第3話 雨とすれ違い

下校中に降りだした雨が駄菓子屋の庇(ひさし)にパラパラと当たる。


無事にテストも終わり後2日で夏休みが始まる。


雨の日に雨宮さんと過ごす日々も3週間が過ぎていた。


相変わらず放課後に駄菓子屋で話をするだけだが、今となっては変わらぬ日常の一部となっている。

ただ…1つだけ変わったこともある。


「今週は雨宮さん大変だったね」


「まさかこんな事になるとは思ってませんでした。私は髪を切っただけなんですが。」


そう!なんと雨宮さんが前髪を切ってきたのだ。


これまでは完全に目が隠れ、表情も分からないほどの長さだったが、今はうるうるとしパッチリとした瞳が見えている。


「雨宮さんが一気に人気者になっちゃってビックリしたよ」


週の始め、髪を切って登校した雨宮さんの周りには女子生徒を中心に人だかりが出来た。


その女子生徒達が雨宮さんに対して、やれ可愛い、髪が綺麗、目がぱっちりしてるし小さくてお人形さんみたいだと褒め称えていた。


でも…そんなこと全部、俺の方が先に知ってたわ!今さら気がつきやがって!雨宮さんには見た目以上に内面が素敵なんだよ!

と言いたかったが言えなかった…俺の意気地無し!


「はぁ…憂鬱です。個人的にはあまり皆さんと仲良くなるのは気が引けるんですよ…」


「ほぅ!人気者ならではの悩みですな!そういえば、何で髪切ってみたの?なんかあった?」


「そ…それは何となくです!少し長すぎていたかもしれないと思ったから切っただけです!」


「まぁ毎日暑いし髪長いと大変そうだもんな」


「そうです!暑いからです!涼しさを求めて切っただけです!この話はもう終わりです!そんな事より今日は良いものを持ってきました。」


そういうと、雨宮がいつもの大きなバックからかんから複数のバケツと缶空(かんから)を取り出す。


「相変わらず色々入ってるバックだな…そんなもので何すんの?」


「ふふふふ…これは雨の日を楽しむ為の秘密兵器です!」

そう言った雨宮が1つのバケツを手に取ると庇から落ちる雨水の下に設置する。


ポン………ポン………


バケツの上に水が当たる度に音がする。


「あーこれか…小さい頃に良くやってたわ。」


「あーこれかって…せっかく雨の楽しみかたを教えてあげようと思ったのに涼風君、何だか不満そうですね。」


「いや…秘密兵器って言うから何か凄いことが起こるのかと…」


「失礼ですね。ただの雨水が打楽器に変わるんだから充分凄いことです。それに1つだけじゃないです。いっぱい置いたときにこそ、この秘密兵器は本領を発揮するんですよ!」


そう言った雨宮が持ってきていた様々な物を落ちる雨水の下に設置する。



ポンポポトントントト、トンテンカン

ポンポポトントントト、トンテンカン


「おー!種類を変えて置くと面白いかも!それに何だか音が優しくて心地が良いな!」


「ふふふふ…どうやら涼風君もこの魅力が分かる人間のようですね。再評価してあげましょう。」


「再評価ってこれまでの評価は何点だったの?」


「8点です。」


「おっ!10点満点で8点はなかなかの高評価!さすが俺!」


「1000点満点ですよ?」


「衝撃の低さ!実は100点満点で覚悟していた俺の想像を上回る低さだよそれ!」


「ちなみにパーセントに直すと0.8%ですね。」


「絶望的な数字だな…再評価で何点になったの?」


「再評価では、なんと800点です!」


「評価めちゃくちゃ上がってるじゃん!共感しただけでこんなに上がるなら何でも共感するわ!」


「でも今度は10万点満点ですよ?」


「10万点満点って言われても俺にはすぐ分からないんだけど…パーセントにすると何パーセントなの?」


「0.8%です。」


「変わってないじゃん。」


「はい。」


ポンポポトントントト、トンテンカン





しとしとと雨が降る





「涼風君、起きてください。涼風君、起きないと顔の上にカエル乗せますよ。」


雨宮さんにゆさゆさと身体を押され目が覚める。


「ふぁ~雨宮さんごめん、バケツの音聞いてたら寝ちゃってたみたいだわ。」


「ゲコ」


「別に謝らなくて良いですよ。私も寝てしまってましたから。」


「ゲコ」


「結構寝ちゃってたんだな、周りも暗くなってきてるし。バケツとか片付けたんだ。」


「ゲコ」


「そろそろ帰らないとですからね。先に片付けておきました。」


「ゲコ」


「手伝わなくてごめん、今度ブタメン奢るわ…ってさっきからゲコゲコうるさいわ!どんだけカエル集まってきてんだよ!」


周りを見渡すと50匹程のカエルが元気良く跳び跳ねている。


「裏の田んぼから来てるみたいですね。実は私、昔からカエルに好かれる体質なんです。」


「どんな体質だよ!聞いたことないわ!でもこれだけ囲まれてると帰るに帰れないな…カエルだけに。」


「「「ゲコゲコゲコゲコゲコゲコゲコ」」」

カエルが一斉に鳴き出す


「え!何なに!?いきなり鳴き出したけど俺なんかしちゃった!?」


「カエルさん達が、つまらないギャグに僕達を使うなって言ってますね。」


「嘘!カエルって人の言葉理解できるの!?」


「「ゲコゲコ」」


「カエルを舐めるなって言ってますね。」


「てか雨宮さんカエルの言葉分かるの!?」


「カエルの言葉ですか?分かるわけないじゃないですか?涼風君は相変わらず変なことを言いますね。でもここまで囲まれてると出れませんね。カエルさん達、悪いのですが道を開けてくれますか?」


