【閑話】第135話 幼馴染と元カノ
ヤバい、どうしよう。
学校サボっちゃった。
「うわー、ホント最悪だよぉ」
ベッドで呻き声を漏らしながら、ゴロゴロする私。
高校に入学して半年、初めてずる休みをしたような気がする。
いや、どうなんだろ。
「ひっどい顔してる。昨日の柊喜の事言えないよ……」
自室の鏡で自分の顔を見てため息を吐く。
これは普通に体調不良の人間の顔だ。
仮病とは言えないかもしれない。
お母さんも私の顔見て学校に電話してくれたし。
「みんな今頃部活してるのかな」
夕方だし、学校は終わっているはずの時間だ。
姫希と昨日電話した時に部活を休むことも伝えたけど、みんなに迷惑かけちゃったよね。
最悪だ私。
試合まで残り時間少ないのに、なんでこんな時に……。
しかも相手は幼馴染だし。
「柊喜、めっちゃ困ってた」
明らかに動揺していた。
でもしっかり視線も感じた。
自分が変態になったみたいで少し怖いけど、正直ドキドキした。
どうなっちゃうんだろうって思った。
でもあいつはいつも通りだった。
確実に意識しているくせに、風邪ひくぞとか心配するだけで全然手を出してこなかった。
「……どっちなんだろ」
わかんない。
私が家族同然の関係性だからそういう気が起きなかったのか、私の体じゃえっちしたくならなかったのか。
いつもよりがっつり視線は感じたけど、あれはなんだったんだろう。
「うぅ」
思い出して恥ずかしくなった。
体が熱くなる。
何してるの私。
なんで柊喜に全部見せちゃったの……。
気持ちを伝えるタイミングも間違えたかもしれない。
カーテンを開けると、柊喜の家の壁が見える。
我慢できなかったんだ。
旅先でのすずとの話もあったし、幼馴染という立場を利用して近づくことが嫌になっていた。
だから急だったけど、伝えることにした。
後悔もしていない。
確実に前には進めた。
柊喜はようやく私を女の子として意識してくれたんだから。
でもそれが嬉しい以上に恥ずかしくて、少し寂しくて。
「はぁ……」
そんな事を考えていた時だった。
インターホンが鳴った。
お母さんは今買い物に行っていて、家には私しかいない。
「はい……?」
仕方なく玄関を開けると、待っていたのは意外な顔だった。
「久しぶり」
「未来ちゃん?」
「しゅー君筆箱忘れてて、それを渡しに」
「……」
そっか。
柊喜に直接渡すのは気まずいから私経由で届けようとしてくれたんだ。
と、そんな未来ちゃんは私の顔をじろじろ見てくる。
「なんか顔色悪いね」
「う、うん。一応欠席してたから」
「そうなんだ。風邪? そういえばしゅー君も顔色悪かったけど」
「……」
柊喜も体調悪かったんだ。
絶対私のせいだよね。
ホントに悪いことしちゃった……。
「まぁでもあの人、さっき伏山さんと二人でどっか行ってたけど」
「え?」
「なんか用事があるとか言ってたけど、なんなんだろうね。その前にもしゅー君をフった時にどんな心境だったのかとか聞かれたし」
「ッ!?」
「どうしたの?」
「……」
……どうしよう、泣きそうだ。
こんな形で柊喜の気持ちが分かるとは思ってもいなかった。
柊喜はやっぱり私の気持ちに応えてはくれないんだ。
だってわざわざそんな事を聞いたって事は、私の事を振ろうとしてるってことだもん。
当たり前だよ。
私達は家族なんだから。
先にルールを破ったのは私。
悪いのは私で、柊喜は正しい価値観を持っている。
家族に恋愛感情を抱いちゃった私がおかしいんだ。
だけど、ショックな事には変わりない。
「伏山さんとしゅー君って付き合ってるのかな?」
「……そ、そんな事はないと思うけど」
「最近しゅー君いつも女子といるじゃん。誰だっけ、あのー、なんかべったりしてる子いたよね。隣のクラスの、えーっと」
「すず?」
「そう、黒森鈴さん。あの人と付き合ってるのかな? なんかやだなぁ」
「なんで?」
「私の事は無視しておいて他の女と付き合うとかイラつくじゃん」
「……最初に酷いことしたのは未来ちゃんでしょ」
「それはそうだけど」
自分が道を踏み外したなら、相手を責める権利なんてないはず。
この子はやっぱり変だ。
でも、唯一の柊喜の彼女でもある。
そんな事を考えると複雑な気持ちになった。
「しゅー君ってデートの時とかめっちゃ緊張してて可愛かったなぁ。手繋ぐ時もちょっと挙動不審でさ」
やめて、聞きたくない。
「一回隣の席になった時あるんだけど、授業中私が当てられて困ってたら横から答え教えてくれて。で、それが間違ってるの。超ウケるよね。何してんのお前って」
ぼーっと思い出しながら言う未来ちゃんの顔に、胸が痛む。
嫌だ、嫌だ。
前はなんとも思わなかったのに、柊喜の事が好きだと自覚した今は、二人の話なんて聞きたくない。
「ま、でもあきらちゃんは安心だよ」
「……え?」
「だって絶対しゅー君と付き合おうとか思わないでしょ? あの人もあきらの事はないって再三言ってたし。大事な家族だからそういうのじゃないって」
「……うん。ごめん、ちょっといいかな」
「どしたの?」
「立ってたら気分悪くなってきちゃった。うつしちゃまずいし、今日はこの辺で」
「あ、そっか。ごめん」
「筆箱は柊喜の家のポストにでも入れておいて。じゃ」
「うん。お大事に」
耐えられなくなって扉を閉めた。
そしてそのまま階段を上って自室に入り、ベッドに倒れ込んでそのまま泣いた。
世界の全てが敵に思えてくる。
なんで私がこんな思いしなきゃいけないのって思ってしまう。
だけどわかってるんだ。
全部私のせいだから。
私が恋しちゃいけない人を好きになったのが悪いんだから。
「柊喜、助けてよ……」
朝から大して水も飲んでないのに、止めどなく涙があふれた。
◇
【あとがき】
お世話になっております。瓜嶋 海です。
今回をもって三章は幕引きといたします。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます。
三章は主にあきらの描写を多めにしましたが、いかがだったでしょうか。
ざまぁというよりラブコメ感が強い章でしたね。
四章は大まかに流れも決まっているので、引き続き毎日更新できるように頑張ります。
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