第6話 ライバルとの対決
エルスとロイマンの前に現れた、ラァテルと名乗る男。
彼はエルスには一切 目をくれることなく、ロイマンへ視線を向けつづけている。
「おい、おまえッ! いきなり出てきて何だよッ!? 俺が先にロイマンに……」
抗議の声を上げるエルスであるが、ラァテルは
「おいッ! 無視するんじゃねェ!」
「ロイマンに用がある。貴様との会話は時間の無駄だ」
「なッ!? なんだとォ――ッ!」
まるで大切な宝物を横取りされた子供のように。
エルスはラァテルに対し、激しい怒りを
しかし、ラァテルは彼を
そんな二人の様子を静観していたロイマンだったが、やがて「フッ」と息を
「フッフッ、ハッハッハッハッハッ!」
立ち上がるや、いきなり大笑いを始めたロイマンの様子に、周囲の客らは
「いいぞ! こいつぁ面白い! ここの連中は腰抜けばかりだと思っていたが、この俺に話しかける度胸のある奴が、二人もいるとはな!」
言いながらロイマンは壁際へ向かい、壁掛けの
そして真っ直ぐに、二人の前へと
「まあいい。新しい仲間を探しているのは事実だ。少しは見所のあるお前らに、チャンスをやろう」
「ふん。なるほどな」
「――なんだよッ? おいッ、どういう意味だ?」
勇者の意図が
「察しろ。時間の無駄だ」
「ぐッ……! ラァテル! イチイチ腹立つ野郎だなッ!」
「――そこまでだ」
すると大きな炸裂音と共に、二本の剣が木製の床へ突き立った。
「エルスにラァテルと言ったな?――
「おッ! なんだ、そういうことか!――よしッ、勝負だラァテル!」
興味がないと言わんばかりに、静かに目を
剣の造りはしっかりしており、先端は鋭利であるが刃自体は止められている。
完全に調度品として造られた、
「どうせ貴様では勝てん。やるだけ時間の無駄だ」
「おい、
「……良いだろう。承知した」
ラァテルも剣が引き抜いたのを確認し、ロイマンは背後の
「ここで
「なんだよ、なんか細けぇルールが多いな」
「ルールの無い闘いは、
「ヘッ! わかったよ! 望むところだ――ッ!」
大舞台で
気合い充分に剣を構えるエルスに対し、ただ剣をぶら下げて突っ立っているだけのラァテル。だが、フードの奥から覗く
「よし、始めろ!」
ロイマンの掛け声により、周囲からは大きな歓声が巻き起こった――!
「速攻で決めてやる! いくぜ!」
「さっさと来い。時間の無駄だ」
「――無駄無駄うるせェ野郎だ! 戦闘ォ――開始ッ!」
エルスは床を蹴り、一気に相手との間合いを詰める。
対するラァテルは――
「でやぁぁぁぁ――ッ!」
エルスの剣がラァテルを捉え、高速で振り下ろされる。しかし、捉えたはずの一撃は紙一重で
だが、避けられることはエルスも想定していたのか、間髪入れずにそのまま
「ふん……」
それもお見通しとばかりに。ラァテルは軽く上体を
「……うおぉッ!?」
不意に繰り出された攻撃に、大きく吹き飛ばされるエルス。
幸い、防具で直接的な打撃は受け流せたことで、受けたダメージ自体は少ない。
周囲の観客からは歓声が上がり、ジャラジャラとチップをやり取りする音が鳴り響く。二人の勝負が、早くも賭けの対象になっているようだ。
「チッ……。クソッ! そういう戦い方かよッ!」
エルスは立ち上がり、素早く剣を構えなおす。
まだ剣を落としてはいない。闘いは続いている。
「無駄な動きが多いな。無駄口も多い」
「おまえはイチイチ無駄無駄うるせェ―ッての! おい、今度はそっちから来いよ!」
回避からのカウンター戦法を取るラァテルに、攻め込むのは不利と判断したエルス。彼は
そんなエルスの挑発を鼻で
一歩、二歩。
まだ距離はある。
――だが次の瞬間!
エルスの目の前に、
「な――ッ!?」
エルスは思わず驚きの声を
ラァテルの動きに観客らも
すかさず繰り出されたラァテルの斬撃を、エルスは
調度品用の剣とはいえ、これが硬い金属板であることに変わりはない。それに速度もさることながら、ラァテルの一撃は見た目以上に鋭く、そして重かった。
「なんだよ今のは……、全ッ然見えねェ……ッ!」
エルスも負けじと剣を振るうが、ラァテルの体術により軽々と避けられてしまう。間合いを調整しようとするも、息つく間もなく繰り出される強烈な蹴りがそれを許さない。
「……うぐッ!」
ラァテルの足による一撃を、エルスはどうにか剣の腹で受け止める。
しかし、身体全体に伝わった衝撃により、大きく体勢を崩されてしまった――。
「おお――ッと! まだまだァッ!」
エルスは重心を低くし、とにかく倒れまいと踏みとどまる。そこへ、さらに身体の
「しまッ……!? ぐあァ――ッ!」
エルスの右腕に、強い衝撃と鋭い痛みが走る。
そして、乾いた金属音が酒場内に鳴り響いた。
ついに、エルスは剣を落としてしまったのだ――。
ラァテルの
「――よし! そこまでだ!」
ロイマンの一声で、一瞬の静寂は大きな歓声へと変化した――!
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