第2話 波乱の新学期

大嫌いな君に恋なんてするわけがない2話



「終業式に話したこと覚えてる……?」

 


 如月來夢はどこか怯えるように尋ねてきた。

 


「覚えてるよ」


 

 あの頃から気持ちに変化はない。ならば必然的に答えも変わっているわけもなく、僕はハッキリと応えた。

 


「今は誰とも付き合うつもりはないよ」


 

 如月來夢の握っている手は小さく震えていた。しかし僕にその気が無い以上、中途半端な優しさなど逆効果だ。

 

 

「理由は聞いてもいいのかな……?」

 

「……恋愛にその、あまり興味が無いんだ」

 

「嘘だよ」

 

「え……?」

 

「恋愛に興味が無いって嘘だよね」

 

「いや……嘘じゃないよ」


 

 僕は無意識に如月來夢から目を離してしまった。


 

「そっか……神崎くんが本当のことを言わないのは、私を傷つけない為でしょ?」

 

「違う。本当に心底興味が無いだけだ」

 

「ううん、神崎くん優しいもん。私は知ってるよ」


 



 知ってるよ――



 

 ――その言葉だけが妙に頭に残った。



 


 彼女の瞳はいつだって真っ直ぐだ。



そう、とても真っ直ぐで……



僕にはそれが眩しかった。


 


「知ってるって一体何を……」

 


 如月來夢は静かに僕の方へと歩み寄り、両手で力強く僕の肩を掴んだ。


 

「私、諦めてないから」

 


 その一言だけ告げて、如月來夢は足早に去っていった。





 

――――学校



 

 廊下には新しいクラス表が貼ってあった。



クラス替えは新学期における最大のイベントだ。

今年一年の運命が決まると言っていいだろう。

 


 神崎……神崎……っと、あった。

 


 どうやら僕の新しいクラスは三年二組らしい。

 そうだ、大和は何組だろうか……?

 


 僕は一組から順番にクラス表で西村という名前を指で追いながら探したが、ある事が分かった。

 


 一組に大和の名前が無い?うちの学校は二クラスしかない。という事は……



 

「よお、蓮!やっぱ今年は同じクラスだな!」

 


 鞄で後ろから軽く僕をどつきながら西村大和は現れた


 こいつ……さっきの事はもう忘れてやがるな――


 


「ああ、お前の言ってたこと本当だったな」

 

「そうだろそうだろ?俺らはそういう運命さだめなんだよ」

 

「それより、お前さっきの部活って嘘だろ」


 

 大和はギクッと軽く飛び跳ねるように驚いてみせた。

 

 分かりやすい奴だな……

 

 まあ本人に悪気があった訳でもないし、今回はいいか。

 こいつなりの気遣いだったんだろうし

 


「まあいいや、今年から宜しくな」

 

「おうよ!宜しく頼むぜ親友!」


 

 ニコッと笑いながら大和は肩を組んできた。


 しかし唯一の親友が同じクラスと言うのは少し嬉しいものがある。

 いつもであれば振り払う腕を今回はそのまま受け入れた。


 けれどここで問題が起きた。

 


「神崎くーん!西村くーん!」

 

「おお、如月も同じクラスか〜宜しくな」

 


 思わず鞄から手を離した。

 


「神崎くん!今年は同じクラスだね」

 

「あ、ああ……」


 

 この子なんでさっきあんな事があったのにこんな距離近いの?パーソナルスペースって知ってる?


 今日から如月の事は『パーソナルブレイカー』と呼ぶことにしよう。

 ビーム出そうだし


 

「來夢〜!」

 

「あ!葵ちゃんー!」


 

 小走りで歩み寄ってくる金髪の女子。

 水野葵(みずの あおい)である。


「んげっ……水野……」

 

「んあ?うわ、西村も同じクラスかよ。テンション下がるわ〜」

 

「それはこっちのセリフだっつーの」

 


 見えてないけど、二人の間に火花が散ってそうなくらいバチバチ睨み合っている。

 こういう時は空気に徹するのが吉……だったのだが


 

「ん?あれ、神崎も同じクラスなんだ」

 

「ああ、宜しく」

 

「ふ〜ん?」


 

 なにやらニヤニヤと何かを企んだような顔をしながら如月來夢と僕を見ている。

 

 

「葵良かったじゃん〜神崎と一緒だってよ」

 

 おい、余計なことを言うな水野


 

 そう言われると如月來夢は満面の笑みで


「うん!凄く嬉しいよ!今年は有意義な一年になりそう!」

 

「はは……あんた相変わらず正直な奴だね」

 

「だって神崎くんの事好きだから!」


 

その瞬間、明らかに周りからの視線が僕へと集まったのを感じた。如月來夢は美人で愛想も良く、男子からの人気が高いのだ。それをあんな大声で僕を好きなどと宣言をされたら見られ……いや、睨まれるのは無理もない。

 


「あんたもこんな美人な子から好かれるなんて今だけかもよ〜」

 

 肘でチョンチョンと水野は僕を小突きながら言った。

 

「そう。僕にはとても勿体ないくらい素敵な子だよ。だからあまりにも釣り合わない」

 

「そんなの來夢が好きなら関係ないんじゃん?」


 

 水野は怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 

「僕は気にするんだよ」


 

 そのまま如月來夢達に背を向け、僕は一人教室へと向かった。



 


 ――――教室


 新学期、新しいクラスという事もあり、朝から教室内は騒がしかった。

 きっと新たなこの環境に多くが胸を躍らせているのであろう。

 僕には何も関係ない事だが……


 

「はーい、席についてくださーい」


 

 ガヤガヤと騒々しかった教室に静寂が訪れた。

 中には小さくガッツポーズをしている者も……大和だった。


 

「インテリ系美人キターー!!」


 

 大和の一声をトリガーに教室中に歓声が湧き上がった。


 全く、馬鹿かあいつは

 

 しかし大和や他の男子連中が騒ぐのは無理もない。

 窓から差し込む光の反射によって際立つ綺麗な白髪のロングヘアーで、確かに僕から見ても超がつくほどの美人だ。

 


「はいはい、静かにしてね〜」

 

 という先生の一声で一斉に静まった。なんと言う団結力だ……

 


「今日からこのクラスの担任を勤めます。佐藤綾です」

 佐藤 綾(さとう あや)


 

 この先生が僕のクラスの担任になるのか――

 


 真面目そうだし、いい先生そうでとりあえず安心した。

 


「今年は高校生活最後の年。思いっきり楽しんで、素敵な思い出をたくさん作りましょ〜!」

 

 

 えいえいおーとでも言うように片手を上げ……



「キャッ!」



 足がもつれて転んでいた。

 


 大丈夫かなこの先生……


 問題は山積みである。

 

 

 しかしクラスの男子共が一斉に「おおー!」と盛り上がっていた。

 お前らなんで朝からそんな元気なんだよ……

 


 


 こうして先行き不安な僕の新学期は始まった――――

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