第2章 ランベルトスの陰謀
第1話 街道での日常
広々とした街道を
その先頭を歩く銀髪の若者が、
「ふわァ……、久しぶりに晴れ晴れした気分だぜ! ついに冒険のはじまりって感じだよなッ!」
この若者の名はエルス。
長らく足止めをされていた街からの
「そうだねぇ。エルス、今度はムダ
エルスの隣を歩く少女が、彼の顔を覗きこむ。
少女の名はアリサ。エルスの幼馴染であり、旅の相棒でもある人物だ。
彼女は茶色のポニーテールに赤いリボンを着け、細身の剣を
「ヘッ、わかってるッて! 今度はニセルもいるし、もう同じ失敗はしねェよ」
「ふっ。
ニセルと呼ばれた男がそう言いながら、前方の林を指さした。
彼は深い青色の髪を逆立てており、全身を黒いマントやマフラーで
*
「よしッ! ここからは、林の
「そうだねぇ。今日は、まだ一匹も倒してないし」
この世界に生きる人類に対し無差別に攻撃を仕掛けてくる、〝魔物〟と呼ばれる存在たち。それらを積極的に
とはいえ人通りの多い街道では、必然的に多くの冒険者らに討伐されることとなり、あまり
しかし街道には魔物の代わりに現れる、別の
「二人とも、その前に。どうやら
エルス
*
「おい、ネェちゃんよ! コッチもワケありでな。ここは仲良く助け合おうぜ!」
「やめてください! 貧しいツリアンにとっては、これでも貴重な資材なんです!」
「ケチくせぇこと言うなって! じゃあ代わりに、ネェちゃんが俺たちに尽くしてくれてもいいんだぜぇ?」
二人の男らはニヤニヤとした
すると女性はエルスたちに気づき、助けを求めるように手を伸ばした。
「あっ、そこの冒険者さん! どうかお助けを!」
「んあぁ? 冒険者だぁ? そんな手に……」
しかし男が振り返ってみると――。
そこには哀れむような顔で二人を見つめている、エルスたちの姿があった。
「なんだテメェらは! 俺たちの仕事の邪魔すんじゃねぇ!」
「いやぁ、さっきから〝ザ・盗賊!〟みてェなことばっか言ってンなッて。――あッ、そこの
「はっ、はい! ありがとうございます!」
エルスからの言葉を受けるや、地面にへたり込んでいた女性は大きなカゴを抱え、
「
そう言ったヒゲ
「実は俺らはなぁ、あのシュ……? シュッシュ? ジェイド盗賊団の一員なんだぜぇ!? 殺されたくねぇなら、出すモン出しなぁ!」
もう一人の男はありふれた
「んんッ? それッて〝
「なっ!? なんで、その恥ずかしい名前を知ってやがんだぁ!?」
「何で、ッて言われてもなぁ……。ああ、ジェイドなら、とっくにランベルトスに行ッちまったぜ? もうこの
涼しげな顔で言うエルスに対し、盗賊は剣の切っ先を突きつける。
「けっ! 盗賊が簡単に
「仕方ねェな! じゃあ、ひゅぅ――」
残念ながら、
「はぁッ! ヴィスト――ッ!」
風の精霊魔法・ヴィストが発動し、エルスの
「ふごぉ――!」
飛ばされた男は空中で一回転し、「べっ!」と顔面から地面に落下した。
「おっ、オイ!? こん
甲高い声の盗賊はナイフを構え、エルスに飛び掛かろうとする――が、背後に回りこんでいたニセルが寸前で、彼の喉元に刃を当てた。
「おっと、そこまでだ。そっちの奴は死んでいない。お前さんはどうする?」
「ぐっ、クソっ! テメェ!? この
「ふっ。そういうことだ」
ニセルの武器で相手の実力を悟ったのか、甲高い声の盗賊はポロリとナイフを落とす。見れば後ろに吹き飛んでいた男も立ち上がり、すでに両手を挙げていた。
*
「テメェら、本当にボスと知り合いのようだな。実は俺ら、カルビヨンの街道を狙ってたんだが、最近はオッカネェ奴が張り込んでてよ」
「仕方ねぇんで、このショボくれた街道でコソコソやろうとしてたワケさ。まっ、オメェらのせいで失敗しちまったがなっ!」
盗賊たちはショボくれた顔で、お互いを見合わせる。
完全に自信を無くしてしまったのか、悪人の表情は消え去っている。
「これじゃ、ランベルトスにゃ帰れねぇな。いっそ、
「けどよぉ、ファスティアは〝自警団〟の連中がなぁ……」
「大丈夫だッて! あの団長なら、真面目にやり直すつもりの奴を捕まえたりしねェからさ!」
「
「俺はエルス! あんたらと同じ、ただの冒険者さ!」
このエルスの言葉が響いたのか――。
盗賊たちはノソノソと、ファスティアの方角へと去っていった。
したがって彼ら盗賊たちも、冒険者としての一側面。その一端を担う存在なのだ。
*
「あの人たち逃がしちゃったけど。よかったのかなぁ?」
「心配ねェさ、ニセルも止めてくれたし! もちろん必要なら倒してたけどなッ!」
「まっ、今のお前さんなら――。オレが出る必要は、なかったかもしれんがな」
昨日までは対人戦に
「そういえば……。似てなかったねぇ、さっきのモノマネ」
「ふっ。確かにな」
「そッ、そこは別にいいだろッ! ほらッ、早くツリアンに行こうぜ!」
エルスは拳を高く突き上げながら、街道を意気揚々と歩きだす。
そんな彼らの天上で、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます