第22話 トリックスター
エルスたちがファスティアへの
自警団長カダンは部下たちと共に、遺跡内を注意深く観察していた。
冒険者たちの尽力により、〝はじまりの遺跡の異変〟は治まった。
だが、それは魔物の出現が
「団長! ここに通路が……。奥に部屋があります!」
「おお、すぐに行く!」
どうやら目的の場所が見つかったらしい。カダンは団員たちを引き連れて声の元へ急ぐ。
「うぐッ……、これは酷いな……」
見つかった部屋は比較的風化が少なく、しっかりと天井も存在している。床には焼け焦げたような魔法陣が描かれており、壁にも激しい
そして床の中央には、黒い布を被せられた
「団長、これがロイマン殿の言っていた……?」
「ああ……。よし、取るぞ……」
カダンは腰を
「これはっ……!? うっ……!」
「ぐっ……、無理に見るな。他の者も、一度下がるのだ!」
ピクリとも動かない異形の
そして、もう半分。
「むうっ……。まさかザイン、なのか?」
白目を
「ザイン……。なぜ彼が……」
「やっぱり、あの
「また
得体の知れない
もう動かない。死んでいるのだ、彼は。
カダンは握りしめていた黒い棒切れと、変異したザインの
「ほほう! これは、実に興味深いですねぇ」
「……うわおッ!?」
不意に聞こえた場違いな声に、カダンは思わず大きく
紳士は紫色の長髪をオールバックと三つ編みにまとめ、黒いリボンを着けている。礼服を着込み、
「なッ、なんですかな
ここへ通じるすべての動線には警備の団員を配置したはず。それ以前に彼は、この場に
「はっはっは! ワタシは旅の魔術士です。ウッカリ迷い込んでしまいましてねぇ」
自らを魔術士と名乗る謎の紳士は、どうやら「散歩中に迷い込んだ」らしい。
そんな彼の様子など意に介さず、紳士はカダンの持っている、二本の棒切れを指さしてみせた。
「それはまさしく〝
「はて……? それは、どういった
「まあ簡単に言えば、
カダンの手元に顔を近づけ、紳士は物珍しげに杖を観察する。彼いわく、ザインのような状態と化すのは、〝
杖は本来、敵地へ魔物を送り込む、一種の爆弾のような代物だ。その目的は当然ながら、人類同士の戦争のための、
何らかの方法で杖を敵陣へ送り込み、予め仕掛けた術式を起動させ――。
呼び出された魔物に、人々を襲わせるのだ。
「そのような恐ろしいモノが、なぜファスティアに……?」
「さて? ああ、そうそう! 実は
「なっ! なんですとッ!?」
思わせぶりな彼の
「それはっ! どの辺りのっ!?」
「おや、準備がよろしい! ふむふむ、
「……なるほど! ご協力感謝します!」
カダンは
「これはマズイぞ……! ファスティア自警団、集合!」
「ハッ、団長!」
団長からの号令に、団員たちが
「申し訳ないが、今日は徹夜だ! これから各自に、任務を与える!」
カダンは団員らに対し、続けざまに指示を出す。どうにも間の抜けて見える彼だが指揮能力は高く、部下からの信頼も
「承知しました!」
「
「馬を出すぞ! 急げ!」
あっという間に自警団の面々は任務へと向かい――この場にはカダンとエルフの紳士、そして物言わぬザインだけが残された。
「さてさて、どうしましょうかねぇ? こちらの
紳士は物珍しそうに、じっくりとザインの
「放っておくと、こうやって
「うーむ……。このような事態を引き起こした張本人とはいえ、できれば
「こうなってしまっては残念ながら。闇へ
「わかりました……。では魔術士殿、お願いできますかな?」
紳士は
そして詠唱を終えた紳士は、完成した魔法を解き放つ。
「デストミスト――!」
闇魔法・デストミストが発動し、紳士の
やがて〝ザインだったもの〟は黒い霧を噴き出し、すべてが
「はい、終わりましたよ。これで大丈夫でしょう!」
「い……今のは……? いえ、ご協力感謝します」
「ワタシとしても、興味深いものが見られましたので! では、さようなら」
「あっ、せめてお名前を……」
カダンは慌てて振り返る――が、すでに謎の紳士の姿は消えていた。
この異様な空間に、今はカダンのみが取り残されている。
「な……なんだったのだ……? いや! それよりも、早くファスティアに戻らねば!」
カダンは気合いを入れて部屋から飛び出し、外壁の隙間から強引に遺跡の外へと
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