第46話 偽りの勇者
『……誰だッ……!?』
周囲に響いた、透き通るような女の声――。
ロイマンは
女は辛うじて生きていたようだ。
しかし、彼女の腕は焼け
『その子は……敵じゃない……!』
それだけを言い、女は再び、地面に顔を
『何だ……? 次から次へと……』
ロイマンは構えを
それは次第に輝きを失い、人間の子供の姿に変化した。
焼け焦げた
彼は悪夢にうなされるような険しい表情で、小さな身体を丸めている。
『こんなチビに……。俺は……』
構えていた魔剣をだらりと下げ、ロイマンは橙色の空を力なく
――しばらくの
現場には、騒ぎに気づいた王都の兵士や聖職者、神殿騎士たちが続々と集まりはじめていた。
先ほどの女は助かる可能性があったらしく、治療のできる施設へと
『いい気なモンだ。無能な
ロイマンは失った
『まあいい。
聖職者らは一様に、炭と化した魔王の周囲に集まっている。
そんな彼らのやり取りが、嫌でもロイマンの耳に入ってきた――。
『これぞ〝魔王の
『エルネストにアーサー。いずれもアルティリアが誇る……』
『ふむふむ。
『勇者と
『興味深いですねぇ! 確か、ミルセリアさんに……』
『ルゥラン様……。どうかご内密に……』
やがて
それを見た聖職者らは口々に哀れみや
ロイマンは小さく舌打ちし、その場を離れる。
――あの少年が倒れていた場所を見ると、彼は変わらず地べたに転がされていた。
『ノコノコやって来たあげく、
吐き捨てるように呟き、少年の体を小さく
『――おい。生きてんだろう? いい加減に起きろ、チビ』
やがて少年は顔を
『ううッ、魔王が……。あれ? 冒険者……さん? 魔王は? 父さんは……?』
何も覚えていないのか。少年は
『もう居ねえよ。両方な』
その言葉で――
少年はプツリと糸が切れたように、再び気を失ってしまった。
『……マズかったか。――どうせ目覚めりゃ嫌でも見るんだ。現実をな』
ロイマンは
『――
『あ?……何だ?』
背後から掛けられた
そこには老齢の聖職者と、二名の神殿騎士が立っていた。
『勇者殿。お名前をお聞かせ願えますかな?』
『ロイマンだ。――なに?……勇者だと?』
『ロイマン殿。そなたに魔王討伐の
『お……、おい……ちょっと待て――』
『――宜しいですね?
深い
この三人が放つ威圧感に負け――
ロイマンは、ただ頷くしかなかった。
『お待ちしております。くれぐれも、道を
聖職者は革袋をひとつ取り出し、ロイマンに手渡す。
そして他の聖職者らの元へと、素早く
袋の中身を確認すると、大量の金貨が
だが――ロイマンに大金を得た喜びは無く、恐怖の感情の方が多くを占めていた。
何か〝とんでもないものに関わってしまった〟と――。
『チッ……。この歳になっても、ビビっちまうとはな……』
数日後、彼は勇者の称号を受け――
ここから〝勇者ロイマン〟としての人生が始まった。
「――フッ。何が勇者だ、笑わせる。何も知らねえ坊主どもが広めた嘘を、どいつもこいつも信じてやがる」
ロイマンは
「そうね。でも、私は本物の勇者だと思うわよ? それからのあなたは〝勇者〟として、人々のために必死に頑張った」
「……
「それに、あなたが居なければ、私は助からなかった」
「何よりも――あなたが止めなかったら……。きっと
「心配
「あの子は深いところで、まだ苦しんでる。そして、その苦しみのひとつを私が……」
ハツネは虹色の手鏡を取り出し、そちらへ視線を移す――。
「――私も、覚悟を決めなきゃね。リスティの……親友のためにも」
「フッ……、少し飲みすぎた。風に当たって来るぞ」
ロイマンはテーブルに金貨を数枚置き、ゆっくりと立ち上がる――。
「そうね。お供するわ」
ハツネはロイマンの腕に手を絡ませ、二人で酒場から出ていった。
――そんな彼らの背中を、ラァテルは静かに見つめていた。
「ふん。時間の無駄――というわけでは、なかったな」
ラァテルは背を預けていた柱から離れ、冒険者用の掲示板へ向かう。彼は整然と貼られた依頼状に目を通し、〝街道の
それだけを持ち、ラァテルも酒場をあとにする――。
天上の
ファスティアと違い、王都には人通りがほとんど無い。
「悪いが――もうしばらく、
そんな彼の瞳には――確固たる意志と、決意の炎が灯されていた。
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