第21話 小さな成果
商人ギルドの
この〝
「あんたは
「はて、魔導義体?――おお、確かギルド〝ドミナ工房〟の商品ぢゃな!」
「へッ! 図星だろッ!?」
「うぬ。残念ながらハズレぢゃ」
エルスの推論に、迷いなく不正解を宣告するシュセンド。
自信満々に言い放った推理を軽く受け流され、エルスは大きくバランスを崩した。
「――ッて、違うのかよッ……」
「あの
「うー? 本当なのだー?」
「もちろんぢゃ。ギルドの契約上、無理強いは出来んしの」
「確かに
自身の
「でも、ドミナさんは『商人ギルドに
「脅しぢゃと?――まさか! ウチはランベルトスで最も
そう言い終えたシュセンドは「ひょひょひょ」と笑う。彼は
「んー……。わからねェな――ああッ、頭使うのは苦手だぜ! こういう時、ニセルが居りゃなぁ……」
「そうだねぇ。ニセルさん、どうしたんだろ?」
彼自身が言及している通り、エルスは頭を使うのが得意ではない。
現在は策略や頭脳戦に長けるニセルを欠いていることも、
「うーん……。やっぱ、明らかに怪しいのは〝
「――ならんっ!」
言いかけたエルスの言葉を、突然の怒号が
驚いて声の方向を
「アヤツに近づいてはならんっ……!
「えッ……。そう言われてもよ……」
「アヤツには、ワシが話をする。頼むっ」
「うーん……。わかった! そこまで真剣に言われちゃ仕方ねェ」
エルスの返答を受け、シュセンドは深い
「ただ、これだけは確認させてくれ。戦争するつもりは
「もちろんぢゃ。商人の誇りに誓って、戦争なぞ考えとらんわい」
「――だッてよ、クレオール! それじゃ、ひとまず〝依頼〟の方は大丈夫か?」
「えっ? ええ、お父様が恐ろしいことを考えておられないのなら……」
クレオールは驚いた表情のまま、ゆっくりと
エルスは彼女の顔を見て、満面の笑顔で親指を立てた。
「よしッ! それじゃ一旦、俺らは帰ろうぜ!」
「うん。ずっとここに居ると気持ち悪くなっちゃうし」
「ミーは一刻も早く、外に出たいのだー!」
疑問は多く残るが、この異様な広間からは一刻も早く脱出したい。
エルスの提案に、アリサとミーファは即座に同意する。
「それじゃまたな、
「かまわんぞい――。はて? そういえばオヌシら、どこから入ったんぢゃ?」
「へへッ、冒険者の〝企業秘密〟だ! じゃあな!」
「――あっ、お待ちを。お見送りいたしますわ!」
手を振りながら謁見室から出て行くエルスたちを、クレオールが追いかける。
娘らの後ろ姿をぼんやりと眺めていたシュセンドだったが――彼は重要な事柄を思い出し、不意に我に返る。
「まっ……待つのぢゃクレオール! まずは着替えを――!」
シュセンドは慌てて叫んだものの――
声は分厚い扉に
エルスたちは商人ギルドの正面玄関を抜け、久しぶりの街に出る。
〝厳重な警備〟と
「ふぅ――ッ! あぁ、外の空気が
「もー。髪とか服にも、臭いが付いちゃったかも……」
「ふっふー! 正義のメイド服は、臭いも汚れも寄せ付けないのだー!」
地下や窓の無い室内に居たために気がつかなかったが、すでに
「皆様、本当にありがとうございました」
「うーん。でも、なんだかスッキリしないねぇ」
「ああッ。まだ終わっちゃいねェ。でも、あのまま話を続けても
エルスは言いながら、強く拳を握りしめる。
彼の言う通り、
「えっ? それではやはり、お父様は……」
「いや。多分、
「あの〝
勇ましく拳を突き上げるミーファに、エルスも力強く頷いてみせる。
「とりあえず俺らは戻って、ニセルと作戦会議だ」
「では
「なぁ、クレオール。無理はしねェでくれよ? あの時の
エルスが〝博士〟に言及した際の――終始掴みどころの無い様子だった
自身も調査を続行しようとするクレオールに対し、エルスも彼女への心配を
