第178話 フェアプレー精神
しばらくしてすずと姫希と凛子先輩が一緒に帰ってきた。
結構な時間が経った気がしたが、意外と十分くらいである。
あきらとのやり取りに心を乱してしまっていただけらしい。
時刻は午後六時を回っており、外はとっくに日が落ちて暗くなっている。
こういう変化を見ると、冬だなぁと実感する。
「しゅうき、これあげる」
「なんだこれ」
「プロテイン」
「お前が飲むもんだろ……」
帰宅したすずにボトル入りのプロテインを渡され、困惑する俺。
別に体作りはしてないんですけど……?
むしろこいつらに飲んで欲しいくらいだ。
とりあえず受け取りながら、他の二人に目を向ける。
「何買ってきたんだ?」
「僕はアイス。あと、唯葉とあきらと柊喜君の分もあるよ」
「マジですか。ありがとうございます」
「わー、ありがとうございます!」
「ありがとう凛子ちゃんっ」
「ふふ、大丈夫だよ」
付いて行かなかった俺達の分まで買ってくれていたとは。
「冷凍庫借りて良い?」
「どうぞ」
基本的に自炊はしなかったし、冷凍庫はスカスカなのだが、一応凛子先輩に教える。
と、その後で俺は一番重そうな袋を持っている姫希に聞いた。
「お前は何を買ったんだ?」
「……お菓子とか」
「とか?」
「……わかってるでしょ。聞かないでくれるかしら」
「まぁ、練習の後だしな。腹も減るよな」
「そ、そういうことよ」
恐らくチルドの弁当とか、おにぎりなんかが入っているのだろう。
今日は全員でほぼ同じ量しか食べてなかったし、当然か。
ちょっとムスッとしながら座り込み、早速おにぎりを頬張り始めた姫希が何だか微笑ましい。
こいつの凄いところは、これだけ食べてて見た目がスリムなところだよな。
身長があるわけでもないし、一体その栄養はどこに行ってるんだろう。
◇
そのままゆるりと過ごした。
特に何かをするわけでもなく、ただ雑談したり、ぼーっとテレビを流し見したり。
でもそんな時間が心地よくて楽しかった。
もうそろそろ帰ろうとみんながし始めた時、すずが口を開く。
「年末もみんなで過ごしたい」
「年越しか」
確かに、今年最後のイベント日だよな。
一緒に過ごさなきゃいけない家族もいない俺は勿論暇だ。
だが、他の人はそういうわけにもいかないだろう。
「わたしは家族と過ごすので、年末は無理ですね……」
「僕も実家に帰るつもりだからさ。流石に顔出しておかなきゃアレだし」
「あたしもそうね。弟の面倒見ておかなくちゃいけないわ」
やはりクリスマスとは違ってみんな忙しいらしい。
「むぅ。じゃあすずと二人っきりで」
「すず、私のこと忘れてない?」
「あきらは家族と一緒に過ごすんじゃないの?」
「そうだけど、毎年そこに柊喜も一緒だから。同じご飯食べて年越して、新年のあいさつも一緒にするんだよ」
「そうだな」
例年年末年始はあきらの家で一緒に過ごしている。
何度も言っているが、俺とあきらは家族同然の関係だったからな。
「ってかあんたはダメでしょ。あのシスコン弟が許さないと思うけれど」
「……それは」
「すずが男の子と一緒に年越しとか聞いたら失神しちゃうよ」
「あいつほんとにウザい。嫌い」
「そんなに言ってやるなよ」
ここでも散々な言われようで不憫になってきたぞ。
確か一真君だったっけ?
大事な家族だろうに。
「っていうわけだから、今年も柊喜は私が独占だね」
「やだ!」
「あはは、どうせうちの親もいるし、何もできないって。流石にお母さんには私の気持ち話してないし」
「じゃあいいや」
随分あっさりと引き下がるものだ。
実際あきらの家だったらおかしなことはできないだろう。
ただ、さっきの話があるから若干不安だ。
大丈夫だよな……?
「あ、柊喜が嫌なら来なくていいけど」
「おばさんに挨拶はしておきたいんだよな」
「多分だけど、私も変な気分にはならないと思う。お母さんとお父さんいるし」
「あぁ」
俺達も複雑な関係だ。
お互いに異性として意識はしつつも、その裏でやはり家族としても認識している。
まぁヤバそうなら逃げ帰ればいい。
おばさん達に恋愛の話なんて勘付かれたくないしな。
「いいよ。でも初詣はしゅうきと一緒に行きたい」
「あぁ……わかった。一緒に行こう」
「約束だから」
一瞬あきらの方を見ると、頷いて見せたのですずの提案に乗った。
フェアプレー精神に溢れた奴らである。
そんなこんなで女子達は全員帰宅した。
長い、クリスマスだった。
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