第123話 お姉さんに恋愛相談
「さっむ……」
今日は一段と冷える。
もう昼だというのに、吹き付ける風が氷のように冷たい。
まるで俺達の今の空気感を表しているようだ。
そう、俺達女バスの雰囲気もまた、冷え切っている。
どうしよう。
ヤバいヤバいと思うだけじゃ何も変わらない。
行動を起こさねば。
だがしかし、どうする。
凛子先輩が言っていた通り、俺が下手に動けば状況はむしろ悪化するだろう。
それだけは避けたい。
現在、控室で着替えや休憩をしている部員とは、別行動をしている。
昨日と同様だ。
……正直、今はそれがなくても距離を置くべきだろうが。
先程の試合は最悪だった。
点差というより、内容が酷い。
リズムも狂っていたし、全員上の空感が否めなかった。
特にすずだ。
動き云々の前にずっと塞ぎ込んでいたし、顔色も悪かった。
全部俺のせいだ。
原因が分かっているため、叱ることもできなかった。
というか、そんな事をする資格なんて俺にはないと思った。
結局二十分間傍観することしかできていない。
今頃控室で何を話しているんだろうか。
全員心配だし、申し訳ない。
すずだけじゃなく、俺の事を好いてくれている凛子先輩だって嫌な気になっているだろう。
それに、あきらだってそうだ。
俺なんかと勘違いされてショックだろう。
大きくため息を吐きながら俺はあてもなくフラフラ歩いた。
さっきからため息が止まらない。
「あら。千沙山君じゃん」
「彩華さん」
「どしたの。ため息吐いて」
「……」
歩いているうちに駐車場の近くまで着ていたらしい。
唯葉先輩のお姉さんと遭遇した。
「さっきの試合酷かったね~」
「見てたんですか?」
「全部見てるよ。たまに動画も撮ってる。家に帰ったら両親に唯葉の晴れ姿を見せてあげようと思って」
「それはいいですね」
「目に浮かぶよ。涙目でやめてくださいって懇願する唯葉の姿が。可愛い」
唯葉先輩から話は聞いていたが、だいぶ鬼畜な姉だな。
完全におもちゃ扱いである。
と、そんな俺を見上げながら彩華さんはくいっとバスを指した。
「君お昼まだでしょ? 一緒にどう?」
「え?」
「困った顔してるからさ。よかったら話聞くよ。大人のお姉さんに甘えなさい」
「……」
若干胸を張ってそういう彩華さんに、いつかの唯葉先輩の姿が重なって見えた。
やっぱり姉妹だ。
似ているところもある。
「っていうか、一人でご飯食べたくないから来てよ。結構時間空いてるでしょ?」
「わかりました」
どのみち控室にも帰れなかったし、丁度いい。
食欲はないが、俺は彩華さんの提案に乗ることにした。
◇
「で、どうしたの? なんかあった?」
「……」
「顔色めっちゃ悪いし、今にも泣きそうな顔してるよ」
「流石にそれはないです」
最後に泣いたのなんていつだろう。
少なくとも中学以降ではない気がする。
しかし、俺の返答に彩華さんは首を振った。
傍から見たらそんなに酷い顔をしているのだろうか。
「どうせ痴情の縺れでしょ?」
「え?」
「何そのなんでわかったんですか?みたいな顔。バス内での会話とか、周りの反応見たらわかるっての」
「……そうですか」
「特にすずのショックそうな顔見てたら察しが付くよ。いつもべったりなのに、さっきは珍しく口もきいてなかったし」
すずは事あるごとに俺に絡んでくる。
そんな奴が急に塞ぎ込んで話さなくなったら、違和感を覚えるのが普通だろう。
「で、どうした?」
「……昨日幼馴染を慰めるのに、ハグしたんです。それを実は他校の女子に見られてて、さっき、みんなの前でバラされちゃって」
「うわー、きっつ。可哀想」
「……」
彩華さんはうどんを啜りながら、あちっと声を漏らす。
今はコンビニで買ったうどんを近くの公園で食べている。
「なるほどね~。すずがあきらに嫉妬しちゃったんだ?」
「そ、そんな感じですかね」
自分で言っていて顔から火が出そうになった。
なんだよ、俺に嫉妬するって。
いつからそんな大層な男になったんだ。
「モテる男の子は大変だね」
「勘弁してくださいよ」
「でもそうじゃん。多分今後もずっとこういう問題と付き合っていくことになると思うし」
「……」
すずと凛子先輩が俺の事を好いてくれている間は、そんな事も起こりうるだろう。
だけど、こんなイレギュラーな状況が長く続くのか?
そこに関しては甚だ疑問である。
「こんなの初めてなんですよ。人から好意を寄せられたり、ましてや複数人から同時になんて……」
「えー、モテそうなのに。背高いし」
「まさか。高校に入るまで彼女の一人もできませんでした」
「そりゃ君、幼馴染がいたんでしょ?」
「まぁ、はい。それが何か?」
「いや、何か?って。あんな子が隣に居たら普通は手を出そうなんて思わないよ」
確かにそれは一理あるかもしれない。
俺とあきらがどうこうというより、単純に身近に女の子がいる男子を好きにはならないだろう。
未来と付き合っている時も、あきらとの距離感は少し慎重に考えたし。
「でもそっか。そんな事があったんだね。そりゃ荒れるわ」
彩華さんは頷きながらうどんを味わう。
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