第3話 僕の親友が裏切るわけがない
大嫌いな君に恋なんてするわけがない3話
お昼休み――――
僕は教室で大和と購買で買ったサンドイッチを食べながら雑談をしていた。
大和は新しい担任の佐藤先生の魅力について終始熱弁していたが、僕は話し半分に聞いていた。
時折「へえー」「そうなのか」といった雑な相槌を打っている。
しかしそれでも大和本人は満足げな顔をしているので、これもまた正しいコミュニケーションの形なのだろう。
故に僕に罪悪感はない。
罪悪感――――
ふと、今朝に如月來夢から言われた言葉を思い返す。
「私、知ってるよ」
「諦めてないから……」
僕は彼女に嘘をついてしまった。
「罪悪感か……」
無意識に声に出てしまっていた。
それを聞いた大和は目を見開いた様子でこちらを見ていた。
「なんだ?何かあったのか?」
「……いや、なにも」
「話しにくいことか?」
「別にそういうわけではないけど……」
「とりあえず話してみろよ。打ち明けるだけでも意外とスッキリする事もあるぞ」
「……うーん」
大和はいつもこういう奴だ。親身になって相談に乗ってくれる。
「実はな――」
僕は終業式の出来事、今朝の出来事を大和に洗いざらい話した。
あまり他人に言いふらしていいような話では無いのだが、こいつの事だ。守秘義務はきちっと守ってくれる。信頼のできるやつだ。
きっとその持ち前のイケメンスキルでスマートな解決方法を提案してくれると期待していた。
しかし、僕の期待は悪い意味で裏切られた――
「ああ、知ってるぞ。だって如月から相談受けてたし」
……え?
「はあああああああ!?」
僕は柄にもなく大きな声を出し、両手で机を叩いて勢いよく椅子から立ち上がった。
その時の大和はビクッと後ろに仰け反っていた。
こいつ……だから今朝あんな行動に出たのか……
「わりぃわりぃ、ほら如月も一応友達だしさ?お前もあんな可愛い彼女できたら幸せ物だろ?だからサポートしてたって訳」
大和は「えっへん」と言わんばかりに胸を張っていた。
腹立つからそのドヤ顔やめろ。
「あのな、それが問題なんだよ」
「問題?なんで?」
大和は意表をつかれたようにきょとんとした顔をしていた。
「僕は誰とも付き合うつもりはないんだよ」
「彼女できない言い訳とかじゃなくて?」
殴るぞこいつ……
「違う。恋愛に興味が無いんだ」
「ふーん、確かにお前って全然女子に興味持たないもんな……え?お前まさか!そっちの趣味が……」
「もっと違うわ!!」
その微妙に後ろに下がるのをやめろ!
「そうか、それは悪いことしたな」
「いや、いいよ。大和も悪気があったわけでもないし、そっちこそ友達の板挟みじゃ大変だったろ」
「そうそう!そうなの!俺も苦労したわけさ」
両手を広げながら大和は「あっ……」と何かを思い出したかのような顔をした。
「どうした?」
大和は周りに聞こえないようヒソヒソと話し出す。
「どうやら如月の奴、お前のこと一年の頃から好きだったらしいぜ」
「一年の頃から?全く接点なんてなかったのにどうして……」
「そこまでは知らね、ただ熱心によくお前のこと見てたって噂だぜ」
僕を見ていた……
それであんな事を言っていたのか?
知ってるよ――――
僕は彼女と直接的な交流もなかったし、なんならクラスも違っていた。
スポーツで活躍……って訳でもないしな……
「分からないな……」
「何が分からないの?」
「それがさ……って、わあああ!?」
本当に心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらいに驚いた。
急に背後から現れた如月來夢の姿に不意をつかれたからだ。
何のことかと首を傾げながらこちらを見る如月來夢だが、相変わらず距離が近い……!もう少し離れてほしい。
「き、き、如月さん、急に後ろから声をかけられると驚くからやめてもらえるかな。
「へぇ〜??神崎くんの新しい一面発見〜!」
「いや、そうじゃなくてさ……」
如月來夢は僕のことなんてお構い無しに一人るんるんしていた。
本当にこの人……少しは話聞けよ。
「それで?神崎くんは何か困ってるの?私でよければ話し……」
「ごめん、今は大和と大事な話してるところだから」
「じゃあ三人で話そーう!三人寄れば文殊の知恵って言うしさ」
ダメだこの人!話を全く聞いてくれない!お願い神様助けて!
僕が投げやりに心の中で神頼みしていると、背後から扉の開く音がした。
「來夢〜?っと、こんな所に居たのね。急に走り出すから何かと思った……ああ、そういう事ね」
突如廊下から現れたのは水野葵であった。
最初こそ「やれやれ」と言わんばかりに呆れ顔だったが、僕と如月來夢の顔を交互に見てからニヤリと意味ありげな笑みを浮かべている。
「置いていってごめん葵ちゃん〜!」
「いいのいいの、あんたが飛び出した理由がわかったから、じゃあごゆっくり〜」
「あ、水野さん!待って、如月さん持ち帰ってよ」
「ちょっと神崎くん!?私をモノ扱いするのやめてもらえるかな!」
僕の問いかけに聞き耳も持たずにさっさと消えてしまった。
クソっ!もう神様と水野なんて信じない……恨んでやる。
「如月さん〜?ちょっと用があるから職員室来てもらえる?」
「あ、はーい!今行きます。ごめんね神崎くん!ちょっと呼ばれたから行ってくるね!」
「あ、ああ……」
先生ナイスタイミング!!今日から神信じちゃう!
僕は心の中で小さくガッツポーズをした。
「嵐のような奴らだったな……」
流石の大和も如月來夢の勢いに少し引いてる様子だ。
彼女はどうしてあそこまで超オフェンス寄りなコミュニケーションができるのであろうか
「とりあえず一安心だ」
「そうだな」
男二人はやっと訪れた平穏に安堵し、お昼休みがもうすぐ終わることに気がついた二人の身体には、一気に気だるさが増したのであった。
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