第47話 いざ決戦へ
盗賊団の
こちらの霧も
決戦を前に、予期せぬ深手を負ったエルスたちは洞窟の
アリサは留め金の破壊された
「おまえ、そんなモンまで持って来てたのか? 用意がいいな」
「うん。わたしの魔法じゃ、いつか力不足になると思って」
事実――アリサが使える
「俺も光魔法が使えりゃなぁ……」
「仕方ないよ。お互いに、できることを頑張ろっ?」
「ああ……。そうだな……」
今回の戦闘で、エルスは心の底から自らの弱さを思い知った。
なによりも、自分自身の心の弱さを。
まずは心を鍛えろ――。
幼い頃に、ロイマンから言われた言葉を思い出す。
ロイマンは当時から――とうの昔から、エルスの弱点を見抜いていたのだ。
これまでの魔物との戦いでは、ほぼ二人は無傷だった。
――だが、相手が
思えば、ラァテルとの勝負でも、エルスは傷を受けていた。
覚悟が足りない――
まだ足りていない。
戦う覚悟。殺す覚悟。
そして――殺される覚悟も。
エルスと
「ねぇ、エルス。これ……」
アリサは何かを差し出す――。
「――たぶん必要になるんじゃないかな?」
「うッ……これか……。そうだよな……」
エルスはアリサから、虹色の
ビンを冒険バッグに入れ、エルスはアリサの顔を見つめる――。
「ありがとな。今度こそ……覚悟を決めるぜ……」
「うん。でも、無理しないでね?」
ニセルは今、単独で洞窟内を偵察している。
もし二人が「帰りたい」と言えば、一切の
「――大丈夫だッ! 絶対に、依頼を成功させてやろうぜッ!」
エルスは気合いを入れ、軽く体をほぐす。
少し休んだおかげで、もう体力は充分だ。
傷もアリサの魔法で完治した。
魔力の方も問題ない。
あとは心。覚悟のみ――。
「――よう、二人とも。準備はできたか?」
洞窟から出てきたニセルが、小さく手を挙げる。
「ああッ! もうバッチリさ!」
「うんっ。頑張るねっ!」
元気な返事とは裏腹に、アリサの顔色はあまり良くはない。ニセルは彼女の顔をチラリと
「ふっ、わかった――。では行くか。二人とも、絶対に死ぬなよ?」
二人は大きく頷く。
そして三人は、決戦の地である洞窟の入口へと向かう――。
「左側の壁に
生徒を引率するような口調で言い、ニセルは洞窟の中へ入ってゆく。
洞窟は壁面こそゴツゴツした岩ではあるが、人為的に掘られたようにみえる。
エルス、アリサの順でニセルに続き、洞窟内を静かに進む。
通路の中央へ目を
「ねぇ、エルス。踏んじゃダメだよ?」
「いや……。踏まねェから――ッていうか、静かにしようぜ……?」
「ふっ、この辺りは大丈夫さ。あそこで一旦止まろう」
ニセルに従い、
ここまで来ると、もう
そして正面の壁には、複数のクロスボウが入口に向けて設置されており、左右にはさらに奥へと通路が伸びていた――。
「さっきのを踏むと、コイツに穴だらけにされてたのか……」
「すごい数だねぇ。これが全部飛んできたら避けられないかも」
「予備の
説明し終えたニセルは小型の道具を取り出し、罠を解体し始める――。
「そうだ、エルス。
「おッ、おう……わかった。ありがとな、ニセル」
エルスは林道での失敗を思い出し、ニセルの忠告に感謝を述べる。
もう、何度も同じ失敗は繰り返せない。
「まっ、あまり力を入れすぎないようにな?――よし、終わったぞ」
罠に繋がれていた糸をすべて外し終え――
ニセルは、手元のクロスボウを二人に見せる。
「ひとつ持っていくかい?」
「いや……。俺はいいや。なんか難しそうだし」
「わたしも。間違えてエルスに刺さっちゃったら、なんかかわいそうだもん」
「あぁ、そうそう。おまえは自慢の怪力で殴った方が、絶対強ェもんなッ」
「ふっ。そうか――」
ニセルは口元を
「では行こう。この道の右手側に扉がある。そこからが本番だ」
「わかった……。俺は――もう迷わねェ。行こうぜッ」
洞窟内をさらに奥へと進み――やがて三人の前に、両開きの巨大な扉が現れた。
扉は丈夫な木製で、枠の部分などが鉄らしき金属で補強されているようだ。
「デケェ扉だなぁ。この先はどうなってンだ?」
「うーん。何も聞こえないね」
アリサは扉に耳を当ててみるが、何も聞こえない。
ただ
道中では、数人の盗賊が首や胸から血を流し、座り込むように
「話し声から察するに、最低でも五人は居るな。ジェイドは、さらに奥だろう」
「五人か……。さっきより多いな……」
「ニセルさんすごいねぇ。わたし、全然聞こえないや」
「まっ、オレの耳は〝特別製〟だからな」
そう言った彼の左眼が、わずかに輝く――
その眼も、きっと特別製なのだろう。
「――ふむ、鍵は掛かっていないな。二人とも、準備はいいか?」
「ああ、いけるぜッ……」
エルスはゆっくりと剣を抜く。
アリサも頷き、細身の剣を抜いた――。
「よしッ、行くぜッ! 突入だ――ッ!」
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