大嫌いな君に恋なんてするわけがない-unknown-

SAI

第1話 僕 は 夢 を 見 な い

大嫌いな君に恋なんてするわけがない-unknown-





「――また夢を見なかった」




外から差し込む光を鬱陶しげに見ながら、一人呟いていた。


 


四月六日

 

「行ってきます」

 


 新学期が今日から始まる。僕は高校三年生になり、平凡な学校生活を送っていた。

 世間一般の高校生ともなれば「新しい素敵な出会いがあるかもしれない!」とか「クラス替えあの子と一緒になれるかな?」といった期待と不安で胸がいっぱいであろう。


 しかし、それはあくまでである場合だ。

 

 神崎 蓮(かんざき れん)

 それが僕の名前なのだが、クラスでは『無情の神崎』『ステルス神崎』だの好き放題言われているらしい。


 

 なんだよ。ステルス神崎って……



 まあ、必死になって文句を言ったところで何も生まれないのでそのまま黙認している。というか見て見ぬふりをしている。

 


 そもそも元々から友達が多い方でもない為、クラス替えをしたところで何ら支障はないのだ。

 一からゼロに変わる。ただそれだけの事だ。




 しかし、あいつと別のクラスになるのは少し嫌な気もす――




 突如聞こえた足音に僕は顔を向けた。



「うっす!蓮!お前元気してたか〜?」

 

「朝から騒々しい奴だな」

 

「お?なんだおい、親友との久しぶりの再会にもっと他に言うことは無いのかよ?」

 

「自分で親友って言うな。それに先週会ったばかりだろ」

 

「あ、それもそうだな」



 こいつは西村大和(にしむら やまと)

 僕の唯一の親友。いや、友達だ。

 物好きな奴で、クラスに孤立していた僕に興味を持ち、何かと声を掛けてきていた。

 昔はこんなThe みたいな奴とは仲良くなれないだろうなと思っていたのだが、人生分からないものである。



「今年も宜しくな!」

 

 いつもと変わらぬ爽やかな笑顔でそう語り掛けてきた。ん?今年も……?


 

「今年も一緒のクラスになるのを知ってるかのような言い方だな。同じクラスかどうかもまだ分からないだろ」


 

そう僕が言うと、大和は人差し指を立てながら自信たっぷりげだった。

 


「チッチッチッ。俺らが同じクラスになる事なんて、この星に生まれ立った時から決まったもはや逃れられない運命なのだよ」


 

 何言ってんだこいつ……


 

「また何か新しいアニメにでもハマったのか」

 

「はっ……!?何故分かったんだ?」

 

「今までの自分の行動を振り返ってみろ。丸わかりだ」

 


 そう、大和は生粋のオタクなのだ。とても普段のキラキラ爽やかイケメンオーラからは想像の付かないくらい残念なオタクなのである。勿体ない。隣で一人「なるほどな〜」と頷いているが、自覚ないのかお前

 



「そういや今日から担任も新しくなるんだよな〜」

 

「そりゃそうだな」

 

「なぁなぁ、お前はどんな先生がいい?美人でちょいインテリ系とかだったら俺の高校生活にも多少スパイスが効いて良いんだけどな〜」

 

「なんだよスパイスって、いるかそんなスパイス」

 

「相変わらず女に興味無いのな、お前」

 

「大和、お前は日本の古き良き歴史に興味はあるか?」

 

「な、なんだよ急に……」

 

「いいから」

 


 大和は腕を組みながら「むむむ」と空を仰いでいた。


「うん。無い」

 

「お前、名前の割に現代人だよな」

 

「うるせ、ほっとけ」

 

「まあそれと同じことだ。誰しも興味のないことなんてたくさんあるだろう」

 

「ふーん、ならいいけどさ」

 



 こうしていつもの日常が始まる――






 ――はずだった。






 


「神崎くーん!」

 

「げっ……」

 


 僕は思わず足を止めた。

 


 そのよく通った明るい声を聞いて振り向かなくとも誰かを認識した。


 

