〝魔物狩り〟がある。
魔物は人々に対して見境いなく
だが、旅人や街の住人たちには当然、戦う力を持たない者もいる。
そうした人々を守るために魔物を狩り続けることも、冒険者の重要な仕事だ。
冒険者は狩りの中で、黒い霧とならずに残った魔物の部位や装備類を
時には珍しい品や貴重品が手に入ることもあり、常に
エルスたちも依頼をこなす
「おーい! どうしたアリサ?」
「うーん。なんか街の雰囲気が――って! エルス前見てっ、前っ!」
「……んぁ? なんだ……てッ! ブがあッ!?」
アリサの忠告で、エルスが前方を振り向いた瞬間。
なにか硬質な物体が、彼の顔面に直撃した!
「んへェ! にゃんひゃひょ……、ひょっひゃん!」
なんと、通りの向こうから全速力で走ってきた大男が、思いきりエルスに衝突したのだ。男の身に着けた
「大変申し訳ない! 緊急事態なのだ!」
大男は
「警戒レベル
「彼は例の盗賊どもによる、
「ウム、わかった! ザインが戻り次第、待機させておくように!」
さきほどの大男の指示により、周囲の鎧の男らは一斉に敬礼をする。
どうやら彼が、この集団のリーダーのようだ。
「団長! まだロイマン殿は酒場に!」
「わかった! 彼への交渉は自分が行なう! 他の者は冒険者たちに、周辺地域の掃討依頼を出せ!――以上!」
「承知しましたッ!」
「ハッ!
よく見ると、彼らの鎧にはファスティア自警団の紋章が刻まれている。団長と呼ばれた大男は指示を出し終えると、重い金属音を鳴らしながら酒場の扉を
「びっくりしたぁ。あれって、自警団の人たちだね。何があったんだろ?」
「ひはへぇよ……。ひくひょー! いきゃい……」
エルスの返答に首を
「……うわぁ……。大丈夫? セフィドするから、じっとしててね?」
「ひゃいひょーぶらっちぇ!」
「だって、なに言ってるのかわからないし」
アリサは唱えていた
「……べぶッ!……って、おまえ今のわざとだろッ!?」
「うん。なんか〝グチャ!〟って感じで、じっくり見たくなかったし」
「そんなに
エルスは鼻の
現在、その扉はしっかりと閉まり、ほんの少し前とは打って変わって、不気味なほどに静まり返っている。
「行くの?」
アリサの問いに、エルスは返答を
自身の幼稚な言動。
ラァテルとの勝負での敗北。
そして大勢の客から向けられた
もしもロイマンの仲間になることができれば、何かが劇的に変わると思った。
だが、結局は。
エルスは、じっと返答を待っているアリサの顔をしばらく見つめ――。
そして、大きく
「――よし、決めたッ! どうやら冒険者の出番らしいしな! 行こうぜッ!」
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