また雨の日に会いませんか?
柴
第1話 雨女の雨宮さん
学校からの下校中、ポツポツと雨が降り始める。
「マジかよ…今日、傘もってきてねぇや…」
不意に降りだした雨のなかバックを傘がわりに走り出す。
この時期のうだるような暑さと突然の雨は夏の風物詩とも言えるだろう。
「うわっ…強くなってきたよ」
小降りだった雨が勢いを増しバタバタと激しい音を立てはじめる。
あっと言う間に全身がずぶ濡れになった事もあり、足元の水も気にせずに、ばしゃばしゃと帰り道を走るうちに1軒の駄菓子屋が見えてくる。
「少し雨宿りするか…」
駄菓子屋の庇(ひさし)に避難し店先のベンチに座る
「おばあちゃん!ちょっと雨宿りさせてもらうよ!駄菓子買って帰るからさ!
…それにしても最悪だ、天気予報では雨降らないって言ってたのにな。これだから雨は嫌いなんだよ。」
弱まることのない雨が駄菓子屋のひさしを伝い、雨水が滝のように流れている。
「ごめんなさい…雨が降ったのは私のせいです。」
「うわっ!ビックリした!ごめん!隣にいたの気がついてなかった。たしか同じクラスの雨宮さん…だよね?」
いつの間にか隣に座っていた小柄で長髪の女の子はクラスメイトの雨宮 晴子(あめみや はるこ)高校2年生
前髪も長く表情が見えない。いつも1人で黙々と本を読んでいるイメージがある。
「あ…涼風(すずかぜ)君だったんですね。」
「涼風君だったんですねって!誰だか分からないで話しかけてたきたの!?」
「まぁ…そうですね。気が付いてませんでした。別に話しかけられたと思ってた訳ではありません。」
話しかけられたと思ってたわけか。
「俺の方こそ気がついてなくてごめんね。もしかしたら少し嫌な気持ちにさせたかな?」
「いえ、全然気にしていませんから大丈夫です。気がつかれないのはいつもの事ですし。」
「それなら良かったかな…雨宮さんはいつから雨宿りしてたの?」
「そうですね…少なくとも涼風君が来た時にはここに座ってましたね。…普通気がつくだろうがバカやろう。」
いや絶対気にしてるし怒ってるよな?
「なんか…ごめんね。あーそういえば、雨が降ったのは私のせいって言ってたけど何かあったの?」
「私、雨女ってやつなんですよね。どこにいても雨が降ってきちゃうんですよ。遠足とかイベントの日なんか絶対に雨が降りますし。迷惑な話です。」
「でもそれはたまたま雨の日が重なっちゃっただけで雨宮さんのせいではないんじゃないかな?」
「それなら良いんですけどね。涼風君は局地的大雨って言葉を知っていますか?」
「知ってると言うかは聞いたことはあるよ、その地域だけ凄い雨降るってやつだよね?集中豪雨なんても言うんだっけ?」
「そうですね。それです。あの局地的大雨の予報のとき、私の真上だけ大雨になるときあるんですよ。」
「凄いな!局地と言うよりも極まる方の極地だよそれは。それほどなら雨が降らない国とか行ったら神様のように崇められそうだな。」
「は!その考えはありませんでした。今度試してみようと思います。…バカだと思ってたけど意外に賢いんだ。」
「もしかしてだけどさっきから心の声漏れちゃってない!?」
しとしとと雨が降る
「おばあちゃん!お湯もらうよ!」
電気ポットの蓋に設けられたプレートを押し込みお湯を出す。
ゴ…ゴゴゴゴ…ゴゴ…ゴゴゴ…
「危なかった、ちゃんと見てから入れれば良かったよ。お湯足りなくなるところだった。
はい、こっちは雨宮さんの分ね」
「何でしょうかこれは?」
「ん?ブタメン食べたことない?少しお湯少なめに入れるのがコツなんだ!その方が味が濃くてうまいんだ!3分待ったら食べよ!」
「あまりこういったものは食べたことないので楽しみです。それに男の人に何かを買って貰うのも初めてで凄く嬉しいです…が申し訳ないのでお返しします。」
「その流れから返されても困るよ!そんなに楽しみなら食べな!雨に濡れて身体冷えてるだろうし。
それによくと見ると雨宮さんびしょびしょじゃん、はいこれ、ハンカチ。風邪引く前に少しでも髪の毛拭きなよ。」
「ありがとうございます。涼風君は優しいですね。でもあまり雨に濡れた女子高生をよく見るのは良くないと思いますよ。」
「いや!べ…別にそういう意味で見ていたわけではなくて!単純に心配だっただけで!」
「冗談です。それに見てください。雨女の私は透けやすい夏服の時は対策として必ず中にTシャツを着ているので問題ありません。」
「女子高生がでかでかと闘魂注入って書いてるTシャツ着てるとは思わなかったわ。それよりも同級生の女の子が目の前で服をめくるのにこんなに感情動かないとは思わなかった。石の上にも15年くらい居れるくらい動かないわ。」
「でも私の対策のおかげで涼風君が間違った道に進まなくて良かったです。あと、この髪を拭いたハンカチはちゃんと洗ってから返しますね。変なことに使われると嫌ですから。」
「おい、闘魂注入してやるから目をつぶれ。」
しとしとと雨が降る
「そろそろ3分たったかな?ブタメン食べてみたら?」
「初めて食べるので楽しみです。ではお先にいただきます。」
ズズズズ…
「こ…これは美味しい!」
「喜んでくれて良かった!」
「ふぉんふぉにふぉいひぃ、ふぁふぃふぁふぉふぉふぁいふぁふぅ」
「うん。美味しいのは分かったから食べるのか話すのかどっちかにしようか。」
