第16話 たたかう少女たち
洞窟内に響く金切り声と振動音――。
頭上と足元から同時に迫る敵意に備え、エルスたちは身構える!
「エルス、クレオールさんをお願い! こっちはわたしとミーファちゃんが!」
剣を右手にしたアリサが、早口で言う。
彼女は
「お、おうッ! わかった!」
「皆様、よろしくお願いいたします!」
「ふっふー! どーんと任せるのだ!」
エルスは
すると、こちらの準備が整うのを待ちかねていたかのように、頭上から大型のコウモリの魔物――ジャイアントバットの群れが飛来した!
「ソルクス――っ!」
アリサは唱えていた
だが当然のことながら、これでダメージを与えた様子はない。
「それっ! どーん!」
ミーファは空中のコウモリに向かって跳び、巨大な斧を振り回す!
数匹の獲物が刃と風圧による衝撃波に巻き込まれ、次々と床に落ちた!
「ビギェェェ――ッ!」
落下した
「やあっ! はあ――っ!」
アリサはミーファが討ち漏らしたコウモリを、剣で正確に貫く!
「よしッ、いいぞ二人とも! それじゃ俺は、ッと……」
エルスは杖を収納し、両手で剣を構える。アリサが新たに打ち上げたソルクスのお陰で、視界は問題ない。彼は真下から響いてくる振動音を探るように、足に神経を集中させる――。
「――そこだッ!」
気合いと共に、エルスは地面に剣を突き立てる!
その硬く締まった砂地の下に、確かな手ごたえを感じた!
「へッ、どうだッ!――ッて、うおおッ!?」
見えぬ敵への勝利を確信したエルスだったが――
すぐに大きく
剣の周辺の地面がみるみる盛り上がり、やがて大きく炸裂した!
エルスは体勢を崩されつつもクレオールの側まで走り、飛び散った石つぶてから彼女を
「
地面から現れた巨大ミミズの魔物――ケイブワームを見上げ、エルスは思わず
「エルスっ!――すみません。えっと、大丈夫ですか……?」
「おうよッ! ただのデケェミミズだ、心配ねェさ!」
口元の血を
先程の石が、彼の顔面にも当たったようだ。
「エルスっ! クレオールさんも、こっちに!」
「ふふー! ミーたちに任せるのだー!」
「おッ、悪ィな!――よしッ! クレオール、走るぜ!」
エルスはクレオールの手を掴み、アリサが陣取っていた通路付近まで退避する。
そんな彼らと入れ替わりに、アリサとミーファが勢いよく
「おー! なかなかの大物なのだ! アリサ、一緒に成敗するのだー!」
「わかったっ! それじゃいくねっ!」
ミーファが高く
対するワームの方は、目の前に迫るアリサに狙いを定めたようだ――。
「よーし、今なのだ! どーん!」
「はあぁー!」
迎撃の構えをとっていたワームに、ミーファが放った巨大な
思わぬ不意打ちに
「ギョオボボゴボエェ――ッ!」
汚水が管を流れるような不快な叫び声を上げ、ワームが長い
「さすがの巨体だなッ! 気をつけろよ、まだ生きてやがるぜッ!」
「うんっ! エルスも気をつけて!」
アリサの忠告に従い、エルスはクレオールを
こちらにも新たに、スライムの群れが迫っているのだ。
「ふふー! いきなり大歓迎されてるのだー!」
ミーファは
鋼の
その太ましい胴体も、皮一枚で繋がっているような有様だ。
「よしっ、次で決めちゃおうっ!」
魔物の動きを
すでに虫の息とはいえ、初めて戦う相手だ。
それに、これ以上囲まれてしまっては、保護すべきクレオールにも危険が及ぶ。
「りょーかい!
「よろしくねっ!――たあぁーっ!」
アリサは地を
それを待ち構えていたとばかりに――
ワームは鋭い槍の
「――っと! これでっ! 終わりっ!」
ワームの
すでに
だが、残された半身は
その筒状の断面から、巨大な岩石弾を発射した!
「……あっ? やっちゃっ――」
「ふふー! 甘いのだ!」
アリサの危機に――
ミーファは不敵な笑みと共に、唱えていた魔法を解き放つ!
「リカレクトぉ――!」
土の精霊魔法・リカレクトが発動し、アリサの周囲を守護の結界が包み込む!
「もー! 今度こそ終わりっ! 終わりっ!」
珍しく取り乱したように剣を振り、アリサはワームの半身をザクザクと切り刻む!
やがてすべてが、黒霧となって消滅した。
「はぁ、びっくりしたぁ。ありがとね、ミーファちゃんっ」
「ふっふっふ! 礼には及ばないのだ!」
地面に
アリサがエルスたちの方へ目を向けると、そちらの戦闘も決しようとしていた。
「ええいッ! ベタベタとしつけェんだよッ!――ゴラムッ!」
エルスは地面に手をつき、土の精霊魔法・ゴラムを発動させる!
目の前の地面には無数の岩の槍が生え、にじり寄るスライムの群れをまとめて刺し貫いた! 針山からは小さな破裂音と共に、大量の黒い霧が流れ出す――。
「――ふぅ。とりあえず片づいたぜ。大丈夫か?」
エルスは岩槍に視線を残したまま、クレオールに
魔法によって生み出された
「え……、ええ。
「へへッ! こんなモン、放っておけば治るさ!」
「あっ……。少し待って! せめて治療を――」
――祈るように手を合わせ、クレオールは小さく呪文を唱える。
「セフィド――!」
クレオールは震える手で、
「んべッ!?――わッ、わざわざありがとなッ!」
「あっ、すみません……! いえ、こちらこそありがとう……」
スカートの端を軽く
そしてアリサたちも魔物の気配を警戒しつつ、エルスの元へとやって来た。
「エルス、大丈夫?――あれ、さっきのケガは?」
「んッ? ああ、今さっきクレオールが治してくれたぜッ!」
「あっ……。そうなんだ。よかったね……」
アリサは呟くように言い、くるりと後ろを振り返ってしまった。
「おうッ! どこまで続くかわからねェし、光魔法があると心強いよなッ!」
「はい。次は
クレオールは武器を所持していないようだが、光魔法の心得は充分のようだ。
心強い仲間を得たことで、ミーファも勇ましく拳を突き上げる。
「それじゃ出発なのだー! 正義の道は、こっちへと続いているのだ!」
「うん。じゃあ行こ。……はやく終わらせたいし」
「のんびりしてると襲われちまうしな。――ッて、アリサ!? 危ねェから固まって進もうぜ!」
エルスがいつもの号令を掛ける前に、アリサはそそくさと前進を始めてしまう。
彼女を見失わないよう、仲間たちは慌てて
「ふっふっふ! アリサにも熱い正義の血が目覚めたのだ! さー、共にゆくのだー!」
「そうだね。わたしもミーファちゃんみたいに『どーん!』って、しちゃおっと」
「おーい、待てよッ!――ッと、明かり明かり……」
エルスは
まだ杖には明かりが残っていたものの――その光には少し、
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