第8話 恋と強盗の甘い罠
アレックスは小さな町で知られた強盗犯だった。彼は計画を立てることに長け、いつも完璧なタイミングで逃げることで警察に捕まることはなかった。だが、今回は少し違った。アレックスは新しい銀行を狙っていた。その銀行には、町で一番美しいと言われるエミリーが働いていたのだ。
計画はシンプルだった。昼下がりの一番客が少ない時間帯に銀行に入り、迅速に現金を奪い取る。しかし、彼が銀行に足を踏み入れた瞬間、エミリーの笑顔が目に入った。その瞬間、彼の心に予期せぬ感情が芽生えた。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
エミリーの優しい声に、アレックスは一瞬だけ心を奪われたが、すぐに計画を思い出し、無表情に戻った。
「これは強盗だ。金を出せ」
とアレックスは低い声で言った。しかし、心の中では彼女の笑顔が消えるのを見たくないという思いが湧いてきた。エミリーの手は震えながらも、冷静に現金をカウンターに置いた。
だが、運命は皮肉なもので、アレックスが手にしたバッグを取った瞬間、店のドアが開き、警察官が入ってきた。彼は近くで昼食を取っていたが、エミリーの友人でもあったので、彼女に会いに来たのだった。
「動くな!手を挙げろ!」
警察官の声が響いた。アレックスはとっさにエミリーを人質に取ろうとしたが、彼女の目に浮かぶ涙を見て、心が揺らいだ。
「やめて…お願い、やめて」
エミリーの小さな声が彼の耳に届いた。その瞬間、アレックスは拳銃を下ろした。
「やめる、やめるから…だからそんな顔しないでくれ」
彼は手を挙げ、警察官に投降した。
警察署に連れて行かれる途中、アレックスは自分が何をしたのか理解し始めた。彼はエミリーの涙を見たくなかっただけなのに、それが彼をここに追いやったのだ。
数週間後、裁判が始まった。エミリーも証人として呼ばれた。法廷で彼女はアレックスを見つめ、その目に微かな温かみが感じられた。彼女は彼が本当に悪い人ではないと信じていた。
「アレックスさんが私を傷つけようとしなかったことは事実です」
とエミリーは証言した。
「彼は私を守ろうとしていた。だからこそ、私は彼にもう一度チャンスを与えてほしいと思います」
裁判官はエミリーの言葉に耳を傾け、最終的にアレックスには軽い刑罰が言い渡された。刑務所での生活は決して楽ではなかったが、アレックスはエミリーの言葉に救われていた。
出所した後、アレックスは新しい人生を始めようと決意した。そして、ある日、彼はエミリーが働くカフェに足を運んだ。
「いらっしゃいませ」
とエミリーが笑顔で迎えた。彼女の笑顔は以前と変わらず、美しかった。
「コーヒーを一杯ください」
とアレックスは言った。その瞬間、二人の目が合い、静かな理解が生まれた。
「また会えたね」
エミリーは微笑みながら言った。
「そうだね。もう二度と君を悲しませない」
アレックスは決意を込めて答えた。
こうして、強盗犯だったアレックスは、エミリーの優しさと愛に触れて新しい人生を歩み始めた。彼の心には、もう一度チャンスを与えられた喜びと感謝が満ちていた。
-終-
間抜けな外道犯罪者 katsumi1979 @katsumi2003
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