第31話 (最終話)新たなる出会い。

メロ・スティエットは最後の方で泣いていた。

涙声で子供達にトゥーザーとして世界を守れと言っていた。

親として子供に願う事ではない。でもメロの考えで言えば生まれてこれたのも幸せになれたのもミチトとアクィの…リナ達の娘になれたからで、それに報いて欲しいと願っていた。


コーラルは驚きの表情で「おじ様…」と言うとオルドスは「コーラルには…、ううん、初めて聞かせたよ。これを聞けるのはメロさんの直系子孫だけだ。ヴァン君が凄いから話してしまったよ。メロの子供達は必ず初めての訓練の前にここにきてコレを聞く。そしてトゥーザーとして生きるんだ」と言った。


「それなのに義賊とか呼ばれてるって事は被害者は悪い奴なの?」

「まあ、悪い奴と言うか悪い事もしている貴族なんかだね。でもトゥーザーは裏側で生きるからスーゴイ君も表立って支援できないのさ」


ヴァンは昨日あったトゥーザーや今聞いたメロの言葉、そして自分ではなくなる危険を犯した三式の転生術の事を思いながら「なんかやだなぁ」と言った。


「ヴァン?」

「何か皆が知ってて皆で協力すれば良いのにって思ったんだよ」

オルドスは嬉しそうに「凄いね。ヴァン君は新しい風を吹かせてくれるかもね」と言った。


この言葉を聞いてヴァンはコーラルの連結術に繋がれて滑走術で南下していく。

ラージポットの南にも領地はあるので時間がかかる中、「なあコーラル」とヴァンが声をかけた。


「何?」

「この術ってもっと効率的に加速できないの?」


「は?今だって風の魔術で加速してるわよ?」

「足の裏に水を張って滑らせる方の水ももっとツルツルにするとか、足の裏に氷を張って滑らせるとかさ…」


「なにそれ…、考えた事なかったわ」

言われるがままに水をもっと滑らかにするように意識しながら水と足の裏の間に氷を張ると驚異的な加速をした。



そして大転倒をする。


「いてててて…、コーラル…無事?」

痛みで何が起きてるかわからないヴァンが目を開けると自分が偶然コーラルを守る形で抱きかかえている事に気付く。


コーラルは柔らかく少女らしい体付きでヴァンはドキドキしながら「コーラル!」と呼びかけると「う…、痛っ…」と言いながらコーラルは目を覚まし「ヴァン、守ってくれたの?」と言う。


「いや、違うよ」

「ふふ、謙遜なんて貴いわね」


コーラルは照れて真っ赤になりながら「カーブに対応出来なかったけど速かったわね。練習しなきゃ」と言ってから笑った。


傷だらけのボロボロでオッハーに着くとすぐにプレナイトの子孫は見つかった。


「お前達…、ボロボロだな…まさか親戚か?」

「はじめまして。私はコーラル、姓は伏せるわね」

「俺はヴァン、コーラルの仲間で友達」


この言葉にプレナイトの子孫は「本当に来るんだな、家で茶を出すから飲んで行ってくれ」と言って家に案内をした。


男の名はペリドットで真式だった。

「きょうだいで真式は俺だけだ。だから盟約に則って俺がここに残って残りのきょうだいは近くの村に嫁いだり移住したりしてる。スティエットが固まっても良い事はないからな」


「そうね。私はレスとサルバンの子よ」

「何?レスとサルバンのミックスか?」


間違ってはいないのだが、何となく引っかかったコーラルは「なんか嫌な言い方ね」と言うとペリドットは「まあそう言うな」と言って笑った。


ヴァンが会話に割り込む感じで「ねえ、ペリドットって呼んでいい?」と聞く。ペリドットは親戚でないヴァンが相手でも「いいけどどうした?」と言う。


「プレナイトとかパイライトのその後って聞いてもいいかな?」

「ああ、構わないぞ。プレナイトはアゲートの間に2人の子宝に恵まれて、この村限定だがスティエットとして力を尽くした。アゲートはその隣で幸せだったな。そしてパイライトは嫁に行きたく無いと言って村の子供を婿に取った。

