【閑話】第179話 隠し通せ
※唯葉ちゃんの視点です
◇
クリスマス会をした夜の事、わたしは一人ベッドに転がっていた。
時刻は午前二時。
既に日は変わり、クリスマスも終わってしまっている。
「楽しかったなぁ」
みんなで色んな話をして、プレゼント交換をして、ご飯を食べて。
最近はテスト勉強だったり、部活だったりとあんまり集まって遊ぶことがなかったし、久々に楽しめてよかった。
良い息抜きになった。
これでこれからも部活頑張れそうだ。
それにしても、千沙山くんはあのプレゼント喜んでくれたかな。
みんなが女の子らしいプレゼントをしている中、文房具だもんな。
あきらのプレゼントは凄かったし、すずの手作りクッキーも可愛かった。
凛子に関しては教室等で悩んでいたのも知っているし。
みんな、想いを込めていた。
千沙山くんの事が大好きっていう気持ちが、見ているわたしにも伝わってきた。
唯一姫希だけは実用的なプレゼントだったけど、それも彼女らしい。
わたしも何か気の利いたものを用意した方が良かったかな。
でもなんだろう。
マフラーとか?
いやいや、流石に気合入り過ぎだ。
わたしまで千沙山くんの彼女レースに参加していると思われてしまう。
「ふぅ……」
暖房のついていないわたしの部屋は極寒。
ため息が白く色づく。
もう、冬なんだ。
「柊喜くん……だったっけ」
あの日も、こんな寒い冬の日だった気がする。
思えば、わたしと彼の出会いは一方的で、一目惚れと言っても差し支えがないものだった。
中学二年生の時にチラッと目に入った他校の試合。
そこで躍動する一人の少年に釘付けになった。
背が高いのに体格に頼らず、ドリブルもシュートも上手で見ごたえ抜群だった。
カッコよかった。
わたしもあんな風になりたいと思った。
後に年下だと知った時は目が飛び出そうだった。
初めて会話したのはその次の大会。
偶々連続で同じ会場だったこともあり、わたしはずっと彼を目で追っていた。
そんなわけだから、彼が帰る際に水筒を忘れた事にもすぐ気づいた。
慌てて取りに帰ってきた千沙山くんにわたしはものすごく緊張した。
ドキドキした。
だから、つい上から目線でお姉さんぶって色々言ってしまった。
彼は面倒くさそうにわたしを見ていた。
嫌われてしまったと思って数日落ち込んだ。
彼は、中学時代のわたしにとって憧れだった。
それと同時に、初恋の人だった。
だから脳内で妄想する時には、いつも"柊喜くん"と名前呼びしていた。
それなのに。
「実際呼べないよ、柊喜くんなんて。流石に気持ちバレちゃいます」
わたしは今でも彼——”千沙山くん”の事が好きだ。
再会してからもずっと意識していた。
彼は気付いていないだろうけど、わたしはずっと、好きだった。
だけど、この気持ちを伝えるわけにはいかない。
それは千沙山くんに負担をかけてしまうから。
それにあきらやすず、凛子との関係も壊したくないから。
それなら、わたしが一人で我慢していればいいんだ。
「あはは、なんでだろ。強がり過ぎちゃったかな」
パジャマに涙がこぼれてきた。
苦しいに決まってる。
今日だって、胸が締め付けられそうだった。
『……本当にしちゃいそうだから、マジでやめてくれ』
あきらの肩を強く掴んでそう言った千沙山くんを見た時、このままどうなっちゃうんだろうって思った。
本当にここでしちゃったらどうしよう。
そのまま勢いで最後まで……?
色んな事を考えて、静かに興奮していた。
釘付けになっていた。
わたし、変態だ。
千沙山くんが他の女の子としちゃうのなんて絶対嫌なのに、確かに興奮してた。
今も思い出してドキドキしてる。
脳内で妄想が止まらない。
一旦落ち着こう。
このままじゃダメだ。
明日の部活でボロが出る。
わたしが千沙山くんの事を誰よりも最初に想ってて、ずっと気持ちを隠している性悪だってみんなにバレてしまう。
先日未来ちゃんに得意げに語ったけど、わたしだって相当なクズだ。
あの子に言った嘘つきは凛子の事じゃない。
他でもないわたしの事だ。
わたしは、嘘つきだ。
わたしは絶対に千沙山くんに気持ちを伝えない。
何があっても。
二人で一緒に勉強をしている時、毎日溢れ出そうで辛かった。
そして幸せだった。
彼がわたしのために色々考えてくれて話してくれた時、泣きそうだった。
お母さんの前で庇ってくれた時、張り裂けそうだった。
でも、全部隠しきれた。
わたしの気持ちは露呈されず、誰からも勘付かれていないはず。
だから、これからも大丈夫。
ずっと我慢しておこう。
きっといつか他に好きな人だってできるはずだから。
自分で決めたことだもん。
だから望んじゃダメなんだよ。
手を繋ぎたいとか、キスしたいとか、そういうことは考えちゃダメ。
考えれば絶対に行動に現れる。
わたしは子供じみた先輩で、女子バスケ部のキャプテン。
恋愛感情なんてないし、えっちな妄想もしない。
押し殺せ、わたし……。
「今日、お姉ちゃんいないよね」
ボソッと呟いて確認する。
クリスマスは友達と遊ぶと言っていて、まだ帰ってきていない。
だから隣の部屋は無人だ。
両親の部屋も一階。
それにしても寒いな……。
「千沙山くん、わたしも……好きなんだよ? ずっと、ずっとカッコいいなって思ってたんだよ……。黙っててごめんね、ごめんなさい」
その日は、なかなか眠れなかった。
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