第29話 ヴァンとザップ。
早朝、コーラルが起きるとベッドに居ないヴァンを見て徹夜仕事だった事を察してリビングに行くと「ヴァン…まさか本気で終わらせたの?」と聞く。
眠そうなヴァンはヘトヘト顔で「やったよ…、オルドス様の所にも行かなきゃいけないし、ザップ様ってば中に古代語のメモ書きを入れててさ「ある程度やれるようになったらオルドス様がトウテに入れてくれてウブツン先生がスティエットに書いた手紙が読めるよ」ってあったから頑張ったよ。俺さあんなに教えて貰ったの初めてでさ、砦の皆は見て学べだから嬉しかったし、また教わりたくなったよ」と言って疲れているのに嬉しそうに笑う。
「ふふ。貴いわね」
「そうかな?コーラルやヘマタイトの方が貴いよ。本を守ってくれてたろ?」
「まあ、国宝だから守るわよ」
「ありがとうコーラル」
そこに現れたのは朝食を持ったヘマタイトとザップだった。
「ザップ様?」
「あれ?ヘマタイトだおはよう」
ザップは早朝にも関わらずテンション高く「朝ごはんを持ってきたから食べると良いよ!その間に添削するからね!」と言い、横でヘマタイトが「…朝一番にウチに来て叩き起こされてコレです」と言う。
ザップは驚くことなくヴァンの訳文と古代語を読む。
「ザップ様?ヴァンは全部やったのに驚かないんですか?」
コーラルの疑問にヘマタイトがヴァンを見て「何?ヴァン君は無限術人間の覚書の翻訳とジーフーの手順の追記作業を一晩でやったのかい?」と聞く。
そしてザップは「驚いているよ!とんでもない才能だ!僕が今冷静で驚かないのは朝一番にオルドス様がヴァンはもう終わってるよと教えて貰ったからだよ!だから妻を叩き起こして王都まで転移して貰ったんだ!!」と言う。
暫く真剣に読んだザップは朝食を食べ終えて風呂に入って居なかったヴァンが風呂から出た所で「ヴァン、素晴らしいが初めが肝心な所を厳し目に言うよ」と話し始めた。
「ここ、訳文だがなぜ素体の年齢を10歳未満と書いたんだい?」
「え?ここって若いってあったから、俺の住んでた砦は10歳を若いって…」
ザップの怖い聞き方にヴァンは不安げに説明をする。
「そこだよ。正しく訳すなら「素体は若年者程」とするんだ。君の「素体は10歳未満ほど」は正しくないよ。訳す時は主観を混ぜずにフレッシュな訳を心がけなさい」
教師として、古代語と古代神聖語を愛しているザップだからこそ見逃せない部分だったが、ヴァンには理解できないかもしれない。
怒られた事でザップや古代語を忌避する可能性もある。
ザップはそれでも言わずにはいれなかった。
それは恩師ウブツンが行った事と同じだった。
だがヴァンは「あ…そうなんだ!ありがとうザップ様!」と言って感謝を口にする。
「え?」
「え?」
驚いたザップは「怒られて泣くとか、嫌になるとか」と聞くがヴァンは「教えて貰うんだから仕方ないって!これが砦なら拳骨付きだよ!」と明るく言う。
そんなヴァンにザップは感動をしながら次々に問題点を指摘する。
大半は主観が混ざっていた事と、単語のチョイスミスであった。
そして書いた方は文法こそまだまだだが単語のチョイスは悪くない。
ザップは「よく無限記録盤が古代語で書けたね」と褒めるとヴァンは覚書を指差して「見ながらだから何とかなったよ」と笑う。
「成る程。だが文法が甘いのは何故だろう?」
「文法って何?よくわからないんだよね」
ここでザップ達はヴァンの勉強が独学だった事に気づき、現代語も文法が滅茶苦茶な事を知る。
「成る程、文法は今度一から教えてあげるよ」
「ありがとうザップ様!」
「ふふ、そういえばスティエットも読み書きが苦手で古代語と古代神聖語ではキチンと文法が守られていたのに現代語ではそれが出来てなかったから仕込んだとウブツン先生が言っていたのを思い出したよ」
これにはコーラルが「お爺様もですか?」と言って驚いていた。
話のキリが良い所でヘマタイトが「それにしてもオルドス様の呼び出しとは何だろうか?」と言うとヴァンが「あー…、一晩経ったから言っていいのか。昨日国営図書館に黒のトゥーザーが来てオルドス様がお願いあるから行けって言われたんだよ」と言った。
「え?ヴァンはトゥーザーに会ったの?」
「うん。コーラルの棺を回収する様に父さんに頼んだのは自分だって言ってたよ」
「…ヴァン君、何か聞き出せましたか?」
「ヘマタイト?」
「君の対人スキルは見事です。何かヒントのような…」
「あー、トゥーザーも同じ事言ってたよ。だから仲良くなったよ」
何か聞き出せたかと思って聞いたヘマタイトはまさかの仲良くなったというヴァンの発言に「な…仲良く?」と聞き返してしまう。
ヴァンは「うん」と言った後で「とりあえずトゥーザーはオルドス様達のお許しを得て、ザップ様達より一段下で直接手出しはしないけど世界を見守ってくれてるんだってさ」と説明をした。
「…それを聞き出したんですか?」
「うん。世界中を術で見守ってくれてて、それはメロの教えなんだってさ。でもそれをする代わりに手出しできなくて今回もジーフーの事を何とかできて良かったってさ」
この説明にヘマタイトも思った事や聞きたい事があったのだろう「…ヴァン君、今度トゥーザーに会ったらヘマタイトが会いたいと伝えてくれませんか?」と言った。
「良いけど、捕まえようとか無しだよ?」
「…わかりました」
「んじゃあ今度会ったら言っておくよ」
ヴァンは今もトゥーザーが見守っている事を察していて返事をする。
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