第4話 雨と過去

天気予報では記録的大雨になると言っていたが、その言葉の通りに朝から全てを流しつくしてしまいそうな大雨が降っている。


そんな大雨の中でも変わらず雨宮さんと駄菓子屋のベンチに座っている。


「今日は涼風君に話があります。」


「そうだろうね…いつもは何も言わずここに集まるのに、わざわざ駄菓子屋に来てくださいって言って来たんだからさ。」


明日から夏休みが始まる最後の登校日、授業も終わり後は解散するだけの時間にクラスの中で小さな事件が起きた。


夏休みに遊ぼうと雨宮さんに話しかけた女子学生に対し「もう話しかけないでください」と怒鳴ったのだ。


いつも静かに話す雨宮さんの態度にクラスは凍りつき声をかけた女子生徒やクラスの皆がそそくさとクラスを後にした。


まぁ、その女子学生やクラスの皆に確認したら全然気にしていないむしろ心配だとの事だ。


「そうだ、雨宮さんブタメン食べる?昨日奢るって言ったし買ってくるわ!」


「いえ…今日はいりません。話をしたらすぐ帰るので。」


「まぁまぁ!そんな事言わずに!良いから座ってなよ!」


会計を済ませブタメンにお湯を入れる。


ゴ…ゴゴゴゴ…ゴゴ…ゴゴゴ…


「少しお湯足りなかったわ、でも雨宮さんのはお湯ちゃんと入ってるから安心して食べてくれ!」


「涼風君、話というのはですね…」


雨宮の声を遮り話を続ける


「いやーここの駄菓子屋もしかしてお湯入れ替えてないのかな?使ってるの俺たちだけな気がするわ!」


「涼風君私の話を聞いてください!」


「わ…分かったよ…そんなに怒らなくたって良いだろ…で…話って何?」


嫌な予感がする、本当は聞きたくない。


昼間に聞いた雨宮の「もう話しかけないでください」の声が脳内に響く


「涼風君…申し訳ないのですが、これから私はここに来ませんし、もう話しかけないでください。以上です。では元気で過ごしてください。」


そう言い放った雨宮が立ち上がり傘を取り出すがそれを止める。


「あーそうですか…分かりました…ってなるはずないだろ!いきなりそんな事言われたって納得できるはずないじゃんか!」


「なんで納得してくれないんですか!私と居たってつまらないし涼風君や皆に迷惑しか、かけないって気がついてくださいよ!」


「なんだよそれ!迷惑なんて、かけられたことないし、雨宮さんと一緒に居るときはずっと楽しかったし、むしろずっと一緒に居たいと思ったわ!」


「な…なんで涼風君はそうやって恥ずかしいことを言うんですか!私と居たって雨しか降らないのに何が楽しいんですか!?」


「雨しか降らないのにって雨の日に会いましょうって言ったのは雨宮さんだろ!」


「うぅ…それはそうですが…」


「1回落ち着いて座りなよ。何でこんな事を雨宮さんが言うのか理由を聞かないと俺も納得できないんだ。だから教えて欲しい。」




激しい雨が地面を叩き足元を濡らす。




「昨日…涼風君と帰っているときに、1人の女の子とすれ違ったの覚えてますか?」


「うん。覚えてるよ。」

確か他学の生徒だった知らない制服だったから覚えている。思うとその時から雨宮さんの様子がおかしくなった気がする。


「あの子…あかりちゃんと言って小学5年生の頃に仲が良かった子なんです。」


「うん。」


「名前の通りに凄い明るく元気で人気のある子でした。それなのに私みたいなパッとしない人にも気軽に話をかけてくれる優しさもあって、私は気がついたらあかりちゃんの事が大好きになってたんです。」


「うん。」


「仲良くなって、私が雨女だって事を教えても一緒に読書したり、外で雨を楽しむ方法を考えてくれたり毎日楽しくて幸せでした。」


大切な友人だったのだろう…でもそれなら何故雨宮さんはこんな事を言い始めたんだろうか?


