第6話 和解と別れ
激闘の末、〝正義の賞金稼ぎ〟を名乗る少女・ミーファを打ち負かしたエルス。
ミーファは大の字になったまま、未だ街道で目を回している――。
「すごい……。まさか倒しちゃうなんて……」
「この子大丈夫かなぁ? ちゃんと生きてる?」
「ふっ。エルスのことだ、心配ないさ」
「うっうっ……。ミーは悪人の
「悪人じゃねェし! 頼むから、こっちの話を聞いてくれよなッ」
エルスは持っていた剣をベルトに差し、倒れたままのミーファを抱き上げる。
そして街道の脇に立っている、仲間たちの所へと移動する――。
「書庫の本で読んだのだ……。ううー。もう好きにしていいのだ……」
「どんな本なんだよ……。なぁ――さっきから、こいつは何を言ってんだ?」
「さっ、さあっ? 〝そういう本〟でも、あるんじゃないかしらっ?――私は知らないけどっ……」
そう言ってジニアはズレた眼鏡を元に戻す。
アリサは首を
「へぇ、まぁいいや! アリサ、回復魔法を頼むぜッ!」
「わかったっ!」
――アリサはミーファに手をかざし、小さく呪文を唱える。
「セフィド――っ!」
治癒の光魔法・セフィドが発動し、アリサの
「あっ、ドワーフの匂いがするのだ。そなた、名前は何というのだ?」
「えっ? わたしはアリサだよ。ミーファちゃん、よくわかったねぇ」
「当然なのだ! ミーの正義に見抜けないものはないのだー!」
「どこがよっ!
エルスの腕から飛び降り、ミーファは得意げに胸を張る。
そんな彼女に対し、ジニアは力強く抗議の声を上げるのだった――。
「それで――ミーファは、なんでジニアのこと狙ってたんだ? さっきの紙、ちょっと俺らにも見せてくれよ!」
「わかったのだ。ご主人様には絶対服従するのが、奴隷の正義なのだ!」
「なんだよご主人様って……。俺はエルス! そっちの仲間はニセルだ!」
エルスはミーファから受け取った紙束を、ペラペラと
「あっ、それなのだ! まさに悪人の顔なのだ!」
「……えっ? これがジニアちゃん?」
「ちょっ!?……何よこれ! 全然違うじゃない!」
ミーファが指した手配書には――
紫色の髪に眼鏡を掛け、嫌らしい笑みを浮かべたヒゲ
「んんッ? これって男……だよな?」
「ほらエルス、小さく名前が書いてあるよ。〝ボルモンク
「おッ、ホントだ! なぁ、ジニアって
「しっ、知らないわよっ!――って、突っ込む所は
ジニアは赤面し、全力で突っ込みを入れる。ニセルは後ろを向き、笑いを
戦闘にこそ、なってしまったが――。
誰の命も失われることなく、無事に誤解を解くことができた。
「ううっ、ミーが間違ってたのだ。申し訳ないのだ……」
「もっ、もういいわよっ。あなたも痛い目に遭ったし、ちゃんと謝ってもらったから……」
「よかったなッ! じゃあ早いとこ
「ああ。船に乗るなら、急いだほうがいいだろう」
ニセルは真っ直ぐに、海の方角を指で示す。
エルスたちは頷き――ボロボロになった街道を、西へ向かって歩き始めた。
街道の敷石は砕け、見るも
「そうだアリサ。
「あっ、うん。ほんとはエルスのなんだけどね」
「そうなんだけどさ! まっ、おまえが使えそうな武器が見つかるまで使っておいてくれよ!」
アリサは彼から剣を受け取り、それを腰の
真っ白な街道を進むにつれて――
磯の匂いが鼻をくすぐり、潮風も強くなってゆく。
やがて
「おッ、着いた着いた!」
「うーん? でも、なんだか……」
「ええっ――!? う、嘘でしょ……!」
「ふっ、人通りが無さすぎるとは思ってはいたが。キナ臭いな」
門には木製の
「おっと、悪いな団体さん。いま、カルビヨンは取り込み中でね。観光なら、今度にしてくれないか?」
「あの――私は、
「ん? その
「えっと、これが学生証で……。これが乗船券で……」
――ジニアはバッグから次々と書類を取り出し、それをバンダナの男に見せる。
「ああ、良いぜ。リーゼルタ行きは今日が最後だ! お嬢さん、運が良かったな」
「おッ! よかったなジニア! よし、俺たちも――」
「――おおっと! 悪いが、他の連中は遠慮してくれ。カルビヨンは観光都市だ。本当は寄ってってもらいてぇんだけどな」
男は申し訳なさそうに言い、ボリボリと頭を
詳しい事情は不明だが、この封鎖は彼にとっても不本意なのだろう。
「そっか。それじゃ、ジニアちゃんとはお別れだね」
「うー。名残惜しいのだー」
「ありがとうね、アリサちゃん。……
三人の少女は互いに握手し、別れを惜しむように軽く抱き合う。
そしてジニアはゆっくりと、エルスの前へと近寄ってゆく。
「ありがとうね、エルス――。せっ、せっかくだから、
彼女はバッグから片手持ち用の
軽い金属製の杖の先端には透明の
「えッ、いいのか? ジニアが使うヤツなんじゃ」
「わっ、私はまだ学生だから、外で魔法は禁止されてるし! それに、帰ったらまた同じのを作ればいいし……」
「へぇ、ジニアの手作りなのか。それじゃ遠慮なくッ!」
「てっ、手作りって!――実習で作っただけよ! もうっ、魔法使うなら、杖くらい持っておいた方がいいわよ!」
「おうッ! ありがとなッ! それじゃ、元気でッ!」
エルスは貰った杖を冒険バッグに
ジニアは戸惑いながらも、その手をそっと握る――。
「短い間だったが。また会おう、ジニア」
エルスに続き、差し出されたニセルの右手を赤面しながら握り返し――
ジニアは独り、港町の奥へと進む。
周囲にはいつしか、
「……ねぇ? もし、私が冒険者になったら……。また一緒に……」
ジニアは小さく呟き、振り返る。
霧に包まれたゲートの向こうでは、まだ四人が手を振ってくれていた。
白く
ジニアは姿勢と眼鏡を正し――ひとり、船着場へと駆けだすのだった――。
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