第2話 雨とブタメン
傘にパラパラと雨が当たる。
時よりある水溜まりを避けながら歩いていく。
雨から荷物を守ろうとすると肩が濡れてしまう。
来週からテスト期間だ、さすがに教科書持ち帰らないと勉強は出来ない。
これだから雨は嫌いだ。
「お!あれは…」
「あめあめ ふれふれ かあさんが
じゃのめで おむかえ うれしいな
ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんらんらん」
歌いながら帰路を歩く雨宮(あめみや)さんを見つけそっと近づく…驚かせてやろう
「わぁ!」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
驚きながら振り向いた雨宮の裏拳が顔面にヒット!
「ぐわぁぁぁぁ!」
しとしとと雨が降る
「なんだ、涼風(すずかぜ)君でしたか。涼風君が人を驚かせようなんて100年早いです。まだまだですね。」
「明らかに驚いて動揺してたよね。人の事殴る程度には。」
◆
傘を畳み、2人一緒にベンチに座る。
「さっきはビックリしました。雨の音がここまで人が近づく音を遮るとは…雨にはまだ知らない事があるようです。」
驚いたの認めるんだ。
「雨音と言うより歌ってから気が付かなかったんじゃない?それにしても歌いながら帰宅する何て今日はずいぶんご機嫌じゃん!」
「今日は朝から1日雨でしたからね。罪悪感が無いんですよ。私が外に出た時に雨が降ると周りに悪いことをしてる気になります。」
「そんなこと気にすることはないでしょ!下校時間なんか皆一緒なんだから、それが全て自分のせいだと思う必要は無いんじゃない?」
「涼風君には分かりませんよ。」
雨宮さんと話をするようになってから1週間がたった。
あの日「雨の日にまた会いませんか?」と言われて以来、相変わらず学校では話をしないが連日雨が続いているおかげで何だかんだと毎日、この駄菓子屋で話をしている。
思うと最近は雨宮さんと話すこの時間を楽しみにしているな。
先程は雨は嫌いだと言いましたが訂正し謝罪いたします。
「今日は私がご馳走しましょう。」
「おっ!機嫌が良いだけあって今日は太っ腹じゃん!よ!大統領!」
「ノリが古いですし、女の子に太っ腹は失礼だと思います。黙って買ってきてください。」
「はい。すみません。買ってきます。」
雨宮さんと話すことが増えてから最近は雑な扱いを受けるようになった。
仲良くなったからだと思いたい。
「はい、お待ちかねのブタメンとおつり」
「ありがとうございます!」
しとしとと雨が降る
「ん~」
ブタメンを受け取った雨宮は何故かブタメンを高らかに掲げている。
「雨宮さん…それ何してんの?」
「涼風君、知ってますか?水と言うのは高いところでは沸点が低くなるんです。つまり少しでも高いところにブタメンを置いておけばその分ブタメンが完成する時間を短縮出来るかもしれません!」
「いや、人間の身長でどうこう出来るレベルじゃないだろ!雨宮さんって成績学年トップだったよね?本当はバカなの!?」
「バカとは何ですか!私はバカじゃありませんよ!そんなこと言うなら涼風君は頭良いんでしょうね!前回のテストの平均点何点だったんですか!?」
「…55点」
「じゃあ涼風君は私の約1.82倍バカですね!平均点100点でしたから!」
「計算早いな!さすが学年トップだわ!分かった俺が悪かったよ。
でも標高が高いところは沸点が低い分、温度も低くなるから作るのに少し時間がかかるって聞いたことがある気がする。」
雨宮はかかげていたブタメンをそっと膝の上に戻す
「うん。諦めてちゃんと時間待とうね。」
しとしとと雨が降る
「しかし、ブタメンが出来るまでのこの数分は本当に待ち遠しいですよね…」
「ほんとにブタメン気に入ったな!毎日食べてるし!
