第48話 果たすべき仕事

 勢いよく扉を蹴り開け、中へと突入した三人――!


 だが、室内の男らはエルスたちの侵入に気づいていなかったのか――驚きや戸惑いの色を浮かべる者や、粗末なテーブルやたるの上で酒やカードに興じている者もいる――。


 「よう、邪魔して悪いな。お前さんたちのボスにきたいことがあってな。取り次いでもらえるかい?」


 ニセルは馴染みの店に来たかのように軽く手を挙げ、一歩進み出る。

 部屋はそれなりの広さがあり、見たところ、盗賊は七人居るようだ。そのうち一人はさかだるに突っ伏し、未だいびきをかいている。


 「何だテメェらは!? おい、外の野郎どもはどうした!?」

 「ふっ、答えはひとつだろう?」


 「チッ、使えねぇ!――誰か、ボスとアネに知らせろ! とにかくコイツらを始末するぞ!」


 盗賊の一人が剣を抜くなり――

 ほかの男たちも次々と武器を手に、こちらを取り囲む――!


 「テメェは見るからにやり手のようだが、残りの二人は何だぁ? ブルブル震えてるガキに、手負いの女じゃねぇか!」


 「ぅるッ、うるせェ! 今ならまだ、見逃してもいいぜッ!……どうだッ!?」

 「馬鹿かテメェは!――行くぞ野郎ども! 皆殺しだ!」


 盗賊たちは一斉にかちどきを上げ、こちらへ襲いかかってきた――!



 「まっ、こうなるか――」


 ニセルはマントの下から取り出したクロスボウで、後列にいた男の左胸を正確に射抜く!――そして、左手に忍ばせていた小型の斧をとうてきし、別の男の喉元をき斬った! どうやら、さきほどアリサに投げつけられた物を回収していたようだ。


 さらに、斬りかかってきた盗賊の剣を、長刃の短剣ロングダガーに持ち替えた右手で受け止める――!


 「――クソッ! テメェの戦い方……素人じゃねぇな? さては同業者おなかまか!?」

 「ふっ、さあな? ボスにいてみるといいんじゃないか?」


 「あぁ?……なっ!? テメェのものは、ボスと同じ……!」

 「ご名答だ――」


 男の視線が動いた一瞬の隙を見逃さず――ニセルは左手のダガーで、彼の首筋を刺し貫いた――!



 「ぅおおおォーッ!」


 エルスは気を吐き、剣を振り下ろす!――が、目の前の盗賊は大振りのナイフで、彼の攻撃を軽く受け流した!


 「おやぁ?――どうしたどうしたぁ!? 手が震えてるぜぇ!?」


 男はニヤニヤとわらいながら、エルスの首元へナイフを突き出す!――エルスはかろうじて刺突をかわし、再び剣の間合いをとる――!


 「ぅるッせェ――! 大体あんたらは、なんで簡単に人を殺せんだよッ!?」


 「うーんー?……なぜって、ボクたちが盗賊だからでちゅよぉ?」

 男はナイフをクルクルと回しながら「べぇー」っと舌を出す――。


 「うぐッ……、馬鹿にしやがッて!」

 「それに――これがボクたちの、お仕事ちごとでちゅからねぇー!」


 言い終えるや男は身をかがめ、素早くナイフの間合いへ入る!

 そこから胸の急所を目がけて突き上げられた一撃を、エルスはなんとか避ける!――しかし、かすめた刃が彼の左肩に、浅い傷を残した!


 「ぐあッ……! そッ、それなら――ッ」


 負けじとエルスは、男の腹に強烈なひざりを叩き込む!

 男はたまらず腰を屈め、目玉を剥き出しながらもだえる――!


 「――それならッ!」

 一度距離を取り、エルスは剣を逆手に構える――!


 「そんなあんたらを倒すのがッ! 俺の〝仕事〟だァ――!」


 エルスは決意の叫びと共にちょうやくし、着地と同時に男の背中を貫いた!