「そして忘れもしない運動会が近づいてきたんです。

あかりちゃんはリレーの選手に選ばれて喜んでしました。いつも仕事でこれないお父さんも来れる事になったから嬉しいって。

毎日練習して絶対にお父さんに良いところ見せるんだって、だから晴子ちゃんも応援してねって。

でも言いました。私が運動会に行くと雨が降るから嫌だって。

それでもあかりちゃんは天気予報でも雨は降らないって言ってるから大丈夫。晴子ちゃんも一緒に運動会楽しもうと言ってくれて凄く嬉しかったです。」


雨が変わらず激しい音をたてている。


「あかりちゃんが頑張っているのを知っていたので友達として応援しようと思いました。

これまで運動会の日は必ず仮病を使ってたんですけど初めて参加する事もあって楽しみで寝れなかったのを覚えてます。」


「うん。」


「でも当日…朝から晴れていたのに私が学校に行くと結局降ってきたんです。雨が…」


雨の強さが増し更に音をたてる


「私はあかりちゃんに一生懸命、謝りました。

私が運動会に参加しなければ雨が降らなかったかもしれないからごめんねって。

でも…言われちゃったんですよね。」


雨宮の目に涙が浮かび声が上ずる


「「晴子ちゃんと何か仲良くならなければ良かった、頑張った努力も楽しみにしてくれてたお父さんの気持ちも全部、晴子ちゃんが…」私が悪いって…」


「でもそれは雨宮さんが悪い訳じゃないだろ!運動会なんだから他にも人はいっぱい来てるるんだから!自分1人のせいだって思う必要なんかない!」


「違います!悪いのは私です!私が雨女だから悪いんです!

最近は涼風君やクラスの皆が優しくしてくれるから、すっかり忘れてしまっていたんです。私が皆に迷惑をかけてしまうってことを。

でも昨日、あかりちゃん見て思い出しました。だからもう私には関わらないでください!」


雨宮が涙を拭い、豪雨の中に飛び出していく


がそれを追う。


「雨宮さん!小学生の頃なんか良く喧嘩するんだしそんなに気にする事ないよ!俺だって喧嘩した友達と仲悪くなったことあるけど今は良く遊ぶし!」


「それとこれとは別です。」


「でもクラスの皆と仲良くしたいって思ってるんだろ?」


「…思って…ないです。それにあんなに酷いことを言ってしまったんですからもう嫌われてます。とにかく、もう付いてこないでください。」


「そんな事はない!クラスの皆に聞いたけど全然怒ってないよ!むしろ雨宮さんの事を心配してる!

それでも嫌なら一緒に謝る方法を考えよう!駄菓子屋でさ!それか夏祭り行こう!クラスの人もくるかもしれない!

なんなら俺が声をかけておくし!その時に謝れば良いよ!」


「もう良いですか…とにかく付いてこないでください。」


「嫌だね!俺も皆も気にしてないのに…心配してるのに放ってなんかおきたくない!」


「仲良くなったところで結局は嫌われるんです!なんで分かんないんですか!」


「ちゃんと話せば雨が降ったって良いって言ってくれるかも知れないだろ!

それに俺はもう、雨も雨宮さんも好きだよ!だからもう雨を理由に人を遠ざけるのは止めろよ!」


「いい加減にしてください!」


雨宮のビンタが涼風の頬を叩く


「ご…ごめんなさい…でも…しつこい涼風君が悪いんです…ごめんなさい…」


そう言った雨宮は走りだし雨のなかに消えていく。



頬は余り痛くない。


雨宮さんの中では忘れかけていたトラウマが甦ったんだ。そんなに簡単な問題じゃない。


嫌われてしまったかもしれない。


踏み込み過ぎてしまっただろうか。


人の気持ちを考えなさすぎだよな。


様々な考えが心に浮かぶ。



「あーそういえば駄菓子屋にブタメン忘れてきたな。今度おばあちゃんに謝らなきゃな…」


そう呟きながら雨の中立ち尽くしていると、不意に傘を差しのべられる。


振り向くとそこには昨日すれ違った知らない制服の女性が立っていた。

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