少し中に入るとパイライトの孫達も住んでいる」

この説明にヴァンは本当に嬉しそうに「へえ、幸せそうで嬉しいよ」と言う。


「変な奴だな。親戚でもないのに案じてくれるのか?」

「うん。さっきトゥーザーの話を聞いたから幸せになって欲しいんだよ」

ペリドットはトゥーザーの話を聞いて「成程な、メロの家系は凄いな…。だがここはオッハーだからどうしても伝説には疎くて敵わん」と言う。


ヴァンが「あ、コーラル。ザップ様にこの本頂戴って言ってよ」と言いながら鞄から借りたばかりの本を見せる。

コーラルはやれやれとザップに確認を取ると「ヴァンにも、もう一冊あげるから気にせず差し上げるようにと言ってるわ」と言われた。


「へへ、ペリドット、この本上げるよ」

「あ…ああ、済まないな」


「いいって、これで伝説に詳しくなれるだろ?」

本を受け取ったペリドットは数ページめくってみて読める事を確認すると自分の横に置く。


「なあ、今日の目的ってなんなんだ?」

「一応、親戚がキチンと会いに来るって証明してくるように言われたのよね」


「…何を言う?」

「は?」


「オルドスは何回か声だけ聞かせてきていたぞ?」

「え?」

ここでそれこそ何の用事かわからなくなった一同だったがヴァンが「じゃあアレだ!」と言った。


「ヴァン?」

「何だ?」


「コーラルは100年くらい前の人だから友達増やしなって言うオルドス様達の配慮かもね」

「友達?」

「マジか?」


コーラルとペリドットがお互いの顔を見て返事に困っているとヴァンが「ダメ?ペリドットは嫌?」と聞き、ペリドットは「いや、そんな事はない…」と言う。

ヴァンはニコニコと「よかったじゃんコーラル」と言い、コーラルは嫌ではないもののわざわざ出向いた内容が友達作りだった事に微妙そうに「……そうね」と言った。



「ああ、忘れる所だった。プレナイトが遺したものがある。オルドスから言われていたらしい」

ペリドットが持ってきたのは箱に入った魔水晶でコーラルは…読心術を使うと中から声が聞こえてきた。


「来たな?誰だ?オブシダンの子か?グラスの子か?」

そう始まった声は「俺の子は2人生まれた。アゲートが真模式だからか2人とも真式だった。その2人の子で真式だったのはペリドットだけだからトウテの姓と共にロスの姓とスティエットの姓を話してある。困ったら頼ってくれ。子供達にはマ・イードは親戚達が努力してずいぶん良くしてくれたがそれでも大変だから頼られたら相談に乗ってやれと言ってあるしある程度はスティエットとして育てておいた」と言って終わった。


「プレナイト様のお言葉が入っていたわ」

「へえ、そうか」


ペリドットは魔水晶を一瞥しただけで視線をコーラルに戻す。


「気になるなら読心術を使えば聞けるわよ」

「まあ気が向いたらやるよ。あの爺さん長生きしやがったから10年経っても耳に声が残ってやがる。どうせ俺だけ真式だからコキ使えとかそんなもんだろ?」


「ふふ、困ったら頼りなさいと言われたわ」

「わかった。困ったら言ってくれ」

何となく殺伐としたやり取りにヴァンが「その前に友達だから今度何かご馳走持ってくるとかの約束しなよ」と言うとようやくコーラルも「あら、そうね」と言った。


「マ・イードの飯か…、爺さんが北部の串焼きを死ぬまでに食いたいって言ってたな。こっそり転移術で食いに行ってたが流石に年取って歩けなくなってからは我慢してた…ってか歯が弱ってたからな。ちなみに俺は食わせても貰えてない。直結転移術とかもっと進化したイメージだけで転移出来る転移術でも生み出してみろってよく怒られたよ」

ペリドットは懐かしむような、それでいて辟易とするような表情でプレナイトとの日々を思い出していた。


「ああ!あれ美味しいよ。俺の家も北部だから知ってるよ!」

「そうか、じゃあ楽しみにしておく」


「ご両親は?」

「あ?ここに居ると厄介ごとが舞い込むからって他の子供の所にさっさと移住したよ。俺の血筋は面倒事が嫌いみたいだ」

ペリドットはそう言って笑い、コーラルとヴァンはプレナイトとアゲート、そしてパイライトの墓に手を合わせてから帰った。

「今度、北部に誘うからお土産よりも食べに行こうよ」とヴァンが誘い、ペリドットも「ああ、いつでも言ってくれ」と言いながら2人を見送った。

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グラス・スティエットとコーラル・スティエット。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~ さんまぐ @sanma_to_magro

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