第4話
彼女はこの距離感について何も意識していないらしく、平然と話し出す。
「何の話だったか……。ああそうそう。人をサディストか何かって話か。全く失礼な。はあ。補足しておくが、私は今まで君みたいに、めげずに挑んで来るような相手と巡り合った事が無かったから、途中で諦めて欲しくないっていう願いもあったんだよ。何事も、投げ出すなんて格好が悪いし、諦観とは何の努力も要さず誰でも出来る、下らないものだ。いつか勝てるかもしれないっていう未来を信じられない奴が勝負事に挑むなんて、そもそも馬鹿馬鹿しいと思わないかい? でも君からは、そんな無様な気配がしなかった。だからいつか、私に勝てるまで頑張ってくれないかなと思って、この賞品を用意したんだよ。
彼女は身を離すと、組んだ足の上で頬杖を突き、俺を見上げた。足を組んだ事により校則通り一切丈をいじっていないスカートの裾が僅かに持ち上がって、膝辺りから黒いハイソックスまでの露わになった肌の白さが目立つ。
「君はカッコいい。見惚れるね。貴重な高校生活の半分以上を費やして、たった一人の相手に挑み続けて最後の最後に勝つなんて、漫画の主人公みたいじゃないか」
この余裕たっぷりの笑みは当然意図しているが、上目遣いに関しては多分無意識だ。単に俺の身長に合わせて姿勢を保つのが辛くなったので、休憩がてら足を組んで背を丸めたかっただけだろう。
すぐに言葉を返せなくなった俺に、彼女は嗤った。
「……なーに照れてるんだよ。やっぱりいじらしい奴だって訂正してやろうか?」
いや、狙ってるのか?
やっぱり読めなくて、動揺を誤魔化そうと口を開く。
「……次の質問いいですか」
彼女は笑みを浮かべたまま、泰然を崩さない。
「喜んで」
「部長は実は関西出身と聞いたんですが本当ですか?」
「本当だよ。ふふん。標準語が上手いだろう? これでも訛りを隠すのには自信があるんだ」
「さっき出てましたよ」
「何だと。どこでだ」
得意げだった彼女は頬杖をやめ、上体を持ち上げる。
「お好み焼きパンをあげた時とか。チラホラ柄の悪い言い方が出てましたよ」
「柄が悪いってあのなあ……」
彼女は不満そうに唇を尖らせると足を解き、なるべく俺と向かい合おうと身を捻じった。
「それは柄が悪いんじゃなくて、そういう文化だ。全く。この辺は関東の人間ばかりだから、そういう偏見が煩わしくて仕方が……」
「ならちょっと、訛って喋ってみて下さいよ」
「嫌だよ。余所者からの偏見にはうんざりなんだ。普通に喋ってるだけで面白がって」
こちらからすれば彼女の方が余所者であるが。
「笑いませんから」
据わった目で迷惑そうに睨まれる。
「もう既に半笑いだぞ君……。ああ分かったよ。今日は君の言う事何でも聞きます。台詞をくれ」
文句は欠かさないが従順である。
また込み上げて来る笑いを
「なら、何でもいいので俺に対する意見を訛って言ってみて下さい」
「うちは君がめっちゃ好き」
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