こどもチャンネルafter

結騎 了

#365日ショートショート 173

 マイチューバーが実子に訴えられるニュースは、瞬く間に話題となった。

「いわゆる、こどもチャンネルというやつです。私の親はマイチューバーで、そのチャンネルを運営する動画投稿者でした。ほぼ毎日、撮影漬けの日々でした」

 報道翌日に敢行された生配信にて、実子を自称する人物はそう語った。

「内容は他愛もありません。こども…… つまり私が玩具で遊んだり、公園で走り回ったり、兄妹でちょっとした寸劇をする様子です。それを親が面白おかしく編集し、字幕や効果音を付け、公開するのです。ほのぼのとした家族の様子が好評で、チャンネル登録者数は順調に増えていきました」

 カメラは自称実子を中央に捉えている。不透明のアクリル板が顔の前に置いてあるため、素顔を確認することができない。

「でも、あれは立派な肖像権の侵害です。自分の顔が全世界に公開され、半永久的にネットに残り続けるリスクを、私は親に説明された記憶がありません。仮に説明されたとしても、小学生ですから判断能力に欠けていたでしょう。つまり、親は相手の承諾も取らず私を動画に出演させ、それで広告収入を得ていたのです」

 熱の入った話しぶりに呼応するかのように、カメラがゆっくりとズームしていく。

「幸か不幸か、そのチャンネルは人気でした。国内でも指折りのチャンネルに成長しました。そのせいで、私は自身の恥を全世界に晒してしまっています。おねしょを叱られる動画もありました。妹に些細ないたずらをする動画もありました。ピーマンを母の目を盗んで父の皿に移している動画もありました。……先日、就職活動の際に面接官に言われたんです。君、あのチャンネルに出てた子だよね。昔よく見てたよ、って」

 カメラはゆっくりと回り込み、斜めの確度から表情を捉えようとする。しかし、アクリル板の位置が絶妙で、素顔は見えない。

「私は恥ずかしくてたまりませんでした。顔から火が出そうでした。私の愚かな面も、卑しい性格も、その全てが面接官に筒抜けだと思うと、いっそ死にたい思いでした。……私は、親を尊敬しています。親によく似ていると親戚一同からも言われます。今でも関係は良好です。しかしこの一件に関しては、心の底から恨んでいます。どうして私の顔を無断で世界中に公開したのでしょう。動画配信における肖像権侵害について、今まさに、弁護士さんと話を進めています。私のような被害者がひとりでも減るように、この活動の記録をお届けしていきたいと思います」

 すぅ、っとカメラが引き、自称実子は深々と頭を下げた。生放送だったので、些細なやり取りまで電波に乗っていく。

「よしっ、カット!アングル、よかったぞ。さすが俺の息子だ」

 それがちょうど良い高さだったのか、カメラはランドセルの上に設置されていた。褒められた撮影担当者は、乳歯を見せてはにかんだ。

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