第30話 メロ・スティエットの願い。

一応黙って待っていたザップが「ヴァン、君が古代語で書いた製法は僕が添削をしておくから帰ってきたら読んでみてくれよ。そして君が一から書いて覚書の執筆者の所に君の名を足すべきだよ!僕達と名を残そう!」と言う。


まさかの言葉にヴァンが「えぇ?いいの?」と聞くとザップは「当たり前だよ!君の才能は素晴らしいよ!」と熱意漲る勢いで言うとヴァンは本当に嬉しそうに「へへ、ありがとうザップ様」と言った。


「ヴァン、もう行ける?おじ様の用事が長いと困るから行きたいのだけど…」

「うん。この先はコーラルの方が大変だから合わせるよ」


片付けはメイドが来て行うと言う説明で本当に部屋をそのままにして準備をしたヴァンは「じゃあヘマタイト、ご飯ご馳走様。美味しかったよ」と言うとヘマタイトは「大叔母様をよろしくお願いします」と言った。


「はぁ?なんで私がよろしくお願いされるの?」

コーラルはプリプリしながらラージポットに行くとこれまた面白くない。

オルドスもゴルディナもヴァンを褒める。

拗ねたコーラルが口を尖らせて「私って転移術係みたい」と言うとヴァンがヤレヤレと言った笑顔で「違うだろコーラル」と言う。


「何よ?」

「ようやく俺にも仕事が出来たから皆「良かったな」って言ってくれてんだよ。でもコーラルは術でも剣でも使えるからさ、子供の頃に皆から褒められ終わってるだろ?」


そう思うと術が放てた、剣が振れたと報告するたびに父母もオブシダンもグラスも「凄い」と言ってくれたし、オルドスとゴルディナも褒めてくれていた。


「…そうね」

「だからだよ。それに俺達は得意分野が違うからこうして仲良く出来るんだからさ、いいじゃん」


「…そうね」

「そうねばっかりだなぁ」

コーラルの機嫌が直った所でオルドスが「さて、話は済んだかな?」と言った。


「今日のお願いはヴァン君はクロ君の話で聞いているよね?」

「うん。でもザップ様とヘマタイトが居たから内緒にしておいたよ」

これもヴァンの機転に感謝をして「正解だよ。ありがとう」とオルドスが言う。


「おじ様?ヴァンがトゥーザーに言われたって?」

「コーラル、君はグラスの活躍をアクィさんとヨシさんから聞いたね?その中でプレナイト・ロスの名が出たはずだ。彼はオッハーで生涯を閉じた。妻子に囲まれて幸せな人生だったよ」


「グラスの真模式のマスターになった方ですね」

「うん。その子の子孫との繋がりを持って欲しいのが今回のトゥーザーからのお願いさ」


「なぜですか?」

「まあ、一つはプレナイトの遺言を子は守っても孫は眉唾だと思うだろ?そこにコーラルが行く事で信憑性が得られるだろ?」

オルドスの言葉を聞いて納得したコーラルは「わかりました」と言う。


「コーラルはオッハーへは?」

「いえ、行ったことはありません」


「どうする?滑走術で行くなら国境から3時間くらい。ミチト君の連結術があるからヴァン君も連れて行けるよね?嫌ならゴルディナに頼むかい?」

「お姉様はラージポットからあまり離れてはいけない身ですから自力で行きます」


オルドスとコーラルの話が落ち着いた所でヴァンが手をあげながら「…オルドス様、一個気になっていたんだけど聞いても許されますか?」と言う。オルドスは嬉しそうな困り笑顔で「ヴァン君の質問は怖いなぁ」と言った。


