第5章

第181話 すずの振袖

 年が明けた。

 長かった一年もようやく終わり、新たな年が始まる。


 大晦日はあきらの家で過ごした。

 だが、結構な長時間部活のグループ通話を繋いでいたため、あいつと二人だったという印象は薄い。

 美味しいご飯を食べて、おばさん達と四人で炬燵に入って、久々に家族空間を楽しめた。


 当然いかがわしい事は起きていない。

 ありがちなお風呂凸もないし、キスをせがまれることもなかった。

 年が明けた後は自宅に帰って寝たため、以前のように同室で寝ることもしない。


 とまぁ、そんなこんなで日は経ち、今日は初詣である。

 クリスマスに約束した通り、すずと二人でやってきた。



 ◇



「おはよう」

「お、おう。おはよう」


 待ち合わせはすずの家。

 午前十時に彼女の家を訪ねると、すぐに玄関前に現れる。

 それはもう綺麗な振袖姿だった。

 髪型もいつもと違ってちゃんとセットされていて、髪飾りが可愛い。

 意外性は勿論だが、それよりもシンプルに似合っててつい見惚れてしまった。


「変じゃない?」

「めちゃくちゃ似合ってる」

「えへへ。お母さんにしてもらった甲斐があった」

「そっか」

「まぁレンタルだけど」


 そう言ってふにゃっと笑うすず。

 やはり顔はいつも通り幼い。

 でも逆に、服装と格好のギャップでまたドキッとした。


「なんか俺だけ普通の格好でごめん」

「ううん。でも、あきらにもらったコートと凛子ちゃんにもらった手袋つけないの?」

「……すずと二人なのに、別の女の子からのプレゼントを身に着けるのは違うだろ」

「確かに。しゅうきは優しいね」

「そうか?」

「うん。気遣い嬉しい」


 会ってからずっとニコニコしているすず。

 あまりにも無邪気過ぎて心が洗われる感覚だ。

 気まずくてつい目を逸らしてしまう。

 具体的なワードは口に出さないようにしているが、実質ただのデートだからな。

 気を引き締めて行こう。


「じゃあ行くか」

「寒いから手繋ぎたい」

「すぐそこの家から手袋取ってこいよ」

「……いじわる」


 毎度のやり取りをしながら、俺達は歩き始めた。

 今日向かうのは近所の神社である。

 そんなに有名ってわけでもないし、規模も大きくはないが、近所の人は結構立ち寄る場所だ。


「大晦日の通話楽しかったね」

「そうか? お前途中で寝てただろ」

「ん。すず毎日日が変わる前には寝るから」

「なるほど」

「寝る子は良く育つって言うでしょ。だからすずは背が高いし、お尻もおっきい」

「へぇ」

「しゅうきは違うの?」

「どうだろうな。別に大食いってわけでもないし、そんなお前みたいに寝てるわけでもないし」


 俺の場合は遺伝的なものだろうか。

 父親は百八十以上あったし、母親も百七十はあった。


「でもおっぱいはあんまり育たなかった。無念」


 悲しそうに言うすずにかける言葉は見つからない。

 なんて言うのが正解なんだ。


「あきらみたいになりたかった」

「あれはあれで大変そうだぞ。よく動きづらいとか邪魔とかぼやいてたし」

「でも多分、こういう着物は似合う。帯にどしっと乗せたい」

「ってか俺は何を聞かされてるんだ」

「想像して興奮した?」

「別に」

「むぅ、色仕掛け失敗」


 割と本気で唸るすず。

 やはりどこか攻め方を間違えている気がする。


「そう言えばクッキー全部食べたぞ。めっちゃ美味しかった」

「ほんと?」

「あぁ。個人的には無難にチョコの奴と、あと抹茶みたいな奴が好きだった」

「あれは力作。弟でかなり試した」


 口にクッキーを詰め込まれる弟君の顔が容易に想像できる。

 いつも文句ばっかり言っているくせに、都合のいい時だけ利用か。

 すずらしいと言えばそうだが、やはり弟君が不憫だ。

 いや、あの弟なら姉の手作りクッキーを食べられて幸せに感じているかもしれない。


 しかし、料理の腕は確かだ。

 一体どこで身に着けてきた能力なんだろうか。


 ふと隣を見ると、すずは俯いていた。


「どうかしたか?」

「ううん。なんでもない」

「そっか」

「……うん」


 少し顔が赤いすずの返事に、俺は頬を掻く。

 たまに初心だから困ったものだ。


 俺達はそんな感じでとりとめもない会話をしながら、神社へ向かった。

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