「わかりましたわ……。ええ、あんなに真剣なお父様は初めて見ましたもの……」
「おうッ、くれぐれも気をつけてな!――それじゃ、またな!」
エルスたちはクレオールと別れ、ランベルトスの大通りへと出る。
まだ慣れない街ではあるが、酒場へ続く路地までは一本道のため、案内なしでも問題なく辿り着けるだろう。
「エルス……。また会えるわよね?」
クレオールは三人の姿が
そして彼女はひとり静かに、ギルドの中へと戻っていった。
その頃――。ランベルトスの外れにある資材置き場では、ゴロツキ風の男が二人、酒を片手に雑談を交わしていた。彼らの
「おい、飲みすぎんじゃねぇぞ? ノルマは終わっちゃいねぇんだ」
「ケッ! あの変態野郎が! 飲まなきゃやってらんねーだろぉ!」
「少しは黙れ。誰が聞いてるかわからねぇ」
「へーいへい!――おっ、お客さんだぜぇ? おっしごと、おっしごと!」
短気な男は酔いで震える指先を、資材置き場の入口へ向ける。冷静な男がそちらを見ると、右手に小手を
「一発頼むぜ」
「あいよ。おい、狙いは外すなよ?」
「へーっへっへ! 任せろぉ! おらよ――ォ!」
二人の男は差し出された右腕に向かって、交互に武器を振り下ろす!
やがて攻撃を受けた腕は
「ふー。あのドワーフ女め、無駄に頑丈にしやがって。頭まで響いちまったぜ」
右腕を失った男は苦笑混じりに言い、その場に
そして冷静な男が用意した小さな革袋を、残った左手で受け取った。
「ああ、まったくだ。また頼むぜ」
片腕になった男が立ち去ったあと――ゴロツキの二人は切断した腕を回収し、大きな革袋の中へ放り込んだ。そして再び木材を背に、酒盛りを再開し始めた。
「ふっ、なるほどな。ここで
「――あぁ? 誰だ!?」
不意に聞こえた声に、二人が驚いて立ち上がる。すると暗闇の中から、ニセルがゆっくりと姿をみせた。彼は小さく左手を挙げ、義体化された手首を回転させる。
「なんだよ、買い取り希望者か。さっさと腕を出しな」
「その前に、誰の命令か
「へっへへ、馬鹿かおめぇは! 知る必要はねぇーよ!」
「ふっ。そうか――」
ニセルは素早く移動し、短気な男の
そして彼の腹部に、思いきり右手を
「おっ……ぐぇっ……!」
「てっ、てめぇ、何者だ! 何しやがる!」
倒れた仲間を見て、冷静な男が武器を構える!――だが彼は、ニセルの右手に光る
「その
「さあな。知る必要はないだろう?」
「まっ……待て! 〝暗殺者ギルド〟に逆らうつもりはねぇんだ! 頼むっ!」
ニセルの正体を察し、男は観念したかのように両手を上げる。
彼の手から落下した武器が、鈍い音と共に地面へ落下した。
「もう一度だけ
「ゴッ……ゴブリンだよ! 名前なんか知らねぇ!」
「ほう。だがオレが訊いているのは、〝命令した奴〟のことだ」
ニセルは目を細めながら、ゆっくりと男へ近づく。
冷静だった男は小刻みに震え、口の端に白い泡を
「……ぅ……ぁぁ……。だっ、だめだ!――それだけは言えねぇ! 殺された方がマシだ!」
「では、そうするか――」
「ぅ……ぐっ……!」
「そこで寝ていろ」
ニセルの
どうやら、二人とも気を失っているだけのようだ。
男らの側に置かれていた大きな袋を回収し、そのままニセルは大通りへ向かう。
通りの向こう側からは、見知った三人がこちらへ歩いてきた。
「おッ! ニセル、やっと会えたぜ!」
「ニセルさん、どこ行ってたの?」
「詳しく聞かせるのだー!」
「ふっ、色々さ。とりあえず、酒場へ戻るとしよう」
「ああッ! 早く帰って
小さな成果と大きな疑問を抱え、四人は酒場への
ランベルトスの街には
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