 男のからだは刃に沿い、そのまま床へと滑り落ちる――。


 「……はぁ……はぁ……ッ! 俺はッ! そう決めたッ……!」


 男の亡骸なきがらり、エルスは剣の血を振り払う。

 そんな彼を見て、ニセルは小さく頷いた――。



 「どうした? 女の子が血を流して。オジサンがてやろうかぁ?」


 アリサとたいした盗賊は下品なわらいと共に、彼女に剣を振り下ろす!


 「いらないっ! なんか気持ち悪いもんっ」


 攻撃をいとも容易たやすく剣ではじき、アリサは力任せに男を押し戻す――!


 「おおっと!――やるじゃねぇか。なら、もっと傷だらけにしてやるぜぇー!」

 「はぁっ! ていっ――!」


 再び飛びかかって来た男だったが――アリサの素早い斬撃によって顔面にバツ印を刻まれ、あっさりと床に転がる末路となった!



 「もー。気持ち悪いの、だって言ってるのに」


 アリサは不機嫌そうに言いながら、剣に付いた血を汚らわしげに振り払う。

 そんなアリサを見て、別の盗賊が驚いたように、彼女の剣を指さした。


 「こッ、小娘!……テメェの剣、そいつは〝エレムシュヴェルト〟だなッ!?」

 「えっ? これって、そんな変な名前だっけ?」


 「間違いねぇ!――ラシード作のめいけんを、なんで小娘が持ってやがる!? よし、そいつを俺にしな!」

 「うーん。だめっ! だって、わたしも借りてるだけだし」


 「――なら、テメェを殺して奪い取るまでよォー!」

 男は片手持ちの斧を振り上げ、大きく跳び上がる――!


 「だめだってば! たぁ――っ!」


 アリサは攻撃の着地点から軽やかに退き、でつけるように男の脇腹を斬り裂いた――!


 「がぁ……。この斬れ味!……たまんねぇ……!」


 最期にこうこつの笑みを浮かべ――男は、ゆっくりと床にくずれ落ちる。


 「……そんなに良いのかなぁ?」


 対してアリサはまゆひそめ、困惑気味に首をかしげるのだった――。



 ――くして無事に、盗賊たちを倒し終えたエルスたち。

 彼らの周囲には、いまや六人の男が倒れている。


 「全員……やったのか?」


 「いや、一人足りないな。おそらくは増援を呼びに行ったんだろう」

 「じゃあ、すぐに追いかけた方が?」


 「なあに、必要はないさ。向こうさんの方から近づいている」

 ニセルは自身の左耳を指でさす。どうやら、彼には聞こえているようだ。


 やがて、足元の男たちは白い霧となり――くうへ消えてしまった。エルスはその光景を頭に焼きつけ、静かに目を閉じる――。



 「――どうやら、ジェイドが直々にお出ましのようだな」


 いよいよ最後の敵も間近に迫っている。

 ニセルは二人に対し、決戦への注意をうながす。


 「どッ……どんなヤツなんだろうな……? ロイマンみてェな大男じゃなきゃいいけど……」

 「うーん?――盗賊だし、細くて格好良いオジサンかも?」


 「ハッ! 正解だ。お嬢ちゃん!」


 不意に――男の渋い声が、部屋の中へと響きわたる!


 ――続いて奥の通路から、細身の中年男が現れた! 彼は〝移動魔法フレイト〟を使っているのか、緑色の結界をまとい、地面からわずかに浮遊している。


 「ようこそ、侵入者の諸君。ここからは、俺様が歓迎してやろう!」


 芝居がかった口調で言い、目の前の男は祝宴パーティーでも開くかのように、両手を広げてみせる。


 「ふっ。相変わらずだな、ジェイド……」


 ニセルは男を見据えたまま、ニヤリと口元を上げるのだった――。

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