第20話 ギルドの支配者
先陣を切り、勢いよく
――だが、室内の様子を見るなり、彼は大きな叫び声を上げる。
まずエルスたちの目に飛び込んできたのは、強烈な金色の光。壁や床、柱や内装品に至るまでが
「なッ……なんなんだよ、こりゃ……」
「うぷっ……。わたし、ここ無理かも……」
アリサは吐き気を抑えるように、口元をマントで
祝宴会場のような大広間のいたる所にはテーブルがあり、豪華な料理が山盛りに並んでいる。香り立つそれらの種類と量の多さが混ざり合い、もはや〝
「うえぇー! 入りたくないのだー!」
「
「なので
本陣へ乗り込むなり、早くもダメージを負ってしまったエルスたち。
視覚と
「えーっと、
「ええ……。
黄金や宝石で飾られた玉座には、〝肉で構成されたスライム〟とでも表現すべき男が座していた。おそらくは人間族であろう彼だが、体格は常人の三倍以上はあり、そのほとんどは脂肪によって成り立っている。
彼の周囲にはメイドや踊り子のほか、ウサギやネコの
「とんでもねェ所に来ちまった……。ええいッ! もう行くしかねェ!」
エルスは覚悟を決め、柔らかい
「なんぢゃね、オヌシらは? 今は〝れぢゃあ〟の時間ゆえ、邪魔せんように言うておったのに……」
「俺は冒険者のエルスだ! あんたに話があって来たぜッ!」
「冒険者ぢゃと? そんなもん、ワシは呼んだ覚えはないぞい?」
シュセンドは言いながら、
「
「むぅ? クレオールよ、どうやって――いや! それより、そのドレスは!?
クレオールの姿を見たシュセンドは
「
「うぬ? 話ぢゃと?」
「ああッ! アルティリアと戦争しようッてあんたの
「はて、戦争ぢゃと?」
二人が声を
「お父様は
「あんたが〝
「降魔の……? おお、あれか!――はて? あの〝失敗作〟ならば、処分するように言っておいたんぢゃがの」
――さきほどから、どうにも話が噛み合わない。
エルスはシュセンドの姿を、改めて観察する。悪趣味な衣装と王冠を
「うーん……。なんか、
「エルス……。その、
「なぁ、クレオール。一旦冷静になって話し合ってみようぜ?」
「……そうですわね。ニセルさまにも『落ち着いて情報を整理すべき』と
エルスたちは冷静な対話をすべく、再び
少し目を離した隙に、シュセンドは手近にいたメイドを抱き寄せて、〝れぢゃあ〟の続きを楽しもうとしていた。
「あんたさっきから、娘の前で何やってんだよ……。なぁ
「はて?
ぷるぷると全身を震わせるシュセンドに対し、エルスは一つずつ質問を切り出す。
「まずは降魔の杖についてだ。ファスティアにアレを送り込んだのは、本当にあんたじゃねェのか?」
「もちろんぢゃ。アレは改良に失敗した不良品ぢゃからの。そんな品物を、世に出すわけにはいくまいて」
「盗賊団のジェイドたちに依頼を出したのは、あんたなのか?」
「盗賊ぢゃと?
だが父の答えに納得がいかなかったのか、クレオールがさらに前へ足を踏み出した。
「では、ゼニファーという
「おお、あの
「やめてくださいまし!……
パチリとウィンクをしてみせた父に対し、クレオールは嫌悪に満ちた身震いをする。一通りの問答を終えたことで、エルスたちは再び相談をすることに。
「んー。どう思うよ、
「なんだか、はぐらかされてる感じだけど」
「うー。
「ひょひょ、当然ぢゃ! 商売は信用が第一ぢゃからの!」
そう言いながら、シュセンドは上機嫌に笑う。
彼を真っ直ぐに見つめ、エルスは最後の質問をする。
「じゃあ次だ――。さっき地下にいた〝
エルスが博士の名を出した
弾力のあるシュセンドの顔が、文字通りの
「アヤツは……。ただの協力者ぢゃ。世界征服のため――おおっと! 新商品の開発のため
「あっ、いま『世界征服』って言った?」
「いっ、言うとらん……!」
「信用が第一なのだー! 嘘はいけないのだー!」
「うぐっ……。知らん知らん!」
シュセンドは口を
「なぁ。あの地下牢に入れられてた商人も、あんたの命令なのか?」
「
「……死んだよ。あの博士ッて奴の命令でな」
「なんぢゃと?」
予期せぬ報告に
「それはアヤツの家宝……。博士め、殺すことはなかろうに……」
「この〝
「……むぐぅ。冒険者よ、エルスといったか? わかった、すべて白状しよう……」
シュセンドの話によると――〝博士〟なる人物は数ヶ月前、ふらりとランベルトスに現れたらしい。その当時、新たに
「ワシはこんな
「でも、みんなの意見で選ばれたんじゃ?」
「あくまでも表向きは、の。政治の世界はドロドロしとるもんぢゃ」
「野望とは何なのだ? まさしく悪の
「それはまだ言えん。商人にも企業秘密というものがあるのぢゃ!」
なぜかミーファを
〝野望〟の内容は気になるが、これまでの発言と照らし合わせる限り、物騒なものでは無いようだ。エルスは再び、シュセンドに
「んじゃ、博士の名前とかは?」
「不明ぢゃ。『没落した貴族の流れ者』だと言うておったが……。素晴らしい技術を持っておったゆえ、ワシも不毛な
「杖の改良も、その人が?」
「いかにも。あれを
そう言うとシュセンドは、チラリと周囲の美女たちへ目を
彼女らは先ほどから妙にカクカクと、不自然な動きをしていた。
「あー! この女の子たち、〝人形〟なのだー!」
「うひょ! ばれてしもうたか。やはり、まだ〝りありちぃ〟不足ぢゃの……」
ミーファの言うとおり――彼女らの腕や頭には、魔導繊維による細い糸が何本も繋がれていた。糸は天井へと伸び、天板は
「まさか野望ッて……。〝そいつら〟なのか……?」
「ひょひょひょ! これは第一歩に過ぎんのぢゃ!」
「この部屋といい、この
「えっと、つまり人形を動かすために杖を? あっ、それって……」
「そうかッ、
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