第7話 敗北を乗り越えて
勇者パーティへの仲間入りを賭けた対決に、勝利したのはラァテルだった。
ロイマンは勝者に対し、笑みと共に右手を差しだす。
「予想以上に良い
その手をラァテルが取った瞬間。
敗北したエルスは力なく、
まだ周囲の歓声が鳴り止まぬ中、勝負を終えたラァテルは黒いフードを外し、軽く左右に首を振る。フードの下から現れたのは、肩まで伸ばした美しい金髪に、青白くも
それに何より、彼の特徴的な
「えッ……? エルフ?
ラァテルの正体を知ったエルスは、今度は肩までガックリと落とす。
全身で絶望を表現したかのような様子は、さながら軟体生物のようだ。
「俺は力比べで……、エルフに負けた……?」
エルフ族は高い魔力と魔法の才能を持ち、長命を誇る種族である一方、筋力においては極めて虚弱といった特徴を有する。
魔法を織り交ぜた
「ハッハッハ! まさかエルフとはな! いいぞ、ますます気に入ったぜ!」
身体能力の劣るエルフ族が〝力比べ〟で人間族に勝利したことで、再び酒場は熱気と興奮に包まれた。
好き勝手に
もう誰も、彼のことなど見ていなかった。
――ただ一人の少女を除いては。
「エルス!」
「大丈夫?」
「あぁ……? なんだアリサか……。依頼は終わったのかよ?」
エルスは不機嫌そうに彼女から目を
「おまえ、いつから来てたんだ?」
「んー。あのオジサンが大声で怒鳴ったあたりかな」
アリサの返答に、エルスは小さく舌打ちをする。
「じゃあ見てたのか……。あれが〝勇者ロイマン〟だよ……」
「エルスの命の恩人だね。あと、わたしたちの親の
「それはッ!? いや……魔王は、
エルスは
「そうさ……。今度こそ俺が、魔王を倒すんだッ!」
「うん、そうだった。ごめん。一緒に頑張ろうね?」
再びフラフラと歩き出したエルスに近づき、アリサは小さな肩を貸す。
「いてッ……!
「あ、待ってね。それなら魔法で治してみるからっ」
「放っときゃその内治るッて! 大丈夫なのかよ? それ……」
「精霊魔法は間に合わなかったけど、光魔法はすっごく頑張ったんだから。動かないでね?」
不安げなエルスをよそに、アリサは小さく呪文を唱える。
「セフィド――っ!」
「どうかなぁ? 効いてる?」
「あ? ああ……。やるじゃねェか。効いてる効いてる!」
「よかった。半分ドワーフのわたしだと、これでも苦労するんだからねっ」
エルスはアリサの肩から離れ、痛みの引いた腕を軽く振ってみせる。
「ありがとな、アリサ! よしッと!」
「もう良いの?」
「ああ、バッチリ治してもらったからな! それに、どっちかッ
「魔法もアリだったら、エルスが勝ってたかもね。あの勝負」
「エルフ相手に魔法で勝負とか、それこそ
実のところエルスは、剣術よりも魔法を得意としている。しかし、圧倒的な
「そうかなぁ? でも、わたしはエルスが負けて嬉しかったかな」
「なッ!? おまッ……何でだよ!」
「だって、エルスが勇者のオジサンの仲間になっちゃったら――わたし〝ひとり〟になっちゃうし」
「……ぐあッ!? それは……」
エルスは憧れの存在であったロイマンに会えたことで冷静さを失い、最も身近なアリサの存在を全く考えていなったことに、
「スマンッ! 悪かったッ! 本当に……」
「あっ……。えっと、違うの。ごめんね、大丈夫だよ。でも……」
何かを言いかけたアリサ。
しかし彼女は言葉を切ったまま、そのまま静かに歩きはじめてしまった。
「でも……? どうした?」
「ううん、大丈夫。それより外に出たいな。ここ苦手かも」
「……そうだな。ここで飯を食いたいッて気分じゃねェし、外の空気でも吸うかッ!」
「行こっ!」
アリサはエルスの腕を
「おいッ、わかったから引っ張るなッて! この怪力女ッ!」
彼女に力強く引っ張られ、エルスは足をもつれさせながらも、なんとか外へと
エルスが受けた敗北の傷は、アリサのおかげで完全に癒されたようだ。
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