「答えられなければパスしてください」

「それなら…と言っても私は黙秘が苦手なんだよ」

そう言ったオルドスは「言って良いよ」と言ってヴァンを待つ。


「アクィ様のお話だと、ここでプレナイトが転生術でミチト・スティエットになったんですよね?」

「そうだね。そしてオブシダン、グラス、プレナイト、パイライトの4人に言葉を送った」


「アクィさんには聞こえなかったけど、リプレスサウンドの中でグラスさんがミチト・スティエットの言葉を貰って奮起した話は本当ですか?」

「うん。模式ごと攻撃を受けた時、後のアゲートがグラスさんを庇ってウインドブレイドで切り裂かれた時、助けたかった模式達の死で放心した時にミチト君の言葉で立ち上がったね」


「こちらもグラスさんは目の当たりにしていないけどアゲートさんの支配権をプレナイトが奪う時にミチト・スティエットが言葉をかけてくれたんですよね?」

「うん。その通りだよ」


ヴァンの質問が理解できなかったコーラルが「ヴァン?」と聞くとヴァンはコーラルを見て「グラスさんもだけどコーラルはそれを聞いてどう思ったの?」と聞く。


「どう?おじ様が転生術でミチトお爺様になってくれて言葉を送ってくれたと思ったわ」

「うん。だからグラスさんもオルドス様に感謝を告げたけどオルドス様は「何もしていない」って返したんだ。でもオルドス様は謙遜しても何もしていないとは言わないと思うんだ」

この会話でコーラルが言われてみるとと思い違和感に気付くとオルドスは「…やっぱりヴァン君は怖いなぁ、よく気がついたね」と言った。


「質問です。グラスさんとプレナイトに言葉を送ったミチトは誰が転生術を使ったんですか?」

「トゥーザー君さ、まあ昨日会ったトゥーザー君のお爺様だね。トゥーザーは世界を見張っていて、仲間の…スティエットのピンチや世界の混乱を見逃せないんだ。だから私の元に訪れてミチト君の遺髪を使って転生術を使った。

彼らの転生術は言うなれば三式、継続した記憶の継承を可能にしている。だからミチト君は私から聞いていた事もあったけど、プレナイトの時にはグラスの事も覚えていたよ。まあ術者が変われば一からだから今のトゥーザー君が使えば前みたいにはいかないけどね」


「やっぱり…。でも三式って問題無いんですか?問題なければコーラルと戦ったヘマタイトやオルドス様は使いますよね?」

「君は怖いなぁ。本当に怖い。まだ若いのに本質を見抜き、そしてその距離感で何でも聞いてくる。そう、継続した記憶の継承を可能にした三式には欠点がある。混ざるんだ。徐々にだが転生術で対象に近づいてしまう」


「それをしてでも世界を守るのがメロの子孫なんですね?」

「うん。メロさんは実子ではないのに実子以上の愛情を貰った恩返しがしたいと言っていたんだ、そしてそれを子供達に伝えた」


ここでヴァンの耳に女性の言葉が届く。

「ママを許して欲しいの。ママはね…本当ならこんなに幸せな人生は歩めなかった。寒い山の中で何一つ成せずに生きた…ううん、もしかしたらママの生みの親に殺されたかもしれない。現にママは一度生みの親に殺されそうになってパパ…あなた達のお爺ちゃんに助けて貰ったの。

ママはね、大人になって少し調べたの。ママの産みの父はもう別の…幸せな人生を送っていた。

そんなママが今こうしていられるのはパパのおかげ。

パパが闘神として国を守ってくれたから…」


「これ…、メロ・スティエット?」

「そうだよヴァン君」


オルドスが手でヴァンを制すると言葉が続く。


「この前、パパの50歳のお誕生日に少し話してきたの。パパはママやタシア達がスティエットを名乗るのは良いけど、その後は皆ママやお母さん…おばあちゃんたちの姓を名乗るように言った。ママは元々スティエットだからスティエットでもいい。お婆ちゃん達は、皆は好きな名前を名乗れるように言ってくれた。だからママはトゥーザーを名乗って欲しいと思う。

そして…本来なら生まれてこられなかったあなた達にはパパの代わりに世界を守って欲しい。

その為の力は子供の頃から鍛えたから出来るよ。平穏な暮らしを捨てて生まれてきた事に報いて…お願い」

そう言ってメロの言葉は終わった。

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