「ごくごく…んぐっんぐ…ふぁ…本当に美味ですね。駄菓子って言うのはこんなにも美味しいものだとは。身体も温まりましたし驚きです。でも量が少ないのが残念少しです。」
「まぁ少ないのは仕方がないよ。でもブタメンって小さい頃はお金持ってないと食べれなかったんだよ!子供の頃のお小遣いなんてそんなにないからさ70円って勇気がいるんだよな!ブタメン1つで他の駄菓子が7個も買えたんだからさ!」
「そ…そんな高級なものを買っていただいていたなんて。この恩は決して忘れません。」
「いやいや恩なんて感じなくていいよ!小さい頃の話だし。あーもしかして俺の分も食べたい?」
「そ…そんな…悪いですよ…私そんなに食い意地悪くないですし…ごくり」
「図星かよ!声裏返ってるし!ほら気にしないで食べな!」
しとしとと雨が降る
「いや、このブタメンとやらは本当に美味ですね。そういえば涼風君が走ってきた時カバンを傘がわりにしてましたが、教科書とかは濡れてないんですか?」
「あんまり勉強とかしないからさ、カバンは持ち歩いてるだけで中身は言ってないんだ」
「いやハンカチ持ち歩くより教科書持ち歩けよ。」
「また心の声漏れちゃってるよ!それに絶対に恩感じてないだろ!」
「え!?私、何か言いました?」
自覚ないんだ
「俺とは違って雨宮さんは頭良いもんな、いつも学年トップだし。」
「人並みには勉強してますからね。参考書とかも結構持ってますし。」
「だからなのかな?ずっと気になってはいたんだけどさ。」
「ん?何でしょうか?私に変なところありますか?」
「いやさ、雨宮さんのバックデカすぎない!?ウー◯ーイー◯くらいの大きさはあるよね?何入ってるのそれ!?」
「別に対したものは入っていませんよ。気になるなら見てみますか?」
「え…嫌じゃないなら見せてほしいな…」
「女の子のカバンの中身を見たいとは…やはり涼風くんには対策が必要ですね。まぁ今回は特別ですからね。他の人には内緒ですよ?」
雨宮さんがゆっくりとバックのチャックを開けていく。
何が入ってるんだ…
「こ…これは…こ◯亀全巻!?全200巻持ち歩いてるの!?」
「そうですね。伏線とかあると内容が分からなくなりますからね。」
「基本的に1話読み切りだからその心配はないと思うよ!というか学校にマンガは持ってこない方がいいと思うけど!」
「それなら問題ありません。持ち物検査もいつも忘れられますから。」
「あぁ…なんか度々ごめん。」
「いえ、全然気にしていませんから大丈夫です。気がつかれないのはいつもの事ですし。…ふぉんふぉにふぁんふぁんにゃんだこのバカやろうは。」
「偉いね、モグモグしてたのにバカやろうだけはちゃんと発音できたね。」
しとしとと雨が降る
「ふぅ…ご馳走さまでした。いつの間にかに雨も止んだみたいですね。」
いつの間にかに晴天になっている。
庇から滝のように流れていた雨水も今はポタポタと水溜まりに落ちている。
ベンチから立ち上がり空を見上げると晴天の空に1つの橋がかかっている
「おーこんな綺麗な虹は久々にみたな!」
「私は他の人と比べると少し多く虹をみているかもしれません。雨女の特権ですかね。さぁ雨が止んでるうちに帰りましょ。私が外に出るとまた降り始めるかもしれません。」
「そうだね!帰ろっか!雨宮さんとちゃんと話したのは初めてだけど楽しかったよ!」
「私も楽しかったです。人とこんなに話をするのは久々でした。涼風君が優しいから少し甘えてしまったかもしれません。」
「別に普通じゃないかな?明日からは学校でも宜しくね!」
「はぁ…学校でもですか…それは止めましょう。私みたいな暗い人間と仲良くしていると涼風君まで毛嫌われてしまいますし。」
「そんなことないよ!皆だって雨宮さんと話してみたいと思ってるはずだよ!でも知らないから、そう知らないって怖いからなかなか話かけられないだけで。雨宮さんが楽しい人だって知ったらきっと人気者だよ!」
「涼風君は本当に優しいですね。言われてみればそうなのかもしれません。私もクラスの皆のことを全然知らないです。勘違いしなければ涼風君ともこんなにお話することもなかったと思います。」
「そう思うなら明日からは頑張って話しかけてみようよ!俺も協力するからさ!」
「頑張ってみたいとは思いますけど、まだ少し怖いです。でも…」
「でも…?」
「今日はいっぱい話せて楽しかったから。だからまた…良ければ…その…」
「ゆっくりでいいよ」
長い間、雨音で書き消されていた蝉の声が聞こえる
「また雨の日にまた会いませんか?」
そういった彼女の長い前髪が、涼しい風に流される。
初めて見た彼女の少し恥ずかしそうな笑顔は、新緑の葉に落ちた1粒の水滴のように輝いて見えた。
「分かったよ!最初から無理するのも大変だしね!また雨が降るのを楽しみにしとくよ!」
「では急いで帰りましょう!冷たい涼しい風が吹くのは大雨の前兆です!」
「そうなの!?さすがに詳しいな!おばあちゃん!ありがとうございました!」
「ほら!涼風君は私のバックも持ってください!」
「おう!わかった!って重すぎるだろこのバック!」
「男の子が弱音を吐かないでください!」
雨は嫌いだったが、これからは雨も楽しみになりそうだ。
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