「ゲコ」


雨宮の言葉にカエルが一斉に田んぼへと帰って行く。


「さぁ、涼風君帰りましょ。カエルがなくからかーえろ、おたまがいるからいーじゃんか。です。」


「あ~うん。帰ろっか…でもなんと言うか凄いものを見た気がするよ。」


雨宮さんはカエルを従える女だったとはな。


「あと、傘を忘れてきたので一緒に入っていっても良いですか?」


「あ…相合傘!俺は良いけど雨宮さんは嫌じゃないの?」


「ふふふ…もしかして涼風君、恥ずかしいんですか?それに私に濡れて帰れって言うんですか?」


「別に恥ずかしくないし!むしろちょっと嬉しかったりするし!」


「嬉しいなら決まりですね。早く帰りましょう。」


傘を開き2人一緒に帰路を歩く。


雨宮さんは少し変わってきている気がする。

学校で見ていても1人で微笑んだり、話しかけてくる周りの生徒と楽しそうに話をしていることが多かった。


今の相合傘にしても出会ったばかりの頃ならお願いされなかったんじゃないだろうか?


…ん?いや待て荷物持ちさせられてたわ。


訂正し謝罪いたします。


雨に濡れた道をパシャパシャと歩きながら雨宮さんに1つ提案をしてみる。


「雨宮さんさ、夏祭りとか花火とかって興味ある?」


「夏祭りですか…憧れはありますが行ったことはないですね。」


「じゃあ夏祭り行こうよ!2週間後、夏休み中にあるからさ!

打ち上げ花火もあるし!会場には出店がいっぱい並ぶんだ!

歩いてるこの道も提灯とか飾りが付けられて綺麗なんだよ!絶対楽しいからさ!」


「ふふふ…涼風君がそこまで言うなら考えておきますよ。いつも歩いてるこの道も飾りが付いたら綺麗なんでしょうね…ふふふ」


華やかになった姿を想像してるのだろうか、周りを見渡しては嬉しそうに微笑んでいる。


「あとさ、休み中なんだけど雨の日だけでもいいから、いつもみたいに駄菓子屋で話したり出来ないかな?

もちろん晴れてたっていつだって良いんだけどさ!」


「しょうがないですね…良いですよ。でも最初は雨の日だけですからね。そんなにいつも会っていたら宿題が出来ませんから。」


「ほんと!めちゃくちゃ嬉しい!駄菓子屋で一緒に宿題やったっていいし!夏祭りも絶対行こう!」


「ふふふ…子供みたいにわがまま言わないでください。」


そんな会話をしていると向かいから1人の女性が歩いてくる。

服装を見るに別の学校の人だろう。


ぶつからないように傘を少し高く上げながらすれ違うが軽く接触してしまう。


「すみません」

と謝るが相手は何も気にしていないようだ。

気にせずに歩みを続ける。


「なぁ雨宮さん、俺は心が太平洋のように広いから別にいいけど向こうも少しくらい気を付けてくれたって良いと思わない?」

と横にいた雨宮さんに話をかけるがいない!


振り向くと、変わらず降り続ける雨のなかで雨宮さんが1人立ち尽くしている。


パシャパシャと慌てて来た道を戻り雨宮の上に傘をさす。


「雨宮さんどうした?一緒に歩かないと濡れて風邪引くぞ!まさか俺の隣が嫌になったか!こう見えても隣に立つと良い男ランキング世界トップクラスなんだが!」


「すみません、涼風君ここまでで大丈夫です。後は1人で帰ります。」


「1人で帰るって傘持ってないんだろ?本当に風邪引くよ!それにもう暗くなってきて女の子1人じゃ危ないだろ!」


「折りたたみ傘持ってきているので大丈夫です。」

そう言った雨宮さんは鞄から傘を取り出し1人で走り出そうとする。


そんな姿に思わず手を取る

「雨宮さん!落ちつけよ!どうしたんだよいきなり!」


「とにかく今日はもう1人にしてください!」

叫びに近い言葉でそう言うと、掴んだ腕を強引に振りほどき雨宮は取り出した傘を使いもせずに走り去ってしまう。


あんなに声を荒げる雨宮さんは始めてだ。

絶対に何かあったに違いない。


「明日学校でちゃんと話しよう!俺なんでも話聞くから!雨宮さんの力になりたいから!」


走って追うべきだったろうか?

そうも思ったが自分には走る彼女の背中に声をかけることしか出来なかった。

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