第129話 伝えよう
※過激な描写があります。
◇
自宅へ戻る際、俺とあきらは二人で帰る。
これは帰り道が一緒だから仕方のない事だ。
一応旅先であんな出来事があった事もあり、俺達は慎重になっていた。
家に帰り着くと、あきらは重そうなバッグを下ろして大きく息を吐く。
「疲れた~」
「そうだな。お疲れ様」
「あはは。お腹空いたよね。なんか作るよ」
「無理しなくていいぞ? 俺なんか買ってくるし」
「ううん。大丈夫」
こんな時にまで働かせるのは忍びない。
だけど、あきらは大げさだなぁと笑いながら続ける。
「先、お風呂貰っていいかな」
「うちで?」
「うん。一回家帰って戻ってくるの面倒だし」
「それは確かに」
俺としても別に問題はない。
この場には二人しかいないし、あらぬ誤解も生じないからな。
「……お風呂あがったら伝えるね。なんで私がバスケ始めたかってこと」
「あ、あぁ」
「じゃ」
心なしかそっけなく言って風呂場へ向かうあきら。
その背中を見ながら俺はソファに座る。
久々の家なのに、少しそわそわした。
出先から帰ったばかりで、まだ気持ちが落ち着いていないのだろうか。
恐らくそうだろう。
あきらが風呂に行ってから暇になったため、俺はスマホを見た。
と、クラスのグループに未来が戻っているのを見つけた。
俺が女バスのコーチを始めてから約二ヶ月だし、あいつとのごたごたも結構前の事なんだなぁとしみじみ思う。
未来にフラれてから、色んなことがあった。
あきらに女バスに誘われて、コーチをすることになって。
姫希にマンツーマン指導をしたり、すずに好意を寄せられたり、凛子先輩に好きだと言われたり、オンオフのけじめがカッコいい唯葉先輩の一面を見たりした。
今回の遠征合宿だって、二か月前では考えられなかった。
そもそも五人揃ってもいなかったし。
そして何より、俺がこうしてまたバスケに関われる日が来るとは思ってもみなかった。
中学の時の無念は自分の中で残っていたため、形は違えど、やり直せる機会がもらえたのは素直に嬉しい。
その機会をくれたのはあきらだ。
あいつが、俺をまたこの道に戻してくれたんだ。
後で改めて感謝を伝えようと思う。
そんな事を考えていると、風呂から出てきたのが分かった。
すぐに体を拭く音がする。
しかし。
「はぁッ!?」
次に聞こえたのは衣擦れの音ではなかった。
扉の開く音だった。
当たり前で、表れたのは一糸纏わぬ幼馴染の姿。
子供の頃に見たものとは全く異なる全身を見てしまい、俺はすぐに目を逸らす。
何してるんだよコイツ!
「ば、馬鹿! 服着ろよ!」
「ごめん。ちょっと、無理かも。そもそも服ないし」
「はぁ!? じゃあなんでそのまま風呂に入ったんだ!?」
着替えがないのに風呂に入る馬鹿がどこにいる。
それも実家ならまだしも、他人の家で。
いや、俺の家もあきらにとっては実家みたいなもんだろうが、流石に同い年の異性である。
そのくらいは気を遣って欲しい。
見ないように顔を背けながら言うと、あきらは答えた。
「……見て欲しかったから」
「……え」
頭が真っ白になった。
全身から血の気が引いて行く。
「ごめん柊喜。私馬鹿だから、これくらいしか伝える方法わかんなかった」
「……」
顔はめちゃくちゃ熱い。
だけど、反対に背中とか手先とかは冷えている。
そして頭も意外に冷静に働いた。
だからこそ、あきらの言わんとすることがなんとなく読めてしまった。
「こっち見て」
俺だって男だ。
見てと言われて反射的に首が動いてしまう。
そこで再度視界に捉えた。
初めて見る女の子の裸。
正確には過去にあきらと裸の付き合いをしたこともあったのだが、それはノーカンだろう。
二次性徴を迎えた女の人の裸を見るのは初めてだった。
普段、服の上からでもわかるほどの大きさの胸は、実際に見ると綺麗で、ハッと息を呑んでしまう。
彼女は真っ赤な顔で俺を見つめていた。
「好き」
「……」
「柊喜の事が、私大好き」
「……」
「異性として……好きです」
あきらの選択は正しいんだと思う。
恐らく、どんなに真面目なトーンで告白されても、俺はすぐに理解できなかったと思う。
だって家族としか思ってなかったから。
もしかしたら受け入れず、軽く流したかもしれない。
だけど、こうして体を見せられて。
流石に俺も意識する。
というか、本能とは残酷で、俺自身の体も反応していたし、あきらをそういう対象として判断していた。
彼女の告白を本気で捉えざるを得なかった。
「私の好きは、ちゅーとか、えっちとかもしたいっていう好きなの」
淡々と気持ちを伝えられ、俺はただ視線を返すことしかできなかった。
真っ直ぐに俺を見つめるあきらから目を逸らすことはできなかった。
彼女は潤んだ瞳で、肩を上下させながら続ける。
「これで縁が切れるならそれまでだもん。でも……私、他の女の子と公平に戦いたかったから」
崩れ落ちるようにへたり込むあきらを、俺はただ茫然と眺めた。
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