第8話 無気力な司書

8話


「はあ……」


 6限目が終わり、早速今日から委員会活動が始まる。


 いつもなら喜んで足を運ぶのだが、今回は別だ。


 如月來夢が同じ委員会にいる。



「どうしてこうなったんだ……」


「何がこうなったの?」


「うわあ……!」


 

 背後から如月來夢が突然声をかけてきた。


 なんだよこの人……僕よりよっぽどステルス性能高いじゃないか、もうステルス神崎なんて恥ずかしくて名乗れないよ。

いや、別に名乗ってはないんだけどさ……




「あの、如月さん。驚くから急に背後から忍び寄るの止めてよねって言ったはずだけれど……」


「あ……!ごめんね?そんなつもりは無かったんだけど、せっかく一緒の委員会だし、一緒に行きたいな〜なんて思って」


「別に無理に一緒に行かなくてもいいんじゃないかな、どうせ同じ図書室には集まるんだし」


「え……!」




 如月來夢は身体をビクッとさせて、その後項垂れてこの世の終わりかと言うくらい明らかに落ち込んでいた。

 


 いや、そんな落ち込む……?




「ま、まあ今日は初日だし一緒に行こうか」




 すると如月來夢は物凄い素早さで顔を上げて「うん!!」と満面の笑みで相槌を打った。


 おい、さっきまでのテンションどこ置いてきたんだ君は





 色々と思うことはあるが、一応僕と如月來夢は一緒に図書室へと足を進めた。







 ――図書室――



 通い慣れた図書室へと向かい、入ってすぐのカウンターにある少し大きいフカフカの社長室にあるような椅子にふんぞり返って新聞を広げている男がいた。


 その者は僕の存在に気づき、死んだ魚のような目でこちらを見据えてくる。


 


「神崎また今年も図書委員かよ。相変わらず淡白な高校生活送ってんなあ」


「ほっといてください。それに僕は好きでこの委員会を選んでるんです」


「へえ、まあ俺はお前がいれば楽できるからいいんだけど」


 


 男は話半分に新聞を読みながら僕と適当に会話を交わしていた。


 


「渡邉先生、新年度一発目の委員会なので、今日は業務内容等の説明や各々の役割決めを行うんですよね?」


「あー、知らね。神崎お前適当にやっといて」


「いや、やはり最初は司書からの説明がしっかりないと……初めて委員会に入った生徒もいるんですよ?」


「無理無理、俺いまコボちゃん見るのに忙しいからパス」


「そんなの一瞬で読めるでしょうが……」


「あのな、俺くらいになるとこういう作品にも浸る時間が必要なんだよ。分かるか?」


「分かりません」


 

 

 相変わらずやる気の無さはホント変わらないなこの人は……


 僕は呆れ半分諦め半分のため息をつくと、隣にいる如月來夢が不思議そうな表情を浮かべていた。

 


 

「神崎くん神崎くん、この方は?」


「ああ、この方はうちの学校の司書の渡邉先生だよ」


「ええ!司書さん……初めて見た……」




 これが我が校唯一の司書、渡邉先生だ。


 常に白衣を身に纏い腕まくりをしている為、筋肉質な腕が見えている。


 容姿はダンディな男らしい四十代半ばの男性で髪はポマードの様なもので後ろに流している。


 本人曰く寝癖直すの面倒臭いからまとめて後ろに流しているらしい。

 だがそれが彼の容姿にはとてもマッチしている為、ちょっとしたハリウッド俳優の様な風貌している。



 同じ学校なのに如月來夢は初めて見かけたと言っていた。普通ならこんなに目立つ人、一度見たら忘れないはずだ。


 しかしそれもその筈だ。この人は基本ここでこうしてテレビを観るか新聞を読んでるかしかしてないからな……



 これでよくクビにならないよな……




 僕は渡邉先生の事は諦め、カウンターの奥にある部屋へと向かう。


 その部屋はガラス張りになっている為、外からその様子だけはよく見える。


 既に大半の生徒が集まっている様子だった。



 僕が部屋に入ると奥で座っていた一人の女性がニコニコとこちらへやって来た。




「先輩〜!やっぱ今年も図書委員なんですねっ!」


「今年も図書委員で悪かったな」



 

 その女性は「てへっ」と舌を出して誤魔化していたが、直ぐに隣の如月來夢に興味を示していた。




「あれれ、神崎先輩が女子と歩いてる……明日雨だっけ?」


 


 すると直ぐにポケットからスマホを取り出し天気予報のアプリを開いていた。



 このクソアマ……




「神崎くん、この子も知り合い?」


「全然知り合いでもないけど一つ下の雨宮 雫(あまみや しずく)だ」


「知り合いでもないんだ!?あ、あまみやですっ!よろしくお願いします〜」



 

 雨宮は十八番の逆ピースをしながら如月に挨拶をする。




「雨宮ちゃんか〜私は如月來夢って言います。今日から同じ図書委員同士よろしくね」


 

 

 如月來夢が爽やかに挨拶を返すと、雨宮は怪訝そうな視線を僕らに対して交互に向けてきていた。




「來夢先輩……でいいんですかね?來夢先輩は神崎先輩のコレですか……?」

 


 雨宮はクイッと小指を立てていた。



「え!?ち、違うよ全然そんなんじゃないよ!」



 如月來夢は赤らめた顔をブンブン振って否定していた。



「な〜んだよかった!神崎先輩奪われちゃったのかと思いました〜」


「奪われちゃったって……別に元々君の物でもないんだけど」


「またまた〜先輩ったら照れちゃって、こないだも二人きりでデートしたのに」


「で、デート!?」



 

 隣で如月來夢が泣きそうな顔であわあわと慌てふためいてこちらを見ている。




「あれはデートじゃない。雨宮がおすすめの参考書教えてくださいって言うから帰りに二人で本屋に立ち寄っただけだろ」


「けれど私にはデート判定です〜!」



 

 雨宮は両手を頬に当ててクネクネとしている。


 ホントこういうところあざといよなこいつ……




「そんな事より、もう委員会を始めないといけないよ」


「あ、そうですね〜じゃあ司書さん連れてきますか」



 そう言い残すと、雨宮は部屋を出て行って渡邉先生の座っている車輪付きの椅子ごと押して無理やり連れ……運搬してきた。


 もはや去年図書委員だった僕らの中では当たり前の光景であった。


 しかし、初めて委員会に入った者の何名かは目を丸くしてその異様な様子を窺っている。


 こうでもしないと来ないからなこの人……




「渡邉先生、ではお願いします」


 


 雨宮が渡邉先生にそう伝えると、先生は眠そうに部屋全体を見渡していた。




「あー、じゃあ後はそこの神崎って奴が教えてくれるからよく話を聞いておくように。俺は寝る」


「またこうなるのか……」




 雨宮が呆れ気味に言うと、切り替えて僕の方へと向き直す。



「では、神崎先輩お願いしま〜す」


「はあ……では新年度最初の委員会を始めます」

 



 

 

こうして新学期最初の委員会活動が始まった――

 


 

 

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