 如月來夢(きさらぎ らいむ)である。

 

 

「あー!なに「げっ……」って!失礼だな〜」

 

「おっす如月。久しぶりだな」

 

「西村くんおはよう〜!終業式以来だね」


 

 如月來夢とは去年まで別クラスだった。けれど通学路が同じ為にこうして何度か交流があった。基本は大和が相手をしてくれるからとても助かっている。

 

 

 僕は如月來夢が苦手なのだ。

 


 如月來夢が大和と一通りの挨拶を済ませると頭を傾けてこちらを一点に見つめ始めた。なんだよその視線止めろよ。本当に目からレーザーとか出そうで怖いんだよ。




「神崎くんもおはよう〜!」

 

「あ、ああ……おはよう」

 

「神崎くん神崎くん!あのね、私この前神崎くんが観たって言ってた映画観に行ったんだけどね。凄くこう……血が沸き踊る感じがしたよ!」

 



 僕は先週大和と一緒に映画を観に行ったのだが、どうやら如月來夢も同じ映画を観たらしい。

 しかし、どうやってそんな事を知ったんだ?ほんの最近の出来事だぞ……

 



「そんな話しを如月さんにした覚えは無いのだけ……」

 


 そう言いながら振り向くと、如月來夢は一人で「んばー!んばー!」と何やら興奮気味に両手を高々と上げて話しを全く聞いていなかった。

 



「蓮。もちろん俺だ!」


 

 と何やらグッドポーズをしながらその白い歯を輝かせている大和がいた。お前余計なこと言うなよ……


 


「はぁ……別に映画なんて自分が観たい作品を見るべきだよ」

 

「神崎くんが観たならそれは私の観たい作品だよ!!」

 


 如月來夢はキラキラと少年のように目を輝かせながらこちらを見る。

この人いちいち距離が近いんだよ。社会的距離って言葉知ってる?だよ。

 

 なんて言えるわけもないのでこのままさっさと離脱しよう。

 


 

「そう。面白かったなら良かったね。じゃあ僕らは先に学校行ってるから」

 

「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!」

 


 もの凄い勢いで腕を掴まれた。本当に何この子……



「え……何どうしたの」

 

「神崎くん!今日は一緒に学校行こうよ」

 

「いや……今日は大和と一緒に……」

 

「そういえば俺部活で朝職員室顔出さないと行けないんだったわ!わりぃ蓮!先いくわ!」

 

「そんな……待てよ大和おい……!」

 



 ――行ってしまった。あいつ絶対に後で飲み物奢らせよう。


 

 落ち着け、今はそれどころじゃない。

 この状況をどうする……僕の苦手な如月來夢と二人きり。

 



「神崎くん。終業式の日に話してたこと覚えてる?」

 

「終業式……まあ、覚えてるけど」

 





 

 ――終業式

 



「神崎くん……ずっと好きでした!良ければ私の彼氏になってくれませんか!」

 


 その時の僕は凄く酷い顔をしていたと思う。

 


 もちろん好意を伝えてくれるのは嬉しいし、嫌な気持ちになった訳では無い。



 きっと彼女の気持ちにも嘘はない。

 前々から視線は感じていたし、大和の態度を見ていれば何となく察しはついていた。



 それでも僕は彼女の気持ちに応えてあげることは出来なかった。



 人はいずれ離れていくものだから――




 それなら最初からそんなもの手に入れなければいい。



 

 二度と同じ思いをしない為に、僕は徹底してきた。




「ごめん――」



 いつも彼女は一人だった僕に優しく声を掛けてくれた。同情のつもりだろう。直ぐに諦めるだろうと思っていた。




 それでも彼女は声を掛け続けた――




 きっと皆はそんな彼女を見てこう言うのであろう




 來夢は優しいね――




 そう、彼女は優しい女の子なのだ。



 誰よりも優しく人により添える。

 



 僕は――

 



 そんな優しい女の子が――




 






 ――――大嫌いだ。

 


 

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