第2話 魔王との因縁
アルティリア王国、最大の都市――ファスティアの街。
ここは多くの
「おはようございまーッス! 依頼を
アリサとの魔物狩りを終えた後。
エルスは依頼人の店に到着するや、精一杯の礼儀正しさで
ほどなくすると店の奥から、
「いらっしゃい。ずいぶんと元気がイイのね」
エルスを見た店主は早々に、品定めのように彼を観察しはじめる――。
人間族としては標準的な体格。装備は〝
窓から吹き込む風に
「……ふぅん。女の子が来てくれるのを期待したんだけど、あなたでもイイかしら」
目利きを済ませた女店主は、
大きなトンガリ帽子を
「それじゃあ、エルスくん。あとはヨロシクね?」
「はいッス!――ッて、ナニを?」
「悪いけど、これから大事な取引があるの」
店主は手鏡で軽く身なりを整えながら、大通りに面した窓のようなカウンターを指で
「そこに居てくれるだけでいいから。オネガイね?」
そう言って店主は
「居るだけッて……。まぁ、楽といえば楽だけどよ……」
エルスはカウンターに
軽装の旅人に、街の住人。
だが、なんといっても最も多く目にするのは、やはり〝冒険者〟らの姿だろう。
冒険者――。
それはこの世界・ミストリアスにおいて、自由を
彼らは自由に世界各地を
「まいったよなぁ。やっと冒険に出られたってのに、まさか最初の街で足止めを食らッちまうとは……」
エルスも
冒険の旅には思っていた以上に
二人はそれを、すぐに思い知らされた。
冒険者は自由である反面、安定した収入を得られ続ける者は少なく、旅が
ファスティアには そうした冒険者くずれのゴロツキ連中や、盗賊となり果てた者たちも、数多く
それでも成功を夢見てファスティアを訪れる冒険者たちは後を絶たず、来訪者は日に日に増え続けている。
そうして、いつの頃からか。
ファスティアは〝冒険者の街〟と呼ばれるようになっていた。
「んー。やっぱ〝居るだけ〟ッてのもツライぜ……」
カウンターから街を眺めていたものの、エルスは退屈さから空を見上げ、長く大きな
エルスは
「俺は別に、お宝探しのために来たわけじゃねェんだ。俺には、大事な目的が……」
エルスは何気なく、殺風景な商品棚の中でも
その光沢のある石の表面には、退屈そうな自らの顔が映っている。
「早く、奴を……。〝魔王〟を倒さないと――」
◇ ◇ ◇
十三年前。それはエルスが七歳となる、誕生日での出来事だった。
この喜ばしき日に彼は
唯一の肉親である自らの父。それに親友・アリサの両親。
そんな彼らの命を奪った存在こそが、他ならぬ〝魔王〟だった。
『父さんッ……! 神さまお願いですッ! 誰かッ! 助けてくださいッ!』
『神に
幼いエルスの願いも
『――おい。生きてんだろう? いい加減に起きろ、チビ』
『ううッ、魔王が……。あれ? 冒険者……さん? 魔王は? 父さんは……?』
『もう居ねえよ。両方な』
やがてエルスは、
『冒険者になりたいなら、まずは甘ったれた根性を何とかしろ。いいな?』
『はい……。頑張ります……じゃなくて――頑張るぜ……』
『才能はある。だが、まずは心を
魔王を倒し、エルスの命を救った冒険者は、
それに
あの時、目覚めたエルスの頭には、倒されたはずの魔王の声が響いていたのだ。
『次はキサマだ!』という、不気味で
◇ ◇ ◇
「奴は、まだ生きてるッ! 俺は強くなって、絶対に魔王を倒すッ!」
エルスは嫌な記憶を振り払うように
――そして、ふと我に返った。
「うッ……? わわわッ!? やべッ、やべェ……ッ!」
握りしめた彼の手の中で、大事な商品がボロボロと
「やっちまったな……。これはタダ働き――いや、下手すりゃ神殿騎士に突き出されて、牢獄行きだぞ……」
近くにあった
「やっぱ〝
エルスは恐る恐るカーテンの方へと目を
「ええいッ、後悔しても仕方ねェ! こうなったら、売り上げで
エルスは前向きに気持ちを切り替え、改めて商品棚を確認する。
魔物の爪や角。不気味な目玉らしきモノ。
これらの地味な〝素材類〟を
「おッ? この銀のナイフには、呪文が刻んであるな。それとこっちの魔道具は、もっと値上げしても売れるはずだ――。あとは、悪趣味な杖が二本か……」
大通りには相変わらず、多くの人々が行き交っている。
己の失敗を取り返し、この依頼を成功させるべく――。
ひとり、エルスは気合いを入れる!
「よしッ、ガンガン売ってやるぜッ! 全力必中で、戦闘開始だ――ッ!」
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