でも雨が降ってると何かを待つのも悪くない気がする。
庇(ひさし)に当たる雨音だったり、水溜まりに落ちて出来る波紋をぼうっと見てるのも、最近は悪くないって思うようになったよ。」
「ほぅ…涼風君も雨の楽しみ方を分かるようになってきましたか。ただ雨の良さはそれだけじゃありませんよ、雨音はリラックス効果や集中力を高める効果もありますからね。勉強や読書をするのに雨の日は最適なんです。」
「そう言われると、ここ数日帰ってからのテスト勉強が捗(はかど)ってる気がするわ。
それに雨から始まる恋とかもありそうじゃん!突然の雨に帰れなくなってる女性に傘を渡して走って帰ろうとしたら一緒に帰りませんか?とか言われて相合い傘で帰ったりとか!」
「それは雨に期待しすぎですね。」
「あとあれ!よく言うじゃんか……よっと」
目の前の水溜まりを飛び越え道路に出る
着地と同時にピチャッと音をたて、雨が身体を濡らしていく
「涼風君、突然雨の中に飛び出してどうしたんですか。風邪引くので戻った方が良いですよ。」
「どうよ!これが水も滴る良い男ってやつよ!」
「訂正します。バカは風邪を引かないので、戻ってこなくて良いですよ。」
雨宮の横に戻りベンチに座る
「一瞬ならそんなに濡れないと思ったらびしょびしょになっちゃった。」
「こんな涼風君にバカって言われたと思ったら少し腹が立ちますね。そういえばこの前借りたハンカチ返し忘れていたのでお返しします。これでちゃんと拭いてください。」
「俺も忘れてたわ。ありがと!」
「それにしてもブタメンが待ち遠し過ぎます!恋い焦がれそうですよ…恋い焦がれる…まさか…これが恋!?」
「人間に恋してもろて!」
◆
「ごくごく…んぐっんぐ…ふぁ…ごちそうさまでした。本日もブタメンは美味です。」
「美味しかったな、奢ってくれてありがとね雨宮さん。」
「いえいえ、いつも私がご馳走になってるのでたまにはお返ししないとバチが当たります。」
ブタメンを食べてるときの雨宮さんは本当に幸せそうな顔をして食べるよな。
それにいつも前髪で顔が隠れてるが本当は髪を上げると凄く可愛い。
「雨宮さんちょっとこっち向いてくれる?」
「何でしょうか?」
雨宮の前髪をそっと上げる
「にゃ…にゃにを…何をするんですかいきなり!いきなり女性の髪を触るなんて失礼ですよ!やっぱり涼風君には何か対策が必要です!」
「あ!ごめんごめん!こんなに怒らせると思わなかった!そうだよな、いきなり触ったりしたら失礼だよな…ほんとごめん。」
「まったく…別にそこまで謝らなくて良いですが何でこんなことをしたんですか?」
「何でか…ん~…雨宮さんの目の所在確認?」
「ありますよ!髪に隠れてるだけでちゃんとあります!涼風君は私に目がないと思ってたんですか?」
「いや、この辺で落とした自分の目を探す幽霊が出ると聞いてましてな…」
「まだ夕方ですよ!幽霊さんが出るには早すぎます!それにそれだと私を幽霊だと思ってたって事ですよね!?」
「ごめんごめん!これも冗談だから怒らないで!ただ雨宮さんは前髪で顔を隠さない方が可愛いと思ったから見たくなっただけだって!」
「冗談だから怒らないでって言った先から冗談を言ってるじゃないですか!私だって女の子なんですからね!最後の冗談が一番傷つきますよ!」
「ごめん!ふざけすぎたって!」
「だめです!許しません!」
「分かったって!ちゃんと謝るから落ち着いてくれ!」
「嫌です!許しません!」
「もう言わないから!落ち着け!はい!深く息を吸って吐いて~吸って吐いて~」
「すぅ~はぁ~」
「はい!ひぃひぃふぅ~ひぃひぃふぅ~」
「ひぃひぃふぅ~って何をやらせてるんですか!まったく。」
「ふぅ…落ち着いて良かった。ではしっかりと謝罪させていただきます。この度は度の過ぎた冗談を言ってしまい。本当に申し訳ございませんでした。以後気を付けますので許していただけましたら幸いです。」
「宜しいです。面(おもて)を上げて良いです。反省をして今後も精進してください。」
「ははぁ~雨宮様の為に誠心誠意勤めて参ります。…でもさ最後の冗談が一番傷ついたって何か言ったっけか?」
「言いましたよ!自分が言ったことなんですからちゃんと責任を持って発言してください!」
「目を落とした幽霊?」
「その後です。」
「ひぃひぃふぅ?」
「その前です。」
「その前って…あれ?冗談言ったか?」
しとしとと雨が降る
「…可愛いってやつです…」(小声)
「ん?」
「だから…前髪を隠さない方が可愛いってやつです…」
「あー!言った言った!でもそれは冗談じゃないからセーフじゃん!」
「そうだったんですね。冗談じゃないならセーフですね。って冗談じゃないんですか!?」
「ん?冗談じゃないよ?」
「冗談じゃないってことは…私を…その…か…可愛いと思ったって事ですか?」
「あーそう言うことに…なるね!」
「恥ずかしい事言わないでください!」
動揺した雨宮の拳が水落をえぐる
「う…1日に2度も殴られるとは…家族にも殴られたこと無いのに…」
「そ…そういう恥ずかしい事を言うなら奢ったブタメン返して貰いますよ!」
「いや…拳が良いところ入りすぎて不本意な形でブタメン返すことになりそうだわ。」
「と…とにかく…その…テストも近いので今日はもう帰りますよ!」
急いで傘をさした雨宮がバシャバシャと雨のなかを駆け出していく。
「ちょ!待ってよ!雨宮さんバック忘れてるって!…って相変わらずバック重すぎだろ!」
急いでその後を追う
「ふふふ…まったく…涼風君には厳重な対策が必要です。」
「え?雨宮さん何か言った?てか何か笑ってる?」
「笑ってませんよ!ほら急いでください!」
はしゃぎながら雨のなかを楽しそうに駆ける彼女の姿を見ると、
これもまた雨の魅力の1つではないかと思う。
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